コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.132 )
- 日時: 2011/05/11 17:31
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第2話
優亜の背後でナイフを構えた男は、真っ直ぐにそして静かに走り出す。
そんな事も気付かないで、優亜の馬車はゆっくりと走っている。
男は思った。これはチャンスかもしれない、優亜の全てをこの手に——!!
誰かが叫ぶのが聞こえた。でも構わない、男は優亜の元へと突き進んでいく。
「え、あ、」
優亜はナイフの光を見た瞬間、固まってしまった。
声が思うように出ない。つまり悲鳴をあげれないのだ。
「優亜様!!」
恵梨の声が聞こえた。
兵士を飛び越え、男は優亜へと近づく。そしてナイフを振り上げた時、
どこからか飛んできた鎌に、遮られた。
***** ***** *****
家を出た時、目に入ったのは優亜が殺されそうな瞬間だった。
青年は反射的に持っていた鎌をぶん投げ、見事に男の手首に命中させる事が出来たのだ。
最初は外れるかもしれない、と思っていたがそんな事も吹き飛んだ。
「て、テメエ……!!」
男は手首を押さえながら、青年を睨みつける。
人混みを掻きわけ、優亜が乗っている馬車の前にまで来た青年。男を一瞥し、そして落ちていた鎌を拾い上げた。
「お前、優亜様を刺そうとしたな?」
「ハッ……だとすれば、どうした。俺は優亜様が好きだ、大好きだ! だから、だからこの手で優亜様を!!」
おかしい。考えが狂っている。
青年は優亜の表情をチラリと覗いてみた。
完全に怯えたような表情を浮かべて座っている。目で確認できるかどうか分からないが、微かに震えているような感じがした。
呆れた青年は、大きなため息を吐き出した。
「好きならば、もっと他に方法があるだろう? パレードを見守っといてやるとか、そんな……」
「うるせぇ!! おおおお俺はただの町民だから……優亜様に何か、見てもらえる訳がねぇだろ?!」
叫ぶ男。目が据わっていて、どこを見ているのかが分からない。痙攣しているようにガタガタと震えている。
やがて、騒ぎを聞きつけてきたのか、優亜を守る護衛隊であろう奴らが駆けつけて状況を見ていた。
本体なら護衛隊に任せるべきだろうが、青年はそうは考えなかった。むしろ、こいつを倒してやろうとも考えていた。
「あ、の。優亜様?」
護衛隊の1人が優亜に「あいつ、どうします?」と訊いた。
優亜は「そのままにしておいて」と答える。
「優亜様に近付けると思うなよ、げすが!!!」
青年は鎌を振るい、男の脳天に叩きこんだ。
ガツンという何か硬い物に当たる盛大な音と共に、男は地に倒れ伏す。
優亜に害なす人物を倒したと言うのに、青年に浴びせられたのは野次だった。
「流れ者が優亜様に近付いてんじゃねぇよ!!」
「早く離れなさい!」
「どっかに行ってろよ、嫌われ者が!」
「大体、お前も優亜様に害なす人物だろうが! 死にたいのかお前も!」
青年はうっとおしそうに辺りを見回し、フンと鼻を鳴らして優亜に背を向けた。
分かっていたのだ、そんな事は。自分がこうなる事は。
すると、優亜はそんな青年に声を掛けた。
「助けてくれて、ありがとうございます」
浴びせられる野次の中で言われた、唯一の感謝の言葉。
青年はふと、優亜の方を向く。
さっきの怯えた表情は完全になくなっていて、代わりにあったのはにっこりとした笑顔だった。
「別に……」
本当は嬉しいのに、そっぽを向いて笑いそうになるのを堪える。
「お名前、教えてもらえませんか?」
「な、名乗る程の奴じゃ、ないんで……ッ!」
恥ずかしさに耐えきれず、青年は駆けだした。
優亜は「待って!」と叫んだが、青年の耳には届かなかったようだ。
「どうしましょうか、優亜様。追いかけます?」
護衛隊長の博・キリファンムは優亜に訊く。
優亜は首を振って否定の意を示した。だが、笑顔でこう言う。
「自分で、探してみせるわ」