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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.158 )
日時: 2011/05/28 20:49
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第19話


 蹴られた腹をさすりながら、大地は立ちあがった。埃にまみれたスーツを払い、翔を睨みつける。
 一方、翔は面倒くさそうに頭をガシガシと掻きながら立っていた。最早女の欠片も感じられない。

「お、お、お前……僕を殴り飛ばした……!」

 大輔はプルプルと震える指で、翔を示す。
 自分が指されてる事に気付いたのか、翔はにっこりと笑った。
 もし大輔が翔に殴り飛ばされてなければ、完璧翔に惚れていたはずだろう。だが、その笑顔に大輔は震えあがった。

「さぁ、優亜様をお返し願います。10数える間に優亜様をこちらへお渡しくださいませ」

「出来ない事だね。翔、分かってるの? 君の大事な大事なお友達が人質として居るのに」

 大地の言葉に、翔は床へ視線を移す。
 赤いカーペットが敷かれた床に転がっていたのは、恵梨達だった。
 だが、そんな恵梨達が居るのに、翔は

「知るか。そんなもん」

 と、バッサリ言い放った。
 大輔、大地、もちろん優亜も呆気に取られる。
 あれほど仲が良かったじゃない。なのにこういう局面に立たされると途端にホイと投げ出すの?!

「俺はご主人様だけ居ればどうでもいいし」

「いつから君は忠犬タイプになっちゃったの? まぁ、いいや」

 大地は腰を低く落とし、身構えた。

「戦えば、優亜を返してくれるんだ」

「勝てたらね。ご褒美として返してあげるよ、でも——」

 スッ、と大地の目が細くなる。冷気を浴びた瞳になり、ゾクリと何かが背中を這いあがるような感覚が貫く。

「お兄ちゃんに勝った時って、なかったよね? 翔」

「そんなの昔の話だ。やってみなきゃ分からねぇだろ!!」

 翔はどなり、床を蹴りだす。
 同じように大地も床を蹴りだし、同時に2人がぶつかり合った。
 翔の拳が大地の腹に突き刺されば、大地は翔の脇腹を蹴り上げる。翔の蹴りが大地の顎に炸裂すれば、大地は翔の頭へ肘鉄を叩きつける。
 両者とも1歩も退かない熾烈な戦いが繰り広げられていた。

「翔……!!」

 優亜はギュッとドレスの裾を掴んで、翔達の戦いを見守っていた。だが、その腕を大輔に掴まれる。
 そのまま大輔の方に顔を向けられた。

「な、何を——!!」

「優亜ちゃん。今は誰も邪魔はしないんだ……。さぁ、誓おうか」

 大輔がまるでタコのように唇を突き出してくる。
 優亜はそんな大輔の顔に、平手打ちをした。パンッという乾いた音が部屋に響く。

「あたしに、触らないでッ……!」

「くそっ……。女の分際でェ!」

 殴られてムカついたのか、大輔は優亜に殴りかかろうとした。
 すると、突然大輔の腹にひざ蹴りが叩きこまれ、大輔は体をくの字に曲げて吹っ飛ぶ。
 優亜の目の前に現れた黒白のメイド服、紛れもなく翔の姿だった。

「優亜、無事か?!」

「うん!!」

 翔は優亜の方へ振りかえり、慌てた様子で訊く。
 優亜は反射的にうなずいた。心なしか、表情が嬉しそうだ。

「今のうちに避難しとけ。あの馬鹿ナルシストが来る前に! 燐でも叩き起こせ!」

「え、でも……翔は?!」

 翔が優亜の問いに答える前に、大地のひざ蹴りによってベッドに叩きつけられる。
 すぐに立ちあがり大地に対応しようとしたが、大地は翔の上に馬乗りになり首へと手を伸ばした。
 細い首に指をからめ、そして締め上げる。

「このまま彼岸へ行ってきなよ……。今度こそ、さよならだ」

「くっ……は、」

 苦しそうに息を漏らす翔は、首に自分の指を入れて何とか振りほどこうとしている。
 優亜は翔を助ける為に大地の後ろに飛び付き、ポカポカと背中を殴りつけた。

「翔を放してよ!!」

「うるさいな。邪魔しないで!」

 大地は優亜を振り払う。
 ベッドから振り落とされた優亜は、そのまま床に尻もちをついた。

「ゆ、あ……!!」

 翔の苦しそうな声が聞こえてきた。
 優亜は急いで立ちあがり、もう1度大地に殴りかかるが振り払われた。
 今度はかなり強く払われたらしく、床に思い切り叩きつけられた。
 翔は力を振り絞り、大地を蹴り上げる。

「おっと」

 大地は翔の蹴りをよけ、ひらりと空中へ逃げる。
 激しく咳き込みながら、翔はベッドから這い出た。そして体勢を立て直す。

「いくらやっても無駄なんだから」

 大地は楽しそうに言った。
 だが、そんな大地の声を叩き落とすかのように、冷たい翔の声が部屋に響いた。

「それは、どうだろうな?」