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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.147 )
日時: 2011/05/21 17:26
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

番外編 第11話


 それは、ほんの数十分前だった。
 翔はくるりと自分の姿を見てにっこりとほほ笑む。鏡の前には優亜が映っていた。
 いや、性格に言うなら優亜に扮した自分が映っていた。
 対する優亜は、前にも着た翔のメイド服の姿だった。少し違うのは、彼女の髪の色だろう。本来優亜の髪は茶色なのだが、今は真っ黒な髪だ。

「ふふっ……。翔、似合ってるわよ」

「似合ってはたまらないんですけどね……」

 翔はドレスの裾をつまんで、苦笑した。
 優亜は楽しそうにけらけらと笑う。

「優亜様、良くお聞きください。城の地下室に、城下へ繋がる道があります。そこからお逃げください」

 その言葉を聞いた途端、優亜の顔がみるみる内に強張って行く。

「ど、どうして? 逃げたくない。私は罪を償う為に——!!」

「あなたは罪を償わなくていい。むしろ、償わなきゃいけないのは俺だ」

 優しくほほ笑み、翔は優亜を抱きしめる。
 優亜は涙をポロポロとこぼしながら、「嫌だ」と叫んでいた。

「俺は沢山の人を殺しました。この国に流れ着くまでに、多くの命を奪ってきました。伝説なんか大層な名前を語れる存在じゃないんです。俺は、人殺しだ」

「どういう、事? 分からないよ。私、城下の事とか、分からないもん」

 すすり泣くように、優亜は言う。かすれた声が耳に届いた。
 翔は涙を流す優亜とは対称に、笑っていた。優しそうなほほ笑みを崩す事無く。

「大丈夫。優亜様はここにいます。だからお逃げください」

 そうだ。ここで、翔は優亜に扮し囮になると決めたのだ。
 優亜の顔が強張り、大粒の涙を流す事も関係なしに、翔は言う。

「だから、最後に言わせてください。俺はあなたが好きでした。ずっとずっと、この気持ちは変わりません。だから、あなたに生きていて欲しいんです」

 優亜から離れ、部屋を去ろうとする。
 しかし、優亜はそんな翔の腕を掴んだ。どうやら、あくまでも阻止するようだ。

「嫌!! 傍に居てくれるんじゃなかったの?」

「あなた様が死ぬなら、傍に居れる事はありません。だから、俺の分まで生きて」

 優亜をドンッと押し、翔は部屋を去る。
 バタン、と閉じる扉の向こうで、翔は1粒の涙を落した。
 部屋から聞こえてくる、優亜の泣き声。今すぐ抱きしめてやりたいが、そうはいかない。
 何せ、もう自分は『優亜・オルヴェ・ヴリリアント』なのだから。

***** ***** *****

〜翔視点〜


 優亜様として、この場に俺は居る。
 俺は公開処刑されるそうだ。雫という奴が言っていた。
 誰も、俺が優亜様だと言う事は知らない。知りもしないだろう。
 皆(というか革命軍)が俺に向かって、罵声を浴びせてくる。皆、優亜様の事を恨んでいたのか?
 いや、もしくは俺とばれたか。忌み嫌われていたものな、俺。

「優亜・オルヴェ・ヴリリアント。何か、言う残す事はないか?」

 言い残す事? この場にそんな言葉を残して、何になる?
 一瞬だけ、ほんの一瞬だけだけど、優亜様と逃げれば良かったと思った。
 でも、そうはいかない。俺は優亜になった。こうして、優亜としてここに居るのだ。

「あは、あははは……」

 だから、俺は楽しそうに笑ってやった。
 優亜様。あなたは逃げれましたか? このアルセーヌ王国から逃げれましたか?
 博、雛菊、零音。今まで本当に世話になった。何で俺がメイドをしてたのかが謎だけど。
 燐と睦月。お前ら、最後まで戦ってくれてありがとう。だけど、雇い主はもう終わるわ。

「あはははははははは!!!」

 狂ってる? 何とでも言え。
 好きな女を命懸けて守れないで、どうする?

「『さようなら。皆様』」


 もしも。

 もしも、生まれ変わる事が許されるのならば。

 もう1度、優亜様の隣に居させてください。






***** ***** *****

 目が覚めた。うが、頭痛い。
 フラフラする頭を押さえ、俺は立ち上がる。
 あー、もう6時か。もうそろそろ朝ごはんの支度をしなきゃいけねぇ。
 俺は眠い目をこすり、シャッとカーテンを開けた。
 まぶしい朝日が目に飛び込んでくる。目に見えるのは青々とした木と、どこまでも澄んだ青い空。

「……よしっ!」

 いつものメイド服に着替え、部屋を出る。
 もうすでに執事として居る燐や、同じメイドとして居る雫が居た。

「遅いですよ翔さん。いつまで寝てるのですか」

「何か長い夢を見てた」

「へぇ、どんなですか?」

 興味深そうに訊いてきたので、俺はさっき見ていた夢を語る。

「良かったですね、殺されて」

「そこを喜ぶところか?! お前を処刑してやろうか!」

 この女……マジで殺してやろうか?
 ふと、大広間に目を移すと茶色の髪を揺らしながら笑っている女の子を見つけた。
 あぁ、生まれ変わりかよ。俺は。

「おはようございます、優亜様」

「うん。おはよう。翔」

 俺、翔・ルテ・アラスベルクは、

 瀬野翔として生まれ変わり、今日もメイドとして生きる——。