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Re: 毒舌裁判官の日常 ( No.5 )
日時: 2011/01/07 14:56
名前: 霧雫 蝶 (ID: /gz88uq5)
参照: http://http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

昌明の向かった場所。
昌明の仕事=裁判官=法廷と連想される。
実際にそうであった。
クリスマスカラーのジャンパーを着た男は裁判所へと足を運ぶ。
分厚いガラス製のドアを押したとき、昌明の周りには春が来たようだった。
家に暖房器具なし、外の寒さも変わりなし……。
春が着たように体が感じるのも当たり前だろう。
「こんばんは。お名前と証明書をどうぞ」
証明書というのはこの裁判所のみで使われている人物認証で、一番初めにこの役職に付いたとき手渡される薄いカードのようなものである。
そのカードを機械に通し、正常に作動しなければその人物は『偽者』となる。
「斉藤 昌明」
自分の名前を言うのは簡単なのだが、次の『認証』は本物のカードを持っていると知っていてもかなり緊張したりする。
「少々お待ちください」
受付の人は分厚い一冊のファイルと取り出し、指で
なぞりながらその名前を探す。
一つの名前のところで指を止め、昌明が差し出した
カードを受け取った。
そこから数十秒間、沈黙が続いた。

「……はい、ご本人様と認証いたしました。
 どうぞ法廷のほうへ」
その言葉を聞いてホッ、と一つため息が
出てしまった。

ここからがこの男の本戦である。
さすがに法廷にクリスマスカラーのジャンパーを着ていくわけにはいかない。自分の控え室へと
自然に足は向かう。
ロッカーを開けると、いつものようにサラリーマンが着るような黒いスーツがかかっていた。
それを着るのにまだ慣れていない昌明は
毎回、二十分ほど時間がかかってしまう。
「裁判官!まだですか?」
痺れを切らした法廷の役人が彼をせかす。
「はいはい、今行きます。ところで……今日の
 議題は?」
「十六歳の少年が万引きです。まぁ……本当ならここ
 に来るような年ではないんですけどね」
「ほう、ではどうして」
「今回で六回目なんですよ。そこで……」
「そこで?」
「昌明さんの毒舌で。という事になりまして」
「わかりました」

キィ、と法廷の扉が開かれた。
傍観者は興味深そうに自分のことを見世物のように
見る。
立っている16歳の少年は自分のことを静かな目で
見つめていた。
法廷に一瞬のざわめきが起こる。

「それではこれより、裁判を始めさせていただきす。
 まず、被告人。キミの言いたいことは?」

「僕は……物なんて取っていません」
「でもね。あるんだよ、証拠ってものがね〜ほら
 見てみるかい?」
取り出された数枚の写真。
監視カメラの映像だった。そこには確かに少年と同じ顔の人物がバックに店の商品を入れている。
動かぬ証拠だった。

少年はしばらく黙り込んだ。
「おや、何も話さないつもりかい?話が進まない
 じゃないか。キミももう16歳だろ?
 その反抗はどう見ても10歳くらいの子が見せるもの じゃないかな?」

傍観席に座っている人物達は、一斉にメモを取る。
ほとんどが新聞記者。
つまり、この昌明の言葉を朝刊に載せるつもりでこの法廷にわざわざ来ているらしい。

「僕は10歳じゃありません!!」
「じゃあ、話してごらんよ。キミがこの監視カメラに 映っている人物ではないって言うのなら」
「それは……」
昌明はおどけた口調と顔に張り付かせた冷たい笑みで話を進める。
「言えないだろ?キミが思っているより監視カメラの 証拠は強いんだよ。それとも何かな?
 自分自身も証拠を持っているとでも?」

それを待っていたように少年は手に持っていた
レシートを昌明に見せた

「このレシートは僕が母さんに頼まれて買ってきた
 商品が書かれています。
 レシートの店はその監視カメラの付いている店と
 1kmほど離れています。
 このレシートの発行時間は、僕が映っている監視
 カメラの映像と一分ほどしか変わりません。
 僕が買い物に行って、違うその1kmも離れている 店にダッシュで万引きにしいったとでも
 思いますか?」

その言葉を聞いた昌明はクスクスと笑い始める。
すかさず裁判長からの喝が飛ぶ。
「昌明君!」
「ああ、すみません。
 ねぇ、少年。そのお店のレシートが証拠になると
 でも思っているのかい?
 もし、そう思っているんだとしたら小学三年生
 くらいからやり直したほうが
 良いんじゃないかな?」

お〜。傍観者から声が漏れる。

「な、なんでですか?」
昌明は冷たい笑い顔で話しかける。
「だってそれ、去年のでしょ?
 君はろくに数字も数えられないのかな?
 それとも僕の目がそんなに悪いようにでも
 見えたかい?」

しばらくの沈黙が流れる。

「はい。僕がやりました」

その言葉が聞けたのは、裁判開始から一時間半経過
した時だった。


次の日、新聞にその裁判のことが
大きく取り上げられた。

『毒舌裁判官の裁き』

というどうにも不可思議な大見出しで。