コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: サクラ ( No.2 )
- 日時: 2011/01/03 15:23
- 名前: 柚莉愛 (ID: LV9Enekb)
第3話 「桜の木の下」
「あった!?」
「ない・・・。」
玲奈と夏は授業を抜け出し
廊下で探し物をしていた。
Sのイニシャルのピンクのラメキーホルダー。
サイズは大きめで、
見つかりやすいはずなのにどこにもない。
時刻は9時55分。
タイムリミットは刻一刻とせまっていた。
「安藤君・・。もういいよ。見つかりっこないも ん。」
玲奈は諦めの声で夏に言った。
「大切なものなんだろ?諦めんなよ。松井が朝通ってきたとこ一通り探そう!」
夏はまだ諦めていない。
玲奈は不思議だった。
どうして人のためにここまでしてくれるのか。
諦めないのか。
「うん。」
玲奈も夏の気持ちを無駄にしたくないと思った。
二人は残り5分にかけて、必死で探し始めた。
玲奈が通ってきた道に沿って。
しかし間に合わなかった。
1時間目終了のチャイムが鳴ってしまったのだ。
「あぁ・・。鳴っちゃった。もう処分されちゃったんだろうな・・・・。安藤君、授業までサボらせてごめんね。探してくれてありがとう。」
玲奈は笑顔でお礼を言った。
——桜ちゃん・・なくしてごめんね
玲奈が教室に戻ろうとした時だった。
「何言ってんだよ!まだ外探してないじゃん。」
夏が呼び止めた。
玲奈が振り返ると夏はピースサインをして笑っていた。
この時から玲奈は
夏のことを意識していたのかもしれない。
玲安は自覚していなかったが。
外もまんべんなく探した。
残るは玲奈が朝、
あのキーホルダーを握って見つめた桜の木。
——ありますように
玲奈は祈った。
「これじゃね?」
夏がSのピンクラメキーホルダーを掴んだ。
玲奈は今度は嬉し泣きした。
「良かったな。見つかって。」
夏も嬉しそうだ。
——安藤君っていい人だったんだ。
玲奈は心から夏に感謝した。
その時、2時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「あっ!まだ急げば間に合うよ。行こうぜ!」
夏が玲奈の手を引き走り出す。
玲奈は一方的に掴まれた腕にドキドキしながら走る。
夏はふと、玲奈のほうを振り返って言った。
「松井のイニシャルってSじゃないよな?」
玲奈は一瞬どきっとしたが答える。
「う、うん。Sは私の大切な人のイニシャルなの。」
それを聞いた夏は少し黙ってから呟いた。
「俺の大切な人のイニシャルもSだよ。」
夏はそれだけ言うと咄嗟に前を向いた。
「えっ・・・?」
玲奈は気になった。
夏の大切な人とは誰なのか。
しかし、教室に着きクラス中の視線で
一気に現実に戻されたのだった。
2時間目の授業は担任の田村の英語だった。
「あら?松井さんも安藤君もどこ行ってたのぉ?」
「前の授業で松井さんがお腹痛いって言って保健室に連れてったんですけど、行く途中で治ったんで戻ってきました。」
夏が苦しい言い訳をした。
しかし田村は納得したようだった。
「そっかぁ。お大事にね。」
玲奈は小声で返事をすると、夏と共に席に着いた。
——どうして安藤君はこんなに優しくしてくれるんだ ろう
不思議だった。
数日前とは違う感情を抱いていた。
好きという気持ちとは違うのだ。
玲奈の視線に気づいたのか、
ノートをとっていた夏が横を向いた。
「どうしたの?」
玲奈は先ほどのお礼と共に、
自分でも信じられないことを口にした。
「さっきは助けてくれてありがとう。これからは夏って呼んでいい?」
夏は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑って
「いいよ。俺も玲奈って呼ぶよ?」
と言った。
玲奈は自分で言った言葉に自ら驚いていた。
男子を呼び捨てするなんて・・・・
男子から下の名前で呼ばれるなんて・・・
しかし、このとき玲奈は何も知らなかったから
こんなことを言ったのだろう。
夏の過去を知っていたら
こんな言葉は発さなかっただろう。
そして、夏も知らなかった。
玲奈の過去を。