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Re: 俺様メイド?!! ( No.23 )
日時: 2011/01/19 17:04
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第4話

「あぁ、優亜様。明日は私、お休みしますので」
「ハイ?」

 優亜は、拍子抜けた声を出した。
 翔は平然とした表情で、もう1度告げる。

「明日、休みますので」
「え。待ってよ、何で?!!」
「奥様が新規採用した執事とメイドを試したいとの事ですので、明日はその2人に任せますので」

 新規採用? いつの間にそんな事をしたのだろうか。
 そもそも、翔は確か、住み込みで働いていたはずだ。明日は休みって、いきなりすぎる。
 でも、ここで優亜がどうこう言う権利はない。優亜は小さくうなずいた。

***** ***** *****

 次の日である。
 今日は土曜。いつもなら起こしてくれる翔が、今日はいない。
 優亜はゆっくりと起き上り、窓の外を眺めた。
 休日に外に出る事は、あまりない方だ。恵梨や博に誘われない限り、優亜は外に出させてもらえない。

「おはようございます、優亜お嬢様」
「……誰?」

 優亜の部屋に居たのは、肩までつきそうなストレートな黒髪を持つ執事と、仏頂面の眼鏡メイド。おそらく、新規採用の執事とメイドだろう。
 執事の方は、恭しく優亜に頭を下げた。

「初めまして。このたび採用されました、久遠燐と申します」
「同じく、市之宮雫です」
「あ。初めまして、相崎優亜です」

 執事、燐はにっこりと笑う。
 メイド、雫は笑う事なく、頭をあげた。

「では、まずはお着換えから。朝食を作ってまいりますので、雫さんと降りてきてください」

 笑顔を崩す事なく、燐は部屋から出て行った。
 ……完璧だ。

 それから、優亜はずっと窓の外を眺めていた。
 正直言えば、翔が来ないか待っていたのだ。
 いつもなら窓の外を眺めていると、翔が近付いてきて茶化すようにこう言う。

——窓の外に何かいんの? 虫?

 などと笑っている姿が目に浮かぶ。
 その時、目下に見える道に、黒い長髪の少年が、欠伸をしながら通り過ぎて行った。
 見間違いでなければ、あれは間違いなく翔だ。
 優亜は思わず椅子を立ち、窓を開ける。

「翔……?」

 あれは間違いない。翔だ。
 優亜はパーカーを羽織ると、家から飛び出した。

***** ***** *****

 この街の商店街に、翔の姿を発見した優亜。人ごみにまぎれ、翔を追跡する。
 ばれるんじゃないかと思っていたが、案外ばれる事はなかった。

「……一体どこに行くんだろう」

 優亜は翔を見失わないように、かなり後ろをつけていた。
 すると、翔はあるところでピタリと止まった。
 そこは本屋。何やら悩んだ挙句、翔は本屋に入って行った。

「え、えぇ?!」

 優亜は慌てて本屋に入り、翔を追いかける。
 どこにいるかと思ったら、洋書の辺りに見つけた。何やら分厚い本を立ち読みしている。

「おっちゃん。これ全部、翻訳されてるでしょ」
「あー、翻訳されてるね。英語の文章は少数しかないんだよね」
「じゃぁ仕方ないか。これ買うよ」

 翔はさっき読んでいた本を買い、本屋から出て行った。
 優亜もそのあとを追いかける。
 その後も商店街をブラブラしていたら、何やら翔が男子生徒に絡まれた。
 黒ランからして、黒金高校と見れる。

「なっ……黒金っ……!!」
「おぅ、翔。元気だったか?」

 何やらなれなれしく話しかけてきた。
 翔もそいつらと絡み、楽しそうに立ち話をしている。

「最近どうよ、黒金は」
「あー……。何でも、謎のメイドさんが攻めてきたらしくて、3年生を全滅させちゃったらしいよ?」
「そか。ま、ざまみろって事で」

 翔がけらけらと笑って、その生徒と別れる。どうやら友達だったらしい。
 優亜が進み始めた翔について行こうとした時、翔がピタリと止まり後ろを振り向いた。
 思わず優亜は視線をそらしたが、無駄だった。

「何をしてんだ、優亜」
「人違いじゃないですかぁ……?」
「馬鹿優亜。何でついてきたんだ」
「だからぁ、人違いだって!」

 優亜は弁解するが、翔は聞かない。小さなため息をつくと、優亜の腕を引っ張った。

「え、どこ行くの!」
「さぁな」

 2人が来たところは、とあるオートロックのマンション。翔はフロントで部屋の番号を入れて、ロビーに入る。
 もちろん、優亜は翔に連れられている為、一緒に入って行った。

「ここどこ?」
「俺ん家。ここの12階」

 エレベーターに乗り込んで、翔は12階のボタンを押す。
 優亜は翔の腕を振り払う。

「何、そんなに嫌だった?」
「嫌よ。男、嫌いだもん」
「あ、そ」

 そうこう言っているうちに12階へ着き、翔は部屋のドアを開ける。

「入れば? 何か飲んでいくだろ」
「う、ん。おじゃまします……」

 優亜は、おずおずと入って行った。
 長い廊下の先には、拾いリビング。1人で暮らしているにはもったいないぐらいの広さ。
 白を基調とした部屋は、必要な家具だけが揃っている。本棚には、英語で書かれた本が並んでいた。

「座ってろよ。つか、マジで大人しくしてろよ」
「分かってるわよ」

 優亜は翔に言われ、ソファに腰をかける。
 後ろを振り向けば、台所で翔がコーヒーを作っていた。

「で、何でついてきたんだよ。寂しかったのか?」
「違うもん。寂しくないもん」

 優亜はぼそぼそと言う、が顔が真っ赤なのは隠せていなかった。
 翔は優亜の前にコーヒーの入ったカップを突き出し、優亜と離れて座る。きっと配慮してくれたのだろう。

「翔は、1人で暮らしてるの?」
「? あぁ、暮らしてる。お前と違って、俺は寂しがりじゃないんでね」
「どういう事よ」

 そういう事さ、と翔は言ってコーヒーをすする。そして、何を思ったのか、翔は優亜に鍵を渡した。

「合鍵。たまに休む時があるからさ、もし寂しくなったら来な」
「だから、寂しくなんか——」
「嘘つけ。だからついてきたんだろうが」

 翔は子供のように笑って見せた。
 あぁ、何だろうか。この気持ち。
 本当は、

 翔に会いたくて来ただけなんだ。