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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.127 )
日時: 2011/05/08 16:17
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: 気付いたら参照1000突破!! 皆、ありがとう!

第17話 6部


「ごめんなさい」

 優亜が言ったのは、謝罪の言葉だった。
 目の前に立っていた燐の時が止まる。

「あの、やっぱりあたしは翔が好きなんです。この恋を諦めたくないんです。翔に好きな人が居ても、あたしは諦めません。たとえ、翔が不良でも女装メイドでも、あたしは翔が好きなんです」

 真っ直ぐと燐の瞳を見据えながら、優亜はきっぱりと言った。
 その言葉を聞いた燐は、端麗な顔に微笑を浮かべる。

「翔は幸せ者ですね、優亜様に好きだなんて言ってもらえて……。さぁ、行ってあげてください。今頃なら、もう家に帰っているはずですよ」

「ハイ! ありがとうございます!」

 元気よく返事をした優亜は、マンションに向かって走り出す。その際、燐の方に振りかえり、にっこりと笑顔を浮かべた。

「あたし、燐さんも好きです。まるであたしのお兄ちゃんみたいで!!」

「そうですか。光栄ですね」

 えへへ、と笑っていた優亜は、燐に手を振り去って行った。
 ただ1人残った燐は、近くにあったコンクリート塀に背中を預ける。そして静かに空を見上げた。
 青く、どこまでも澄んだ空が、燐の上に広がっているだけだった。それ以外の何でもない。

「おやまぁ、告白は玉砕で終わりかいな?」

 そんな傷心状態の燐の元に、へらへらとした声がかかった。
 面倒くさそうに声がした方に視線を向けると、棒付き飴をくわえた睦月がそこに立っていた。

「何です? 冷やかしに来たのなら今すぐぶっ飛ばしますよ」

「怖い執事さんやの。殴りたいんか? 殴れば気が済むんか? まぁ良い、おいは同情しに来たんや。何の話をしてるのか分からんかったが、告白してるのは分かったで」

 けらけらと笑う睦月の顔面をものすごい殴り飛ばしたくなる燐。だが何とか理性で持ちこたえる。
 1つだけ咳払いをして、燐は睦月に訊いた。

「それで、本当に冷やかしに来たんですか?」

「同じ台詞を言われてもなァ……。ちゃうよ、本当は情報を届けに来ただけや」

 睦月は燐に1枚の写真を渡した。
 そこに映っていたのは、至って普通の青年である。黒い服を着ていて、面倒そうに電話をしている。
 ただ、燐はこの青年に見覚えがあるのだ。
 そう。こいつは突然、教室に現れた————あいつ。

「瀬野、大地様……?」

「お。名前知ってはんの? そいつは分からんけど、東さんと同じ名字で、下の名前を隠しとる——って、どこ行くの燐さん? 無視だけは勘弁してー」

 胸に駆ける嫌な予感。その場に睦月を置いて走り出す燐。
 その予感は、的中する事となる——。

***** ***** *****

「おかえりー」

 家に帰って来た優亜を待っていたのは、ソファでごろ寝をする大地だった。
 辺りを見回しても翔はいない。どうやらまだ帰ってきていないようだ。
 優亜は大地の格好を見て、怪訝そうに目を細めた。
 朝の大地は普通にTシャツとジーンズだった。だが今は、黒いスーツに身を包んでいる。その姿はまるで、ボディーガードのようだった。

「あの、大地さん?」

「ねぇ優亜ちゃん。君、弟の事が好きなんだって?」

 いつの間にソファから自分の前に移動したのだろうか、大地は優亜を見下ろしてニコニコと笑っていた。その笑顔がやけに怖い。
 優亜はズリズリと後退して大地と距離を取ったが、壁に追い詰められてしまった。
 空を背に笑う大地。何か嫌な予感がしてきた。何か嫌な予感が体を駆ける。

「あのね、優亜ちゃん。俺さ、弟を誰にも渡したくないの。大好きなのよ、それはもう殺したいぐらいに」

「大地さん……? 一体どうし——ッ!!」

 突然、優亜の口にハンカチが押し当てられた。甘い香りがして、優亜は床に倒れてしまう。
 意識が不安定になり、視界が霞む。どうやら睡眠薬の類を嗅がされたみたいだ。
 大地は倒れた優亜を抱き起こし、携帯で誰かと連絡を取る。

「あ、もしもし? こっちは終わったよ」

『東さん?! 遅いですよ、接触したなら簡単な仕事でしょ?!』

「ゴメンゴメン。弟が邪魔でさ」

(あ、ずま——。あの最強の不良、の?)

 そこで、優亜の意識は途切れてしまった。


「あれ、開いてる」

 翔は買い物を済ませ、ドアノブを回したら開いてたので首を傾げる。
 不用心だな、と思いつつ翔は部屋に足を踏み入れた。
 部屋の雰囲気がおかしい。何故だか静かすぎる。
 廊下を歩いてリビングに入ると、そこにあったのは優亜の鞄だけだった。

「——優亜?」