コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!! ( No.30 )
- 日時: 2011/01/25 17:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第7話
「あ、翔! ねぇ聞いて!」
「何でしょうか優亜様。恋の話ならお断りしますが」
「あたし、彼氏が出来た!」
ガッチャン。
翔は固まった表情で、拭いていた白いティーカップを割ってしまう。
「え、あの……。優亜様は男嫌いなのでは?」
「うん。でもね、もうそろそろ、慣れないといけないなぁ……って思って」
優亜はにっこりとした笑顔を浮かべて、翔に告げた。
翔はガラスの破片の拾いながらため息をつき、優亜に部屋へ戻れと告げた。ちなみに、機嫌が悪い声で。
どこか変だと思った優亜は、翔におそるおそる訊く。
「怒ってる?」
「いいえ全然えぇ彼氏が出来たなんて嬉しい事じゃないですかあの男嫌いの優亜様がきちんとした異性を好きになるんですから」
「え、やっぱり怒ってるんじゃないの?」
翔は笑顔を浮かべていたが、黒いオーラがオプションで見える。どうやら、相当怒っているようだ。
「では、お幸せに。私は一切関係ない事なので」
翔は丁寧にガラスを片づけ、残りの食器を片づけに入る。
優亜は大人しく部屋に戻って、小さくため息をつく。
どこか変だ。もしかして————。
いや、翔に限ってそんな事はないだろう。それに、自分だってもう彼氏がいるのだ。
翔はただのメイド。雫とか、燐とかと同じ。うんそうだ!
「……ハァ……」
でも、どこか変だ。自分も。
彼氏が出来たのだから、喜んでいいはずなのに。翔も喜んでくれると思ったのに。
実際、男に相談するのがいけないと思っていたのだが。
「まぁ、良いか」
優亜はそうつぶやいて、ベッドに倒れこんだ。
***** ***** *****
夕食の時間。大広間に行けば、いつも3人が迎えてくれるはずなのだが、今日は翔の姿が見当たらなかった。
燐と雫が、大広間で夕食の支度をしているだけだった。
「あ、れ? 翔は?」
「翔さんは、体調不良で家に帰られました。おかしいですね」
燐はスープを皿に入れながら、心配そうな顔をした。
優亜は大広間を飛びだし、自分の部屋へ駆け込む。そして、自分の携帯を取り出し、翔の携帯番号を呼びだす。
いつでも連絡が取れるように、翔の携帯番号を(無理矢理)聞いておいたのだ。
コール音が2回鳴り、プッと音がする。
『はい、もしもし』
「翔? 何でアタシに断りもなく帰ったの?」
『すみません。急にお腹が痛くなってしまって……。優亜様は寝ていらっしゃったので、燐に言って帰らせてもらいました』
「……そう」
『明日には必ず元気になります。ご心配して下さり、ありがとうございました』
電話越しの翔は、いつもの口調だった。明日には必ず家に来るのだそうだ。
安心した優亜は、じゃぁねとだけ告げて、電話を切ろうとしたが、電話越しに翔の声がした。
『俺がいないと、不安か?』
冷たく響く、男口調。それは、翔の地声。
優亜は一瞬だけ顔を赤く染め、マイクに向かってどなる。
「そ、そんな訳ない!」
『あっそ。大丈夫だ、明日には来るから。心配すんな』
じゃぁな、と翔は別れを告げ、電話を切った。
少しだけ後悔した事がある。
それは、彼氏を作ってしまった事。
相手が告白してきて、それで良いよと言ってしまったのだ。作ってすぐに分かれるなんてしたら、きっと——。
「……不安なんかじゃない……もん」
優亜は携帯電話をポケットに押し込み、部屋を後にした。
暗く、電気もついていない部屋の中。翔は電話の切れた携帯電話を、じぃっと眺めていた。
笑えてくる。
自分が、主の彼氏になんかに嫉妬をするなんて。
本当は腹痛なんて、ただの仮病なのに。
でも、今は優亜の近くには居たくなかったのだ。少しでも早く、離れたかったのだ。
優亜には、きちんと幸せになってもらおう。
自分は——メイドなのだから。
「……ハッ、分かってるよ。そんな事」
携帯をソファに投げつけ、翔は外を見上げた。
藍色の空には、金色の月がぽっかりと浮かんでいる。冷たい光を、自分に浴びせていた。
「まったく……どうかしてるよ、俺」
「こんなの、叶わないって分かってるのに——」