コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

次元不適合者 一次元目 ( No.44 )
日時: 2012/03/10 16:36
名前: 麿ん堂 (ID: EE33HIRZ)

春。出会いと別れと花粉の季節。まぁ私は花粉症ではないのだが、さっきから擦れ違う人は皆マスクをして辛そうにしている。5分前に見かけたおっさんはティッシュを箱ごと持ち歩いてた。今朝見たニュースのお天気コーナーのお姉さんもマスクをして目を充血させていた。今年の花粉は例年より酷いらしい。ふむ、私も花粉症にならないように気を付けなければ。ふむふむ、と頷きながら大通りを歩く。
今日は私の中学デビューの日である。なんと、市内トップ校である。学力的にはあまり凄くはないが、設備は普通の市立中学とは違って凄いらしい。敷地内にコンビニがあったり、湖があったり、電車が通ってたりするらしい。まぁ全部噂で聞いた話だがな。でも本当にあったら凄いと思う。というか、本当に市立か?と疑いたくなる。そんなものがあったりするのはお金持ちが通う学校じゃないか、普通。
あと、その学校は周囲を桜の木で囲まれていて近所では「桜の学校」なんて呼ばれてたりするんだと。おいおい、桜が咲いてない時期は意味がないじゃないか、その名前。なんてネーミングセンスに疑問を抱きつつ歩き続けると、目の前に桜のトンネルが姿を現した。その桜の根元には「桜庭学園中等部入口」という看板がある。…おい、こっちも季節ガン無視なのかよ。

トンネルの中を歩きながらごそごそと鞄を漁る。入学式の手続きの時に係員に渡すことになっている入学証明書は、今のうちに取り出しておいた方が楽だしな。大事な書類をしまっておく用のファイルから入学証明書を取り出して、真新しい制服の胸ポケットに入れておく。よし、これで準備は万端だ。
時折、風がザアッと吹いて桜の木を揺らす。そして周囲から湧き上がる女子の悲鳴。…お、白地に緑のしましま…………いや、これは不可抗力だ。たまたま前を歩いていた女子の短いスカートがひらりと捲り上がって、ちらりと可愛らしい下着が見えてしまった。すべてはいたずらな風とスカートを短くして着ていた女子のせいだ。私は何も悪くない。
しかし…………うーん、入学初日から制服を着崩すというのはあまりにも早すぎやしないだろうか……。確か学校の規則で制服のスカートは膝が隠れるまでの長さと決められていたようだが……。それに4月と言ってもまだ肌寒いから、そんなに短くては身体を冷やしてしまうだろう。ふわり、とまた風がスカートを揺らした。くるぶしに裾が当たって少しくすぐったい。

しばらく歩いていくと校門らしき建造物が見えた。……随分とデカいな。軽く3メートルはあるんじゃないだろうか。そして無駄にキラキラしている。少々装飾が派手すぎやしないか…? 太陽の光が何かに反射して私の目を攻撃してくる。畜生、チカチカして目が痛い。
近づくにつれてその反射していたものが分かった。校門なのに宝石を埋め込むなんて……ここは本当に市立の学校か? もしかして市立と私立を間違えたとか?
そんな事を考えてみたが、校門の横にある金色のピカピカした物(おそらく純金だろう)に掘られた文字を見てみたら「市立桜庭学園中等部」と掘ってあったので、安心した。普通の家庭に中学から私立に行かせる金なんてないからな。

校門を通り抜け敷地内に視線を向けた瞬間、私は言葉を失った。…………なん、だ……これは……。眼前には市立の学校とは思えない光景が広がっていた。

まず、校門から校舎までの距離が遠すぎる。遅刻しそうなときはどうすればいいんだ、設計者よ。軽く7、8分くらいかかりそうなんだが……しかもそこまでの通路が無駄に広い。それは綺麗にレンガで整備されていて、その両脇の花壇には美しい花が行儀良く咲いている。
そして1番の問題点はアレだ。……何故、電車が構内を通ってるんだ…………!! どう見てもおかしいだろ! アレは!! 噂は真実だったのか…………。
深い溜め息を吐きながら私は入学式の受付へ向かった。私はこんなところで3年間過ごさなければならないのか…………いや、この学校はエスカレーター式だと母さんから聞かされていたような……………………マジか。ああ、ヤバい。胃がキリキリと痛くなってきた……成る程、これが噂に聞くストレスからなる胃痛か…………最悪だな。


とりあえず、学園の隅っこでひっそりと生きたいです、まる。