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Re: 俺様メイド?!! ( No.27 )
日時: 2011/01/23 18:40
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第6話 2部

 以前、優亜は翔にこんな事を訊いた事がある。

「ねぇ。翔ってさ、映画とか好き?」
「映画鑑賞か? まぁ、好きだな。面白いもんがあれば見に行くけど」
「じゃぁ、どういうジャンルが好き?」
「恋愛映画じゃなければ何でも見るけど」

 その事を優亜は、博に話した。
 すると、博は優亜にこう言ったのだ。

「よし! 翔さんを映画に誘おう!」

 まぁ、つまりデートに誘おうという解釈になる。そんな事を知らない優亜は、博に笑顔で「頑張れ」と言ったのだ。
 実際にこうなるとは思わなかった……少し後悔。
 でも何か面白い事になってるから、良いか。

「翔さんはどんな映画が見たいですか?」
「……そうですねぇ。これなんかいかがでしょうか?」

 翔が笑顔で、映画のタイトルを指した。
 『病棟305号室』……言わずもがな、ホラー映画だ。
 ここで念のために行っておこう。翔はホラー映画が大好きで、博はホラー映画が大嫌いなのだ。
 一瞬顔をひきつらせたが、ここは男の見せどころ。博は清々しいほどの笑顔で、頷いて見せた。
 そのあとを追いかけるように、優亜達も映画館の中に入って行った。

『305号室の病人が病室を汚して狂ったように笑っています。何とかしてください!』
『ううむ、何かに取り憑かれたか?』
(何だろこの映画、くそつまんねぇな)

 翔は売店で買った飲み物を片手に、スクリーンをつまらなさそうに見る。
 その時、椅子に乗せた翔の手を覆うように、博が手を置いてきたのだ。
 思わず叫んで振り払おうと思ったが、どこか様子がおかしい。
 目を向けてみれば、博は固まった表情のまま、スクリーンを見ていた。心なしか、顔が青ざめている。

「だ、大丈夫大丈夫……。こんなの作り物、作り物……」
(こいつ、ホラーが苦手なのか?)

 翔は小さなため息をついて、またスクリーンに目をやる。
 ちょうどそこが見せ場なのか、いきなりお化けが飛び出してきた時、博は少しだけ悲鳴を上げた。
 そんな博を見て、翔は優しく手を握ってあげた。

(……何で、無理なんかしてんだよ。俺は男だぞ)

 翔は舌打ちをするように、心の中で言った。
 一方、優亜達は。

「ぎゃぁぁぁ!!! な、何あれ。超怖い!」
「幽霊……大丈夫、作り物!!」
「嫌ぁぁぁ! 血ぃ! 血がぁ!」
「……皆様、叫ぶ事を止めてください……」
「燐さん。無駄です。皆さんとても怖がってます」
「そういう雫さん。何故あなたは僕の手を握っているんです?」
「あなたが怖いと思いまして」

 超迷惑。翔には気付かれていないけど。

***** ***** *****

 映画館を出た博は、もうへろへろ。怖いものを2時間弱見させられたのだから、精神はスレスレ。
 翔の方は「つまらなかったなぁ……」とつぶやきながら、博の隣を歩いていた。
 その時、2人の前に数人の不良の影が現れた。言わずもがな、こいつらナンパ。翔をナンパしにきたのだろう。

「彼女、そんなへろへろの彼氏じゃなくて、俺らとお茶しない?」
「しません」

 翔はきっぱりと断った。
 大体、今はデート中。約束をほっぽりだすような奴ではないのだ、翔は。
 だがナンパも諦めない。翔の腕をつかみ、連れて行こうとした。

「良いじゃん。彼氏そんなんだしさ」
「放してください」

 慌てた様子もなく、翔はナンパの腕を振り払おうとした。
 ゴスッ
 博がナンパに向かって、思い切り腹を殴った。

「その人を放せ!」
「あぁ?!! 何だこいつ、やんのか?」
「翔さん逃げてください! 俺は構いません、こんな奴らになんか負けませんから!」

 博はそう言って、ナンパを2、3人片づける。
 だが、力の差と言う物がある。所詮は博も高校生、しかも喧嘩には不慣れのお坊ちゃん学校の生徒なのだから、あっさりやられてしまう。
 鼻血を出し、目を腫らせながらも翔を守ろうと、必死になって相手に向かっていく博。

(……助けなきゃ……)

 翔はそう思い、足を1歩踏み出したのだが、ある台詞が蘇り歩みを止める。
 それは、優亜にきつく言われた言葉。
 『絶対に男を見せるな』——。
 恵梨も雛菊も零音も博も、翔が男だとは知らない。まして、博とデート中なのだ。何が何でも素性を隠せ、と言われているのだ。
 ナンパは、翔の肩に手を置き、耳元で囁いた。

「な、こんな奴放っておいてさ……。行こ?」
「ふざけんな」

 翔は完全にブチギレ、ナンパの顎に蹴りを叩きこむ。そして前に走り出し、博を殴ろうとしたナンパを蹴りつける。
 流石に驚いてリアクションが遅れたが、ナンパは翔に向かって叫ぶ。

「おい女! 何するんだ!」
「……はは、ははは。よってたかって、1人を虐める奴があるかよ。そんな奴はな……男の風上にも置けない」

 翔はバキボキと手の骨を鳴らし、ナンパに向けて笑顔を見せた。
 それは、悪魔が降臨したかのような黒い笑顔だったが。

「だから——俺が調教してやるよ」

 直後、悲鳴が起きた——。

***** ***** *****

 全員片づけた後、翔は博に目を向ける。
 完全に強張った表情。引かれてしまったようだ。

「では、博様。楽しかったです、ありがとうございました」

 それだけ言って、翔は立ち去ろうとした瞬間。
 博は、翔の腕をつかみ、叫んだ。

「翔さん。どうして言ってくれなかったんですか」
(やっぱり、ばれたか)

 翔は諦めたように立ち止り、博の方を向いた。

「どうして喧嘩が強い事、言わなかったんですか!」
「ハイ?」

 意外な答えが返ってきて、翔は少し焦った。

「キレると俺口調になってしまう……そんな女の子も良いです! 翔さん、ますます惚れました!」

 翔は思わず笑ってしまい、博にデコピンをかます。

「ま、頑張れよ。俺はそう簡単には落とせないぜ? 博」

 それだけ言うと、翔は子供っぽく笑って見せた。
 あのデートから数日後。博は翔に釣り合う為、空手と柔道と合気道を習い始めたという。