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Re: 俺様メイド?!! ( No.9 )
日時: 2011/01/17 17:14
名前: 山下愁 (ID: GlvB0uzl)

第2話 3部

 それから、放課後の事である。

「なぁなぁ。だからマジで名前だけで良いから教えてよ」
「しつこいですよ。結城様」
「結城様?!! うはぁ、そのお声で呼んでいただけで俺幸せぇ〜!」

 博の猛アタックにより、翔の精神は擦れ擦れ。
 そんな光景を、恵梨はずっと見ていた。くすくすと笑いながら。

「いや、本当にしつこいですから」
「じゃぁ名前を教えてください。俺からのお願いです!」

 翔はこいつに蹴りをぶちかまそうかと思い、覚悟を決めた時、ある事に気付いた。
 優亜の姿がない。一体どこに行ってしまったのだろうか。

「深江様。優亜様のお姿が見えないのですが、お手洗いでしょうか?」
「? いえ、先ほど……英語の先生に呼ばれていましたよ」

 それがどうしました? と恵梨は首を傾げる。
 翔は記憶を巡らせ、ある1つの事を思い出す。
 英語の時間。わざとらしいあの英文。……まさか——?!!

「くそっ……!」
「あ、メイドさん。どこへ?」

 翔は舌打ちをすると、駆けだした。
 自分の主の無事を祈り、廊下を疾駆する。

「優亜……!!!」

***** ***** *****

 優亜は、今大ピンチに陥っていた。
 英語の先生が発情した。
 訂正。英語の先生が、優亜に襲いかかろうとしている。
 ちなみに、逃げ道のドアは先生に塞がれ、この『国語準備室』は、3階にある為窓からも逃げられない。

「相崎……!!」
「嫌ぁ!! 来ないでぇ!」

 手を伸ばしてきた先生に向かって、鞄を投げつける優亜。これはもう本当に大ピンチ。
 しかし、相手は先生。しかも男。優亜の鞄攻撃なんて簡単によけ、優亜を取り押さえてしまう。
 とうとう優亜は、先生に腕を掴まれた。

「触らないでッ!!!」

 優亜は足を振り上げ、先生の腹を蹴り上げる。
 うっと呻き声をあげて、先生は床に座り込んでしまった。だが、すぐに体勢を立て直して、優亜を捕まえる。
 壁に叩きつけ、腕を背中で縛りあげ、優亜の耳元に向かって囁いた。

「俺は、お前のフィアンセなんだ……!!」

 フィアンセ? こいつが? と、優亜の脳によぎる。
 いや、でもフィアンセなんてありえない。
 つかマジで男嫌い!


「優亜を、げすな手で触るな!!!」


 怒号。同時に、ドアが破壊される音。
 砂埃と共に入ってきたのは、黒白の衣を身にまとった、翔の姿だった。

「翔……ッ!!」

 優亜は安心したような声をあげた。目には少しだけ、涙が浮かんでいた。
 先生は翔に向かって、唾を撒き散らしながらどなる。

「お前、一体どれほど俺の邪魔をすれば……!!」
「黙れげす野郎! 下等なくずは、俺の優亜に触れる資格なんざねぇ!!」

 翔は真剣な表情で、先生に向かってどなった。

「ちょっと!! 誰があんたのもんよ!」

 ……先生の後ろで、優亜が顔を真っ赤にしながら叫んでいたが。
 すると、先生は厭らしい表情を浮かべて、翔に歩み寄る。
 一言で表すならば、まさしくアジアンビューティーが似合う翔。優亜と同等に麗しいので、先生が目をつけない訳がない。

「お前の方が可愛いじゃねぇか。相崎なんかよりも、ずっと」
「…………ほう。言うじゃねぇか」

 翔は悪魔的なほほ笑みを浮かべ、メイド服のチョーカーを外す。リボンを解き、ボタンを1つだけ外して、先生に手を伸ばす。
 え、何て事をしてんのこいつ。
 ばさりと黒い長い髪をほどき、翔は先生の耳に向かって一言。

「俺さ。男だけど?」
「お、とこ……だと?」

 先生は、翔の胸へ目をやる。
 確かにそこにあったのは、男らしい胸。
 この可愛らしい顔で男?!! と、目を疑ってしまった。

「お、まえ——!!」
「死刑。決定な?」

 翔は一言だけそう言うと、跳躍し回し蹴りを顔面に叩きこむ。
 鼻面を蹴られた先生は、壁にぶち当たりズルズルと座り込んでしまった。
 優亜は一瞬だけビクッと震え、翔を見上げる。
 あのいつもの表情とは違い、まるで狼の様な表情の翔がそこに在った。

「優亜。危ないから、後ろにいな」
「う、うん……!!」

 優亜は小さく何度も頷き、翔の後ろへと逃げ込んだ。
 翔は腰を低く落として身構え、先生に向かって挑発をする。

「来なよ。相手はしてやる。ただし——喧嘩のだけどな」
「ひ、ひぃ?!!!」

 先生は、かすれた悲鳴をあげるが、翔はお構いなし。このままでは殺してしまいそうだ。
 優亜は翔の腕を掴んで、それを制止する。

「? 何でだよ、止めるなよ」
「止めて……。これ以上、翔がそんな事をするの……見たくない」

 翔は軽くため息をつくと、先生に振り向いた。
 1歩1歩ゆっくりと寄り、そしてガツンッと1発、先生の横を殴った。
 黒笑いしながら、翔は先生に向かって囁く。

「もし。今後、優亜にこんな事をしてみろよ——。次は、殺すからな」

 そう言い残すと、翔は優亜を連れて教室を後にした。

***** ***** *****

「あぁ、メイド服が汚れてしまいましたねぇ。これは洗濯しなければ……」

 翔はのん気に自分のメイド服をつまんで、汚れの事を言っていた。
 そんな翔の横を歩いていた優亜は、翔に向かって一言だけ告げる。

「ありがと。助けてくれて」

 少しだけ顔を真っ赤にした優亜を見て、翔は軽く笑った。そして頭の上に手を乗せて、ぐしゃぐしゃと掻きまわす。

「危ない事があったらすぐに言え。何があっても、お前を守るからさ」

 それは今まで見せた事がない、男としての翔の笑顔。
 優亜の心臓が、少しだけ大きく鼓動を打った。


「でさ、翔の名字って何なの?」
「ん? あー、瀬野翔って名前……。それが?」
「ふーん。じゃぁ博に教えてあげよう☆」
「げっ!! それは止めろマジで!」