コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.131 )
- 日時: 2011/05/10 18:19
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第1話
18世紀、歴史あるバラク地方。
『アルセーヌ王国』では、王女の優亜・オルヴェ・ヴリリアントの誕生祭が開かれていた。
当然、あちこちからも客人は来る。街はパレードで賑わっていた。
そんな中、賑わっているパレードを見下ろす人物が1人——。正体は青年だった。
歳は17歳かそこら辺を思わせる。暗い部屋に溶け込む、少し汚れた黒く長い髪。ボロボロのTシャツに足が全て隠れるほどのズボン。殺風景な部屋にあるのはベッドと柄の赤い鎌だけだった。
青年は下で行われているパレードを睨みつけている。
「……優亜・オルヴェ・ヴリリアント……」
青年の口から紡がれたのは、この国の王女の名前だった。
愛おしそうに、まるで愛する人の名前を呼ぶかのように。だがすぐに、青年は舌打ちをした。
そう、青年はただの民だ。彼が王女の隣はおろか、間近で姿を見る事も叶わない。
すると、誰かが青年の部屋をノックした。面倒くさそうに視線を投げると、ドアを開いて入って来たのはこの部屋を貸してくれている大家だった。
「また優亜様を見てるのかい? パレードは今日だけなんだよ、行ってきたらどうだい?」
「……うるせぇな。嫌われ者の俺が行ったところで何になる? 優亜様信仰の奴らに追い返されるだろう」
青年はそっぽを向く。
大家はため息をつき、青年が着ている服の襟首を持ち、外へと突き出した。
「行ってきたらどうなのッ!! うじうじした性格は、あんたには似合わないわ」
「余計なお世話だ、クソババア」
青年は言葉を乱暴に吐き捨て、部屋に立てかけてあった鎌を手に取って外へと飛び出した。
その表情は、とても嬉しそうだった。
「まったく……素直じゃないねぇ」
大家は苦笑いを浮かべて、青年の部屋から出て行った。
***** ***** *****
優亜・オルヴェ・ヴリリアントは退屈だった。
どこへ行っても、どこを見渡しても人ばかり。しかも周りに居るのは優亜信者ばかりと来た。皆して「優亜、優亜」と叫んでいる。
いい加減うんざりしてくるのだが、このパレードに出ないと父が怒る。怒られるのだけは免れたい優亜なので、仕方なく参加しているのだ。
「優亜様……?」
「あ、あぁ。なぁに、恵梨?」
傍に控えていた専属のメイド、恵梨・ゼリスは心配そうな表情をしていた。
優亜は恵梨の気持ちを察したのか、笑顔を作り「大丈夫よ」と答える。
「そうですか。退屈だからと言ってまた脱走されるのかと思い……ハラハラしました」
「そんな事しないわよ。ただちょっと、人混みがもう嫌なの」
ふぅ、とため息をつき、優亜はもう1度辺りを見渡す。
やはり人だらけ。こうもわーきゃー騒がれると、何かもううっとおしくなってくる。
その時だ。いきなり優亜が乗る馬車が急停止した。
「な、何事?!」
恵梨が馬車の前まで行くと、男が転んだらしく馬車の前に倒れていた。
優亜は怪訝そうに眉をひそめ、恵梨に命令する。
「その男、助けてあげなさい。起こしてどこか安全な場所へ連れて行ってあげて」
「ハイ。かしこまりました」
恵梨はお辞儀をすると、男を抱き起こして道の端に連れて行った。
同時に優亜を乗せた馬車が発進する。
「優亜様、本当にお優しい心の持ち主ですね」
「それほどでもないわ。当然の事をしたまでよ」
優亜は嬉しそうに笑った。
そんな優亜を狙う、1人の影が——。