コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!! ( No.8 )
- 日時: 2011/01/15 22:36
- 名前: 山下愁 (ID: GlvB0uzl)
第2話 2部
それからというもの、翔の大活躍ぶりは半端なかった。
数学では『簡単』の一言だけで済ませて教師に喧嘩を売り、大学生レベルの問題を出されあっさり解いてしまった。
家庭科では試しに渡されたエプロンの材料を、ミシンを使って5分フラットで完璧に仕上げてしまった。
さらに音楽では、ピアノでショパンの『革命』を弾いてみせた。
何だろう、この完璧超人(男)
家では言えばかなり美味しい料理やお菓子を作ってくれるし、掃除洗濯も完璧。もう何でも出来る奴。
しかも届けに来た弁当は、かなり豪華なものだった。
「一体何者なんですか? あのメイドさん」
優亜の親友である、深江恵梨が優亜に訊いた。
自分でも知らない為、優亜は答えられなかった。
教室には翔はいない。購買まで飲み物を買ってくると言って出て行ったきりだ。
「知らない。いきなり来たんだもん」
「だからと言って、何でも出来る超人って事はないだろ」
もう1人の友人である、結城博が優亜に向かって言う。
「きっとどこかで仕えていて、何でもやらされたんだと思うわ」
「何でも? 何でもって、スポーツも出来るのかあのメイド!」
「さぁ? 今日は体育なかったし、出来るんじゃないの、あいつなら」
優亜が言うと、博は悔しそうな呻きをあげた。傍では恵梨がくすくすと笑っている。
そこへ、翔が3つほど飲み物を抱えて帰ってきた。
「すみません。購買が混んでいたもので、少々遅れました」
柔らかい笑みを浮かべ、翔は優亜に謝った。
すると、博がいきなり席を立ち、翔に向かってどなる。
「やいやいてめぇ! 何でも出来るらしいじゃないか、俺と勝負をしろ!」
「勝負、ですか?」
翔は持っていた飲み物を机に置き、首を傾げた。
そうだ! と博は勢いよくうなずき、校庭を指す。
「俺とバスケで勝負をしろ! 1対1だ!」
「……と、申しておりますが。いかがいたしましょう、優亜様」
翔は優亜の方を向き、尋ねた。
返答に迷った優亜は、翔に向かってため息をつくように言う。
「それはあんたが決める事でしょ。あたしには関係ないよ」
「……そうですか。分かりました」
翔はうなずくと、博の方を向き直す。そして、にっこりとした笑顔のまま、博に告げた。
「その勝負とやら、受けて立ちましょう」
「負けた方は勝った方に何でも1つ、言う事を聞いてもらうからな!」
「えぇ。良いですよ」
博は敵意剥き出しなのに、翔の方は満面の笑み。
そんな翔に、優亜は耳打ちをした。
「博はバスケが得意なのよ? それなのにそんな勝負受けて……。きっと正体を教えろとか言うと思うのに……」
「誰があんな野猿なんかに負けるかよ。見てな、絶対負かしてやるから」
翔はそんな余裕そうな事を言っていたが、優亜は心配だった。
制服を着て動きやすい博とは対照的に、翔は男のくせにメイド服を着ているのだ。圧倒的に不利に決まっている。
優亜はある事を思いつき、翔の腕を引っ張った。
「な、何だよ?!! お前、行けないじゃんか!」
焦る翔は、丁寧な口調を忘れて男口調に戻っていた。
そんな翔に、優亜は自分の体育着を渡す。
「あんたにばれてもらっちゃ困るの。これ、着ていいから」
「……男。嫌いなんじゃなかったっけ?」
「そうだけど。でも、ばれたらあんたも困るでしょ。女装なんてしてるんだから」
ツンデレのように言う優亜は、プイとそっぽを向いた。
翔はそんな優亜の頭に手を乗せ、優しそうな笑みを浮かべて見せた。
「大丈夫だ、絶対勝ってやる」
そう言うと、翔は更衣室に向かって行った。
優亜は再度ため息をつくと、そしてハッとした。
まさか、男子更衣室で着替えるとか?!!
「翔、こっち! こっちで着替えなさい!」
「え? 何故でしょうか優亜様?!!」
「あんたどっちか分からないからよ!」
***** ***** *****
校庭の端。バスケットゴールの所には、制服の博と体育着の翔がいた。
翔はポニーテールをほどき、左下で結び直していた。
一方、余裕そうな感じの博は、ボールをゴールに入れたりして、準備をしていた。
それを見ている優亜と恵梨は、どこか緊張している様子。
(大丈夫かな翔。勝てるのかな……)
「よし! 始めようぜ。どちらかが3点取った方が勝ちだ」
「分かりました」
翔は博の言葉に、首肯した。
博は、翔に向かってボールを投げ渡す。
「あの。これは?」
「てめぇからだ。先攻は譲ってやる」
「ありがとうございます。では——」
ザンッ——。
翔は、シュートを打ち、見事にゴールを決めた。
その場にいる翔を除く全員が、驚きの表情を浮かべる。
「これで、1点ですね」
翔はボールを博に渡し、笑顔で言った。
余裕そうな翔に、博は舌打ちをして、ドリブルでゴールに進んでいく。
ゴールを決めようとした瞬間、翔にブロックされてボールを取られてしまった。
「残念♪」
「くっそ〜」
またも余裕そうな笑みを浮かべる翔。
博は悔しそうに唇を噛んだ。
その時だ。博の後ろに、鉄骨が落ちてきた。
今、体育館を建設工事中なので、鉄骨があるのは当たり前。だが、そう簡単に落ちる訳がないのだ。
「博! 危ない!」
「え——」
博が後ろを向いた時には、もうそこまで迫っていた。
このままでは当たる。優亜が悲鳴を上げた瞬間。
ガンッ!!! という鈍い音が響いた。
見れば、博の上に落ちるはずだった鉄骨がなくなっている。
博の傍には、翔が上を睨んで立っていた。
「危ねぇな。気をつけろ!」
男口調で、翔は体育館に居る作業員に向かってどなりつけた。
ばれた?!! と思った優亜だが、博の様子がおかしい事に気づく。
……まさか……。
「惚れた……」
「「え?」」
「あんた、惚れたよ! 俺と付き合って下さい!」
博の暴走した言葉に、翔は頬の筋肉がひきつった。
「あの、えーと……」
「な? せめて、あんたの名前を教えてくれ!」
翔は優亜に助けを求めようと、視線を投げ渡したが、優亜は面白そうなのでそっぽを向いていた。