コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.143 )
- 日時: 2011/05/20 19:22
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第8話
翔は博と雛菊が居る修練場へ来ていた。
理由は特にない。仕事もないので優亜とお話でもしていようかと思ったら、優亜は優哉と取り込み中だった為、あてもなくふらついていただけである。
馬鹿みたいに剣ばかりを振り回す兵士達をボケーと眺めながら、翔は小さなため息をついた。
「最近、ため息ばかりついてますね」
雛菊は翔に視線を当てずに言う。
対する翔も、雛菊を見る事もなく「あぁ」とうなずいた。
城の誰もが翔の事を男だと分かっているので、優亜や優哉、恵梨を除く奴らには敬語は使わないのだ。
翔は沈んだような表情を浮かべ、またため息をつく。
「ため息をつくと幸せが逃げるっつーけど、ホントか?」
落ち込んでいるであろう翔を元気づける為、博は明るい口調で言った。
だが、そんな言葉では翔のテンションは上がる事はなく、重い沈黙が3人の間に流れる。
「……何でそんなに落ち込んでんの。つーか、何でため息ついてんの」
「優亜様が『国を滅ぼしちゃったのは自分のせいだ』と言ってて。で、俺はただそれを聞いてるしかなくて。……何も出来ない自分が憎い」
メイド服のスカートをギュッと握り、翔は険しい表情を浮かべる。
博は「そっか」と軽く返事をして、兵士達に号令を掛ける。
「お前らー!! 体術の達人である翔さんが、東国の体術を教えてくれるそうだぞ!!」
「ちょ、博?! 聞いてなっ……!」
博に反論しようとしたところで、雛菊が翔の背中を押す。
勢いよく押され、前へよろける翔。雛菊の方を一瞥すると、美麗な顔に笑顔を浮かべて立っていた。
「教えてあげたらどうです? 私達の部下は使えますよ?」
「……よぉし、お前らの覚悟はしかと受け取った……。俺の指導は厳しいぞゴルア!! ちゃんとついてこいよ!!」
おぉおおおおお!!! と周りの士気も上がって行く。
翔の顔が、自然と綻んで行ったのは言うまでもない。
***** ***** *****
城下は相も変わらずのにぎやかさ。あちこちでは店の宣伝をする声が響き、人々の笑い声がする。
しかし、その笑い声の中に1人たたずむ女性が居た。
黒く長い髪を三つ編みにして、質素だが町民らしいワンピースを着ていた。
その女性は、ただ静かに自分の足元を見つめるばかりだった。
「……優亜・オルヴェ・ヴリリアント……!!」
女性は顔を上げ、視界の向こうに広がる城を凝視する。
遠くから見ている為、優亜の姿は見えないのは分かっている。だが、今はこうしたいのだ。
ワンピースの裾を思い切り掴み、女性は唇をギュッと噛む。
「……許しません……!! 私の、私の大切な人を、殺した罪は……、重いですよ……!」
聞こえぬ相手に静かにどなり、女性はくるりと城に背を向ける。
自分1人では無理だ。沢山居る護衛隊には敵わないし、最近では東国からやってきた傭兵を雇ったという話も聞いている。
そして何より、彼女の傍にはあの『翔』がついているのだ。
「翔・ルテ・アラスベルク……邪魔なのよね」
女性は歯噛みする。
翔の事は、彼女の耳にも届いていた。東国の体術をマスターし、棒術も得意とするこの街で1番の嫌われ者という事だ。
今では優亜の専属召使となり、働いているそうだが女性が翔に敵う訳がない。
そんな事を考えながら大通りを歩いていると、後ろから声を掛けられた。
気の抜けたような声——今の女性には気に食わない声だった。
「お嬢さん、ちょっとお話聞きたいんやけどー、いい?」
「————ッ!! 何ですか、あなたには用はありません!!」
「いやぁ、ちぃっとばかり道を教えてほしいんやけどな。いい?」
目の前に居る青年、睦月は自前の金髪を横に少し滑らせ、女性に許可を求めた。
女性はため息をつき、怒りを鎮めて訊く。
「……どこへ行きたいんです?」
「ちょっと酒を買いに行きたくてなー。兵士達と仲良うなったからぱーっとやろうかと思うてな」
あ、おいは未成年やからジュースなんやけど、と睦月は笑う。
女性は懇切丁寧に酒屋までの道のりを教えた。
「何や、すぐ近くやないの。お嬢さんおおきに〜。あ、もしよかったら名前、聞いてもええ?」
「……雫・ルートゥルスです」
女性、雫は静かに自分の名前を名乗った。