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- Re: Multiplex Cross Point─S2─ ( No.7 )
- 日時: 2011/01/07 12:39
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
Multplex Cross Point─SeasonⅡ─ Episode1
Part1 会談予定
”灰燼の風”との戦いから一ヶ月が経った。
季節は晩秋から冬に変わり、曇天からは蕭々と粉雪が降っている。
”真の敵”。
その存在を知ってから一ヶ月の期間を経て、”荒廃せし失楽園”の魔術師達は戦いの準備を進めてきた。
ダージスが命を懸けて魔術師達に知らせた”真の敵”との対峙の為に。
だが、状況が一変する。
「ふざけんじゃねぇッ!!」
聞き慣れぬ、柚葉 クロトの怒声が響き渡る。
音源は、魔術組織”荒廃せし失楽園”が本拠を構える建物の会議室と呼ばれる部屋から。
組織の長を務める、ひょっとこ仮面は仮面の奥の瞳を動かし、憤怒の感情を滲ませるクロトへ視線を投げ掛けた。
会議室の机に凄まじい勢いで拳を叩き付けた彼に。
「俺の言った言葉が解らなかったか?」
一触即発の雰囲気が会議室を支配する。
”これからの進退を決定する”という内容の会議が豹変し、集まった魔術師達は沈黙を守った。
発言が可能な状況では無いからだ。
普段は飄々とした態度のクロトが憤怒の感情で豹変し、総帥に喰らい付いているのだから。
もう一度だけ言うぞ、とひょっとこ仮面は言う。
「”魔導連邦”の要請で”灰燼の風”との決戦についての報告の為に会談を行う、との事だ」
全ての魔術組織を統括する魔術組織。
その存在こそ”魔導連邦”。
それは、かつてクロトが属していた”賢者の矛”という魔術組織を壊滅させた組織。
だが、彼は”荒廃せし失楽園”と”魔導連邦”の会議に反対は唱えなかった。
彼が憤怒の感情を見せてまで反対を唱えたのは、
「…その会議に俺を連れて行くってのは、どういう了見だ」
彼の言葉に、ひょっとこ仮面は飄然と答えて見せる。
君だからこそだ、と。
「俺が奴らに抱いてる感情を知ってって、そんな事を言ってんのか!?」
「連邦との会談で君が憤怒を撒き散らすとでも言うのか。君は其処まで自分の感情を御せぬ人間だったか?」
飄然と、ひょっとこ仮面は言葉を続ける。
畳み掛けるが如く、憤怒の感情に身を任せるクロトへと。
「俺は君の”事情”を知っている。だが、君は感情を御する事が可能な人間だろう。だからこそ、君を選択した」
この会談に臨むべき人間の一人として。
ある意味、その言葉はクロトにとって、過去との対峙を意味している。
彼には自信が無かった。
かつての仲間達を殺した組織の者達と相対し、冷静でいられるという自信が。
仮に会談に赴き、自分の憤怒の感情を御せず暴発したら…。
そんな風に考えると、クロトは恐怖に駆られた。
だからこそ、同伴は避けたいと願っていたのだ。
ひょっとこ仮面から「お前は来なくて良い」という言葉が欲しかった。
そんなクロトの思考を知りながら、敢えて仮面の男は飄然と告げる。
「決定事項を変える気は無い。クロト、俺に付いて来い。…己の過去と対峙する為に」
ひょっとこ仮面の言葉に、クロトは肯かなかった。
否定の言葉すら吐かず、彼は会議室の扉を勢い良く蹴破って、逃げる様に外へと去って行く。
その背中を、魔術師達は呆然と見送る事しかできなかった。
静寂が抱擁する会議室に沈黙だけが過ぎる。
ふと、その沈黙を打ち破ったのは、ひょっとこ仮面だった。
「会議を閉会する。諸君は譜条市の治安維持に務め、職務を全うする事。解散!!」
会議は終わった。
過去との対峙に恐怖を抱いた一人の青年を欠けさせたまま。