コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.151 )
- 日時: 2011/05/22 14:13
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第18話
燐は翔が住む部屋の前に立ち、チャイムを何度も連打する。
しかし、部屋に居るはずであろう優亜の声が聞こえてこない。それどころか、部屋からは人の気配がまったくしない。
「チィッ!」
燐は舌打ちをして、ドアから数歩下がる。どうやら蹴破るつもりのようだ。
足を上げ、そしてドアに思い切り叩きつける。
ドゴンッという鈍い破壊音がして、ドアが真っ二つに割れた。
「優亜様!! 優亜様、いらっしゃいますか?!」
返事はしない。玄関に目を落とすと、優亜の靴はちゃんとある。
燐は靴を脱ぎ捨て、部屋の中へ入って行く。
リビングへ通じるドアを思い切り開けると、広いリビングにはへたりと座りこむ翔の姿が目に飛び込んできた。
「翔! 優亜様はどこへ——!!」
「多分、連れて行かれたよ」
慌てた燐の言葉とは対称的に、翔の声は至って冷静だった。
燐は座りこんでいた翔の顔を自分の方へ向けさせる。
茶色がかった瞳は少しだけ赤くなっていて、頬には涙の跡がある。今まで泣いていたのだろうか。
「自分が情けない。優亜を守れなかった」
翔は燐の腕を振り払い、立ち上がる。
「だったら何故、追いかけようとか探そうとか思わないんですか!!」
「誰がさらったかも分からねぇのに追いかけられるかよ!!」
苦しそうな悲鳴が、部屋に響き渡る。
泣き腫らした瞳に涙をため、翔はどなる。
「マジで情けねぇよ……。嫉妬して、それで釣り合わないとか言い出して……それで連れさらわれたら泣くだけかよ……。マジで情けねぇ」
ソファに倒れ込み、すすり泣くように翔は言葉を紡いだ。
燐は翔の胸倉を掴み、思い切りその頬を拳で殴った。
テーブルをふっ飛ばし、床に叩きつけられる翔。殴られた頬をさすりつつ、燐を見上げた。
「あぁ情けないですね。それでも優亜様が好きなんですか、それでもあなたなんですか!!」
燐は1枚の——睦月からひったくって来た写真を、翔へ投げ渡した。
ひらりと床に落ちた写真を見て、翔は目を見開く。
そこに映っていたのは、紛れもない自分の兄だったからだ。
「兄貴……ッ!」
「その人の名前は『東』——あの最強の不良であるあの人と同じ名前です」
その名前を聞いた瞬間、翔の肩がビクリと跳ねあがった。
「おそらく、この人が不良の東なんでしょうね。年齢でも偽っているのでしょう」
「……だから何なんだよ。何で今、その話をするんだよ!!」
翔はいきり立ち、燐の胸倉を掴んだ。
掴まれて、睨みつけられていても燐は平然と笑っていた。静かに翔の腕を振り払い、襟を正す。
「もしかしたら、この方が優亜様を連れさらったのでは?」
「……何だと?」
「言ったとおりです。優亜様は、おそらくこの方にさらわれました」
***** ***** *****
優亜が目を覚ましたところは、天蓋付きのベッドの上だった。
ホテルか何かのベッドの上。優亜は1人で、だだっ広い部屋に居た。
「ここは……」
まだくらくらする頭で考える、が何も出てこない。
すると、優亜が居る部屋のドアがノックされた。
「え。あの……」
優亜が返事をする前に、ノックをした本人——大地が入って来た。
「よっす優亜ちゃん。目が覚め——ぐほっ」
大地が笑顔で寄って来たので、優亜は枕をひっつかんで大地に向かって投げつけた。
顔面にジャストヒットした枕を床に叩きつけ、大地は苦笑を浮かべる。
「酷いなー、ここまで運んできてあげたのに」
「一体どういうつもりですか。大地さ——」
ハッと優亜は気付いた。
電話で言っていた、『東さん』——もしかして、それは大地の事?!
「あなたの名前は、本当は何なんですか?」
「うん? あぁ、瀬野か東か——って事? もしかしたら、東は偽名かもしれないし瀬野が偽名かもしれないし……そんなとこだよね」
あはは、と楽しげに笑う大地。
優亜はもう1個枕を投げつけてやろうかと思ったが、何とか止めておいた。
「だったら、翔は——」
「あはは。それは本人に訊いてみないと分からないんじゃないかな? まぁ、もっとも。ここには来ないだろうけど」
「……どういう意味ですか」
優亜は大地を睨みつけながら、静かに低い声で訊いた。
大地は近くにあったカーテンを開け、外の景色を優亜に見せてあげる。
窓の外は高い高層ビルがいくつも並び、それぞれが色とりどりに輝いていた。
「ここは七尾財閥の本社——君の婚約者の家さ」