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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.160 )
日時: 2011/05/29 15:28
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第19話 3部


 東……否、翔は大地を睨みつけ、鎌を持ち直す。

「この街に来てから、良く間違えられるんだよね。『お前、不良の東か?』ってさ。違うのにね」

「俺と兄貴は容姿が似てるからな」

 大地の言葉を一刀両断し、翔は鎌を構えた。
 軽く言い捨てられた大地は、ふぅと深いため息をつく。そして眼光に冷たい色を宿らせて肉食獣のように笑う。

「昔の『俺』じゃない、か。何なに? 恋をしたから学校に行きたくなかったとかー?」

 大地は優亜の方を一瞥する。
 唖然としたような顔をしている優亜を見て、軽く笑い飛ばした。

「あははは、優亜ちゃん。翔がこんな子だって知ってさ、嫌いになっちゃった?」

「え、あ、」

 いきなり自分に振られ、優亜は反応に戸惑う。
 翔は優亜の方に視線を移し、そして柔らかい笑みを浮かべた。ポン、と優亜の頭に手を乗せ、ぐしゃぐしゃと掻きまわす。

「嫌われても良い。俺の事、覚えてて」

「しょ、う?」

 温かい手のぬくもりが離れるのを、優亜はずっと見ていた。
 翔は持っていた鎌の刃を、地面にスレスレになる所まで落とす。ギュッと柄が折れそうになる程に握りしめ、大地に向かって駆けだした。
 大地は鎌を持ち直し、翔の攻撃を押さえる。だが、意外にも力が重すぎて少しだけよろけてしまった。

「う、うわわわ! あ、東! こっちに来るな!」

 大地の後ろで大輔が叫ぶ。
 翔は大輔を睨みつけ、大地の鎌を振り払う。
 ギャリッと金属のこすれる音がして、大地がよろける。すぐに体勢を立て直そうとして鎌を持ち直したが、遅かった。

「大丈夫だ、兄貴」

 高い天井に舞う翔。明るいシャンデリアを背負い、逆光で表情が良く見えない。


「東は、人を殺さないからよ」


 まるで野球のバットを振るうかの如く、翔は大地の腹目掛けて思い切り鎌をスイングした。
 鎌の柄が大地の腹に当たり、大輔を巻き込んで壁に叩きこまれる。
 コンクリート片が辺りに飛び散り、2人は気絶した。

「……あ、と……」

 優亜達の事に気付いた翔は、ゆっくりと皆が居る方へ視線を向ける。
 何か、本当に呆けたような表情を浮かべる皆。東が翔だって事が意外だったのか。

「ばれちまったもんなー」

 翔はそう言うと、近くにあった大きな窓のガラスを素手でぶち破る。
 ガシャンと破壊音がして、びゅぅと風が部屋に入り込んできた。冷たい風が、部屋に居る全員の髪を揺らす。
 目下に広がるネオンの色と暗い空。風が耳元でビュービューと鳴っている。

「翔! 戻って、戻りなさい!!」

 優亜は翔の背中にどなり声を当てる。
 翔は優亜の方へ振りかえり、そして駆けよる。ボロボロの腕を伸ばし、優亜を思い切り抱きしめた。

「優亜。1度しか言わないから良く聞け」

 耳元で、愛おしそうに翔は優亜へ言葉を紡ぐ。
 離したくないと、優亜は翔の背中へ腕を回し、同じように抱きしめた。

「俺はお前が好きだ。誰が何と言おうと、神が俺を殺そうとも、永遠に愛してる」

 優亜の頬に伝う涙を手で乱暴に拭い、翔はくるりと身を翻した。
 そのまま真っ直ぐ窓へと向かい、サッシに飛び乗る。そして舞台俳優のように綺麗な一礼をした。

「お前ら、刮目して見よ! 耳の穴をかっぽじって良く聞け!!」

 部屋に翔の声が響き渡る。
 まさか、と思ったのか燐が「止めなさい!」と叫んでいた。雫も翔を止めるべく、傷ついた体に鞭を打って立ちあがった。

「俺の名前は東翔。あの最強の不良『東』にして——相崎家のメイドである!」

 それだけ言い残し、翔は夜の世界へと飛び立った。
 ネオンの中に吸い込まれていく翔。全員は、窓に駆け寄り、下を見下ろした。
 だが、輝く街の中にはもうすでに翔の姿は見えなかった。

「……翔」

 優亜はペタリ、と地面に座りこんだ。
 出来る事ならば、直接本人に伝えたかった。

「あたしも、あたしも翔が好きだよ————」




 次回、最終回!! 皆、見逃すな!