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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.146 )
日時: 2011/05/21 16:47
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

番外編 第10話

〜睦月視点〜


 いやぁ、ホンマに有り得へんわ。まさか、あのメイドさんが……。
 そんな事を考えながら歩いていたら、燐さんを見つけた。まったく、こんなところに居ったんかい。

「燐さん、革命軍の戦争には参加せぇへんの?」

「する訳ないでしょう命が無駄です。……おや、その袋は?」

 おいが腰にぶら下げていた袋を見て、燐さんは首を傾げた。

「あー、その……翔っちゅー、メイドにもらったんや。これでおいと燐さんを雇うって」

「返してきなさい」

 ぴしゃりと言い放ち、燐さんはおいに背中を向けた。
 おいおい、このお金はあのメイドさんが持っていた物じゃないんや。

「燐さんはそれでええんか? 『アズマ』さんの部下ともあろう奴が、勝てへん相手に逃げ出すんか」

「えぇそうです。僕は傭兵ですよ? そこまで命を懸けられない」

 意地でも戦わない気なんやな。どうしよ、こいつ。
 そーだ。あのメイドさんが言ってたな。いざとなったら、メイドさんの通り名を教えてやれって。

「燐、良い事教えたるわ」

「上司にそんな口の利き方は何です?」

「まぁまぁ、ええからええから」

 燐の耳元で教えてやる。
 そう、だからおいはこの金をもらって来たんや。命令だからな。
 その名前を聞いた途端、燐の表情がみるみる内に青ざめて行く。何かやったのかね。

「嘘ですよね、でしたら僕は、あの人にナイフを投げたと言う事になりますよ?」

「ハァ?! 何をしてはんの、お前?!」

「知らなかったんですよ!!」

 燐さんはため息をつき、「仕方がない」とつぶやいた。そして懐にあるナイフとピストルを確認し、窓枠へと向かった。
 ちょ、まさか窓から逃げるとかそんな事はせぇへんよな?!
 というか、そっちだと革命軍が戦っている方向——!! お前、逃げるんやなかったの?!

「睦月、何をそんなにぼけーと突っ立っているのです。行きますよ!!」

「お、おう? あの、燐さん? 何で革命軍の方から」

「決まってます。気が変わったので雇われてあげるんですよ。たまには勝てない相手に抗うのもいいかもしれないんでね」

 燐さんは珍しく、にっこりとした綺麗な笑顔を見せてくれた。
 ハハッ。マジでやる気か。それなら、おいも負けてられへんわ。

「やったるで、最後まで! 『アズマ』さん!」

***** ***** *****

〜翔視点〜


 優亜様は、俺が作ったケーキを美味しそうに食べてくれている。
 この姿が間近で見られて、俺はとても幸せだ。好きな人と、共に居れるのだから。

「翔は、逃げないでもいいの?」

 不意に、優亜様が訊いてきた。
 本来ならば、優亜様のお言葉通り逃げるだろう。恵梨も零音も逃げた。優哉様もお逃げになられた。
 優亜様も本当ならば逃げるはずだ。だが、優亜様は『自分の責任だ』と言ってここに残っていられるのだ。
 俺が気絶させてでも逃がそうとしたのだが、優亜様はここに居るとおっしゃられた。だから、俺もここに居る。
 優哉様が起こした国滅ぼしなのに、何故娘である優亜様がここまでするのか謎なんだが。

「いいんです。私は、この身が果てるまであなたの傍に居ます」

 これは、忠誠でもある。
 優亜様を処刑するならば、俺も処刑してしまえばいい。俺は元々、嫌われ者だったのだから。

「逃げなさい。革命軍は流石に召使を処罰する訳にはいかないでしょう」

 いつもの声からは考えられない、凜とした声。
 お人よしで、明るくて、天然で、人の事を良く考えていて、でも泣き虫な俺の好きな人。


「優亜様、私の——お願いを聞いてもらえないでしょうか?」


 俺は守る。
 この命をなくしてでも、この人を守る。

***** ***** *****

 革命軍の1人でもあり、リーダーでもある雫・ルートゥルスは王の間にたどり着いた。
 このドアを開ければ、その向こうに居るのはおそらく優亜。それを捕まえればいい。
 雫は思い切りドアを開けた。

「……誰ですか、いきなりドアを開けるなんて」

 玉座に座る優亜。退屈そうに頬杖をつき、雫を見下ろしていた。
 剣の切っ先を優亜に向けて、雫は言い放つ。

「あなたのせいで……私の恋人は死にました!!」

「そうですか、それは申し訳のない事をしました。どうぞ、私を連れて行ってください」

 案外すんなり行けて、雫は呆気にとられた。
 優亜は玉座から立ち上がり、雫に笑顔を見せる。それはとても、悲しそうな憐みのような、そんな笑顔。

「私、優亜・オルヴェ・ヴリリアントを連れて行きなさい。それで、護衛隊と傭兵達を逃がしてやってください」

「それで良いんですか、あなたは殺されますよ」

 雫は反論する。
 しかし、目の前に居る優亜は笑顔を崩さず、こう言ってのけた。

「私は国を滅ぼしました。その罪を、この体に背負わないでどうします? どうぞ、連れて行くなら連れて行ってください」