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Re: 俺様メイド?!! ( No.22 )
日時: 2011/01/18 21:51
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第3話 3部

 優亜が目を覚ました所は、教室の床の上だった。
 縄か何かで腕を縛られていて、身動きが取れない。きっと、あの東という少年のせいだ。
 首だけを動かせば、恵梨と博が倒れているのが見えた。

「恵梨、博!」

 優亜は2人の名前を叫ぶが、その2人が起きる事はなかった。
 代わりに、高々とした笑い声が、優亜の耳朶を打った。
 金髪に黒ラン。東の姿である。

「騙したわね……」
「騙した? 人聞きの悪い。俺は『東』だよ? この高校の頂点に立つ不良だよ? 悪い事をするのは、当たり前なんだよ」

 東は当然と言うように、優亜に向かって言い放った。
 悔しい。
 本当だと思ったのに、騙された。途端に悲しさがこみあげてくる。
 すると、東は優亜の茶色く長い髪の毛を引っ張って、自分の顔に近付けた。

「まぁ、騙される方が悪いって事で」
「最低……ッ!!」
「最高の褒め言葉をありがとう。でも君、綺麗だから——」

 東は優亜を床に叩きつけ、そして笑う。

「俺の女にしてやるよ。奴隷のように、ね?」
「……ッ!!!」

 優亜は悔しそうに唇を噛み、東を見上げた。
 東はまたにっこりとした笑みを優亜に向け、優亜の顎を撫でる。持ちあげて、優亜を目の前まで引っ張り上げた。
 それでも優亜は、東を睨む事を止めなかった。
 こいつだけは許さない。許したくない。
 あの時の自分が、今は馬鹿に思えてきた。
 何でこんな事になってるんだろう。自分の性だ。
 だから、恵梨と博が捕まっているのだ。自分が連れてきたせいで。
 助けを求めれば誰かが来る? 来ないに決まっている。
 翔だっていないのだ。助けて、なんて言ったら——。
 あぁ、でも。翔になら、希望を託しても良いだろう。

「あ、東さん!」
「何だ? ……その傷、どうした」

 その時、いきなり教室にボロボロの生徒が入ってきた。
 どこかで転んだ、様子ではなさそうだ。まるで、誰かに殴られたような形跡がある。
 遠くから『ギャッ』だの、『ぐはっ』だのうめき声が聞こえてきた。

「何だ。誰が攻めてきているんだ!」
「私ですけど、何か?」

 言葉が聞こえた瞬間、ドアが吹っ飛んだ。
 砂埃と共に現れたのは、メイド服に身を包んだ翔の姿だった。

「しょ、う……」
「あらあら。見事に傷だらけ……。本当に、仕様がないお嬢様だ」

 翔はため息をつき、東に目をやる。
 東はメイド服姿の翔を見て、くすくすと嘲笑を浮かべた。

「何? この子のメイドさん?」
「まぁね。雇われてますけど、何か?」
「メイドさんが何でこんなところまで攻めてくるのかな? 教えてほしいな」

 東は優亜を放し、翔の前に立つ。

「主の安全を守る為なら、こんな不良の巣窟にでも来ますわ。常識でしょう」
「ふーん、常識ね。じゃぁさ、可愛い可愛い子は、ここの学校で襲われちゃうってのは知ってるかな?」

 東は翔の腹をめがけて、パンチをした。
 しかし、翔は東の手を軽々と掴み、にっこりとしたほほ笑みを見せる。
 ゆっくりと、ゆっくりと翔の瞳を見る東。冷や汗が流れている。

「弱いね。反吐が出る」

 翔はそれだけ言うと、東に回し蹴りを叩きこんだ。
 吹っ飛ばされて壁に叩きつけられ、気絶してしまう東。だが、細々とした声で、周りに居た手下に命令を下す。

「そいつ、を、やれ!」
「俺に敵うと思うなよ! ガキどもが!」

 翔はまず、右から襲ってきた生徒に回し蹴り。そしてそのまま生徒を踏み台にして、天井へと飛び上がる。
 左右から襲ってきた生徒は、共に頭をぶつけて気絶。
 降り立った途端に、翔は後ろからはがいじめにされたが、肘鉄を喰らわし、前から来る生徒の顎を蹴りあげる。
 次から次へと倒していく翔の姿は、まるで死神。
 優亜の頭に、ある仮説が浮かぶ。

——まさか、翔が東……?

 いや。勝手に決め付けるのはよくない。
 優亜は仮説を頭から吹き飛ばした。
 その時だ。

「てめぇ、よくもやりやがったな!」

 東が気絶から起きあがり、ナイフで翔に襲いかかる。
 咄嗟によけた翔は、ナイフが頬をかすめ、微かに血が出る。
 翔は東を睨み、舌打ちをした。

「邪魔をするなら、こいつを殺すぞ!」

 東は優亜にナイフを突き付け、翔に向かってどなる。
 翔は東を睨み、そして一言。

「お前、東って言ってたよな」
「……そうだが?」
「東はよ。そんなに弱い奴が語る名前じゃねぇ」

 翔はスカートの中から、1本の棒を取り出した。それを伸ばし、先端に鎌のような刃をつける。
 その姿はまるで死神。これから、東を狩るような……。

「優亜。殺しはしない。ただ少し……痛めつけるだけなら良いよな?」
「……許可する」

 優亜はにっこりと笑って、翔に言った。
 瞬間————。

 東が、一瞬にして倒れた。

 きっと、翔のオーラにやられて倒れたのだろう。泡を吹いて白目をむいていた。
 翔はその姿を見て、くすくすと笑うと、優亜の縄を切る。

「大丈夫ですか、優亜様」
「大丈夫……じゃないわよ」

 少しだけ。
 本当に少しだけ。
 翔が、カッコイイと思ってしまったのだ。

 きっと、気のせい。気のせい。
 翔が好きなんて、思ったりしない。