コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.135 )
- 日時: 2011/05/15 18:45
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第5話
どこからどう見ても朝である。澄み切った青い空の下、とある1つのドアの前で行き来するメイドが1人。
長く艶のある黒髪はポニーテールで束ねられ、純白と漆黒の2色で統一されたメイド服を着ている少女——否、青年である。
そう。青年、翔・ルテ・アラスベルクは自分の主である優亜・オルヴェ・ヴリリアントを起こしに来たのだ。
メイド長である恵梨に「優亜様を起こしに行って来て」と言われ、仕方なく翔は優亜の部屋に来たのだが、
「う、うぅ……」
今まで女の子との馴れ合いがない翔にとっては至難の業である。相手が男ならば、げんこつを1発叩きいれて「起きろ」の一言で済ませる事が出来た(←家賃を稼ぐ為に警察みたいな仕事をした事がある)
翔は大きく息を吸い、そして決心したようにドアをノックした。
乾いた音が2、3回鳴り響く。
「……優亜様。お目覚めのお時間でございます」
返事はない。まだ寝ているようだ。
翔はこのまま放っておこうかと思ったが、それでは恵梨に怒られる。仕方なくドアノブを手に取り、捻った。
まだカーテンが閉められた広い部屋。翔が住んでいた部屋よりか、何倍も広い。
「まだ寝てる……」
天蓋付きのベッドを覗き込み、翔はため息をついた。
ベッドの中で未だスースーと寝息を立てる優亜。理性が保てるか心配になって来た。
が、翔はシャッとカーテンを開く。
暗かった部屋が一気に明るくなり、優亜の表情が苦しげに歪んだ。
「おはようございます、優亜様」
冷静な声で言う翔。
優亜はうっすらと瞳を開け、そして翔を見てつぶやいた。
「……誰?」
「……ハァ」
昨日の今日で覚えられるのはまだ早いと思った翔である。
***** ***** *****
「ねぇ、翔」
朝ごはんを終え、食器を運んでいるところを翔は零音・ポーラに呼びとめられた。
ぐらつく食器を持ち前のバランス感覚で支えながら、翔は「何?」と答えた。
「あなたは、何でメイド服を?」
翔は自分の格好に目を落とす。
自分は男のはず——なので、執事服を着る予定だったのだが。何故か彼が身につけているのはメイド服。これはどうしてだろうか?
理由は優亜にあった。
「優亜様は、男が嫌いなんだそうだ」
「……そう」
零音は悪い事を訊いたな、みたいな表情を浮かべていたので「気にするな」と翔は言っておいた。
「俺は別に、気にはしていない。拾ってもらえただけでもありがたいさ」
「……そう。私は、家柄の関係で、ここに居るだけ」
「家柄の関係なら別に良いじゃないか。俺は町民から成り上がった野郎だぜ」
「……それでも、いいの。私は、何もないから」
零音は悲しそうにつぶやくと、パタパタという可愛らしい足音を立てて去って行った。
翔は首を傾げて、零音が言った台詞の意味を探していた。
すると、どこからかどなり声が聞こえてきた。
「なん————つを、やと————」
(誰だろ……)
食器を抱えたまま、どなり声が聞こえてくるドアに耳を立てる。
話の内容は、何と翔の事だった。
「何で町民で、しかも街の嫌われ者を召使として雇っているんです?」
「これは娘の優亜が決めた事だ。だから仕方がない事なのだ」
「何故、娘の優亜様の意見を——。ハァ、親馬鹿にも程がありますよ」
「親馬鹿ではない!!」
翔はそっとドアから離れると、スタスタと調理場へ向かった。
やはり、自分は嫌われ者だ。嫌われて当然の、流れ者なのだ。
「……ハァ」
本日何度目かのため息を漏らし、翔は廊下を進んで行った。