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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-人気投票実施 ( No.120 )
日時: 2011/04/21 15:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第17話 5部


「まったく、あの人は本当に困りますね」

 友人達と別れ2人きりになった時、燐はつぶやいた。
 隣を歩く優亜は苦笑を洩らす。
 翔が「ついて来なくても大丈夫」と言ったのだ。だが何故、こんなにも苦しくなるのだ?

「何と言うか、本当に人遣いが荒すぎます。そんなんだからモテないんですよ」

「……モテないのは関係ないんじゃないかな」

 プリプリと怒る燐は、翔に文句を言いまくる。ただし、本人はここには居ないのだが。

「燐さんは何故、翔に対して文句を言うのですか?」

 怒っている理由が知りたくて、優は燐に訊いた。

「情けなすぎて怒っているんです。あのヘタレメイド、何が釣り合わないだ。そんなの知りませんよ。だったら僕も同じじゃないですか」

「情けないって、翔が?」

 えぇ、そうですと燐はうなずいて、今までの事を話し出した。

「好きな女の人に告白出来ないんですよ。本人は好きなのに、それを言葉にしようとしない。どうしようもないヘタレです。自分と相手が釣り合わないぐらいで諦めて……まったく」

 その理由を聞いた途端、優亜は歩みを止めた。
 まさか、そんな——。翔に好きな人が居ただなんて、知らなかった……。
 じゃぁその事を知らずに、自分は翔に恋心を抱いていたなんて。何て馬鹿なんだ?
 いきなり立ち止まりうつむく優亜に、燐は声をかけた。

「まさか、優亜様は翔がお好きなのですか?」

 燐の問いに、優亜は答えない。ずっと下をうつむいてばかりだ。
 それを肯定の意だと思った燐は、優亜を強く抱きよせた。

「ッ?!!」

 何が何だか分からない優亜は、とりあえず燐の腕から逃れようともがく。
 しかし、燐はさらに強く強く優亜を抱きしめた。
 細くしなやかな腕からは感じられない強い力。自分の体が壊れてしまうのではないかと思う。

「ちょ、燐さん……痛い……」

「何で優亜様は、翔が好きなんですか」

 自分を抱く腕が、微かに震えている。
 優亜は少しだけ目線を上に持ち上げ、燐の顔を見る。
 その表情は強張っていて、どこか悲しげで辛そうな感じをしていた。

「僕だけを見てください」

「————え?」

 いきなり言われ、優亜は固まった。
 何故燐が、自分に告白をしてくるのだろう。というか、これは告白なのだろうか、などと頭の中で考えている。
 そんな事お構いなしに、燐は言葉を続けた。

「あんな奴に優亜様を渡したくありません。僕だけを見ていてほしいんです、他の誰にもあなた様を渡したくないから……」

「ちょ、燐さん。分からないよ、何でそんな事を——」

「決まっています」

 燐は優亜から体を離し、告げた。


「あなた様が、好きだからです」


 思考が止まった。
 目の前に居る燐は、漆黒の瞳を涙で潤ませている。いつものクールな燐の雰囲気が完全にブチ壊されていた。
 一瞬。ほんの一瞬だが、翔に対する気持ちが揺らいだ。
 翔自身に好きな人が居るならば、自分を好きだと言ってくれる燐と結ばれてしまおうか。そんな事を考えていた。
 でも、それで本当にいいのか? 自分は、本当にそれで後悔しないのか?


(優亜————)


 ふと、優亜の脳裏にとある人が浮かんだ。
 優しくほほ笑み、自分の名前を呼ぶ。自分に向かって手を差し伸べてくれている「人」。

「燐さん——」

 優亜はその「人」の事を思い浮かべて、答えを口にした。