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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.134 )
日時: 2011/05/14 17:43
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

番外編 第4話


 博は青年にコーヒーの入ったカップを差し出した。
 並々と淹れられたコーヒーを見つめ、青年は素直に受け取った。

「で、話してくれるかな? 理由次第では、俺は優亜様に報告したうえでお前を処刑しなきゃなんないけど」

「……俺は——」

 青年は話し出した。今朝、自分が巻き込まれた事件について。
 朝に弱い青年が聞いた、誰かが殴られた音。
 ドアを開ければ自分の鎌が落ちていて、大家が倒れていた事。
 やってもいないのに隣人に犯人だと疑われ、逃げ出した事。
 ちなみに言うと、青年達が住む家は共同でしかもセキュリティーなんてないので鍵なんかついていなかったらしい。1度寝ると、ちょっとやそっとの物音では起きないので、部屋に侵入し鎌を取る事なんて簡単である事——。
 全ての話を聞き終えた博は、コーヒーを啜って一言。

「何の為に大家を殴ったんだろうねー」

「お前、馬鹿なの?」

 青年は訝しげに訊く。
 博は「馬鹿だよ」と自分で認めた。潔いな、お前。

「おそらく、俺を処刑してほしかったのか追放してほしかったのか……どちらかの選択だろうね」

 青年はカップをギュッと握り、唇を噛みしめた。

「でも、どうしてですか? 暴行というリスクを冒してまであなたを処刑したいと言う理由が分かりません。第一、あなたは優亜様を助けてくれた本人です。何故追放したいのでしょう?」

 雛菊は青年に問いかけた。
 コーヒーを一気に飲み干し、青年は博にカップを突きだす。

「俺は流れ者だ。3年前にここに流れ着いた異国者だ。当時は戦時中でしかも敵から流れ着いた奴だと思ったんだろうな。おかげで嫌われ者だ」

 青年は皮肉を込めた言葉を言い放つ。
 その台詞に2人は反論しなかった。何も言い返す事はなく、ただ黙っていた。

「話はこれで終わりだ。隊長殿、俺の処分を決めてくれ」

「あ、あー……その、何だ? お前さ、パレードで見たんだけど、超強いだろ?」

 博は苦笑いを浮かべながら、青年に訊いた。

「ちょっとさ、雛菊と腕試しをしてみてくんない? 実力を見たくてね」

 青年は雛菊を一瞥し、仕方なく「分かった」と告げた。
 博はにっこりと笑顔を浮かべると、雛菊と青年を連れて城にある修練場に向かった。

***** ***** *****

 優亜はバンッと勢いよく、護衛隊のが集う部屋のドアを開けた。
 部屋には誰1人護衛隊はおらず、がらんとした雰囲気だけがあった。

「……あの、人は……」

 書庫から全力疾走だった優亜は、その場にズルズルと座りこんでしまった。
 ドレスが汚れる事もお構いなし。優亜の瞳からは涙があふれ出す。
 せめて、もう1度だけあの人に会って、ちゃんとしたお礼が言いたかった。

「あれ、優亜様。こんなところで何をなさっているのです?」

 優亜は慌てて涙をぬぐい、後ろを振り返った。
 心配そうな博。少しイライラしてるように見える雛菊。そして、あの青年がそこに立っていたのだ。

「優亜様、あの……こんなむさ苦しいとこに居ない方がよろしいかと……優哉様にも怒られますし」

「博、雛菊! あなた達が見つけてくれたの?!」

 優亜はばねのように立ち上がり、歓喜の声を上げる。
 何が何だか分からない2人は首を傾げ、揃って「誰の事でしょうか?」と訊いた。

「嬉しい……また、また会えました」

「えっと、俺?」

 声が青年に向けられていると知り、青年は自分を指差して尋ねた。
 優亜は嬉しそうに何度も何度も首を縦に振る。

「優亜様、こいつ気に食わないです。強すぎます」

 雛菊は機嫌が悪そうに言う。

「知らねぇよ。全力で来いと言ったのはお前だろ? だから俺は全力でお前を倒したまでだ」

「だからって……私は女の子なんですよ?! そりゃぁ護衛隊の中でただ1人の女子で男らしい一面もありますが……これでも、立派な、女の子なんです!!」

 雛菊と青年の軽い舌戦が勃発する。今にも2人して喧嘩を起こさんという勢いだ。
 慌てて博が止めるが、2人はますますヒートアップ。
 優亜はけらけらと笑っていた。

「面白い人……。ねぇ、あなた。名前は何て言うんです?」

「え、あの……」

 青年は名乗るのを躊躇っているようだ。(え、何で?)

「俺、自分の名前が嫌いで……本当、嫌なんで……。俺の名前を聞いたところで、何もならないし」

「いいの。私が聞きたいから、名前を教えてちょうだい」

 ぼそぼそと言う青年の言葉を一蹴し、優亜は答えた。
 青年は「あー」とか「うー」とか唸った後、渋々と自分の名前を口にした。

「……翔・ルテ・アラスベルク……」

「そう。翔って言うのね」

 優亜は満面の笑みを浮かべると、青年に向かって言い放った。

「じゃぁ翔。あなたを、私の召使にします」

「……ハァ?」

 街で嫌われ者だった青年、翔・ルテ・アラスベルクは、本日を以て優亜の召使になったとさ。
 ……いきなりの命令かい。