コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- おいでませ、助太刀部!! ( No.274 )
- 日時: 2012/07/30 10:46
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: aR69ziU3)
「気になるから、ちょっと朱里さんのところに行ってくる」
チーズケーキを食べ終えた翔が、僕と秋牙さんを置いて、部屋から出ていく。
僕はそんなに気にならなかったけど、翔は、どうしても秋牙さんが入ってこれた理由が気になるらしい。
「ねえっ!」
ボーっと翔が出て行ったドアを見つめ続けていたら、唐突に食べる手を止めた秋牙さんに声をかけられた。
「どうかしました?」
秋牙さんの突然の大声に少し驚いたが、すぐに自分を落ち着かせ、彼女に問いかける。
ティッシュを取ってくれ、とか、飲み物をくれ、だとかそんな感じの理由だと思うが。
「それっ!」
「どれですか?」
秋牙さんがビシッと僕を指差した瞬間、思わずビクッと震えてしまった。
どうにも、僕は不意打ちに弱く、今みたいに突然大声を出されたりすると、即座に表情を取り繕うことは可能だが、体の方はビクッと飛び上がってしまう。
どうにか治したいものだが、そううまくいかず、未だ治る気配すらない。
「私にだけ敬語使ってるでしょっ。 もっとフレンドリーにっ」
秋牙さんが再びチーズケーキをつつく。
秋牙さんは「敬語を使うな」というが、秋牙さんは特別尊敬すべき対象だから、名前もさん付けで呼んだり、敬語で話したりしているのだ。
翔や忍さんと比べると影響はかなり少ないが、秋牙さんは僕から見たらとても綺麗で輝かしい部類の人間で、僕みたいな汚れきった人間が触れるのもおぞましいくらいで————。
「それと、伊野ちゃんと岡崎、何かあったのっ?」
「え?」
僕の様子がおかしいのを察してか、それとも単純にふと思い出したからなのか、秋牙さんが話題を変えた。
「最近、翔の様子がおかしいとは思ってましたけど、伊野さんが関係しているんですか?」
翔の悩みを解決する手がかりとなるなら、あまり興味が無い伊野さんについても時間を割いて話してもいいだろう。
「うーん……確実とは言えないけど、様子が変わったのは薺ちゃんの事件の後からじゃない?」
確かに翔の様子が落ち着かないのは、鎖月さんの事件よりも後だ。
僕から見たら、翔しか見ていないから分からないが、もしかすると伊野さんの方にも何かしら変化があったのかもしれない。
「伊野さんの方にも何か変わったところがあったんですか?」
自分で考えているだけでは分からないことだから、秋牙さんに尋ねてみる。
伊野さんに関しては、秋牙さんの方が詳しく知っているだろうし。
「最近の伊野ちゃんは落ち着きがないのっ……」
秋牙さんがいつも通り語尾を弾ませながら、しかし、少し心配そうな表情でそう呟いた。
その表情を見ていると、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。