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- Re: 俺様メイド?!! ( No.31 )
- 日時: 2011/01/25 17:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第7話 2部
翌日。翔はいつも通り、つか優亜が登校した後にやってきた。
なるべく会いたくないのだ。
優亜に会うと、調子が狂う。
いつものメイド服に着替えながら、翔は軽くため息をついた。
「……ため息なんかついてる場合じゃないな」
翔は自分に言い聞かせるようにつぶやき、更衣室を出た。
すると、自分を呼ぶ声がしたので、その場で立ち止まり振り返った。自分を呼んだのは、燐だった。
「昨日の病気。あれは仮病でしょう」
「……言わないでくださいね」
言いませんよ、と燐は苦笑を浮かべて言う。
翔は燐に背中を見せ、仕事場につこうとした。
燐はそんな翔の背中に、こう言った。
「本当は、苦しいんでしょう?」
「……黙れ」
翔は男口調で、燐に言う。顔は向けずに、ただ淡々とした言葉で。
「あなたは、自分を押しこめているだけです。そんなんじゃ、優亜様は気付かない」
「……黙れって言っている」
「本当の気持ちを隠して優亜様の近くにいるの、辛くないですか?」
次の瞬間、翔は鎌を持って燐の首筋に突き立てていた。
それを見て、燐はのん気にへらへらと笑っていたが、翔の腹には確かに銃口が向いていた。
「それ以上言うなら、このままお前の首をはねるぞ」
「でしたら、僕もこのまま銃の引き金を引きましょうか。そして、そのまま優亜様も殺してしまいましょう。心中、なんてどうです?」
燐は丁寧な口調で喋っていたが、目が笑っていない。
無言のまま静かに時が過ぎ、翔は鎌を燐の首筋から外す。そしてツイと顔をそらし、そのまま何も喋らず、スタスタとどこかへ行ってしまった。
銃をしまって、燐は腰につけた懐中時計を見やる。
短針が10と11の間にある。そろそろ、掃除をしなくては間に合わない。
「さて、雫さん。そこに居るのでしたら、屋敷の周りを掃いてください」
「……分かっていたんですか?」
「えぇ。ずっと見てましたね」
「それなら言ってください。私の手にかかれば、あんな奴——」
「良いんですよ。あの人はあのままで」
***** ***** *****
そして、優亜は帰宅する。後ろに居るのは、少し背の高いスポーツマンの様な青年。もちろん、優亜の彼氏である。
家のドアを開け、いつものメイドの名を呼ぶ。
「翔、ただいま」
「ハイ。お帰りなさいませ、優亜様」
大広間の掃除をしていたようで、翔はモップを片手にペコリとお辞儀をした。そして、彼氏を一目見て、優亜に問う。
「そちらのお方は——」
「あ。紹介するね、彼氏の菱川彰(ヒシカワ/アキラ)先輩」
「どうも。初めまして、優亜から話は聞いています。何でも出来るメイドさんのようで」
優亜から紹介を受けた翔は、彰に向かって一礼をする。
「では、彰様。ゆっくりなさってくださいな」
「ありがとうございます」
翔はまた忙しそうに、大広間へ戻って行った。
優亜は首を傾げて、彰と共に自室へと向かう。
「あのメイドさん、名前あるの?」
「ありますよ。翔って名前です。後他に、燐さんと言う執事と雫さんと言うメイドさんがいます」
「へぇ、会えると良いなァ」
彰はにっこりとした笑みを浮かべ、優亜に言う。
優亜もつられて笑みを浮かべた。そこへ、翔に何かを言われたのか、燐が入ってきた。
「初めまして、僕は久遠燐と申します。どうか、優亜様をよろしくお願いしますね」
「あ、ハイ」
「ねぇ、翔はどうしたの? お掃除が忙しいの?」
優亜は、翔を気遣うような口調で、燐に訊いた。
燐は苦笑を浮かべて、優亜にこう答えた。
「えぇまぁ。大広間のお掃除が終わりましたら、お呼びしましょうか」
「……うん。昨日の病気、まだ治ってないかもしれないから、遅くても良いから」
翔に伝えといて、と優亜は燐に伝言を頼み、彰と談笑に入る。
燐は恭しく頭を下げ、そして部屋を出た。
「菱川彰——知ってるぜ」
「……居たのですか」
いつの間に居たのか、優亜のドアの死角に、翔が腕を組んで立っていた。
燐は少しだけ驚き、翔に問う。
「どうして知っているんですか?」
「情報網が速いとでも言うか。奴は危険だ、優亜が知らない間に始末でもした方が良いだろう」
翔がそう言った時、優亜が部屋から出てきた。
話を聞いていたのだろうか、心なしか優亜の表情が固まっている。瞳の奥が震え、表情から『嘘だ……』と読みとれる。
優亜は翔の腕を掴んで、上ずった声で叫ぶ。
「彰先輩は、危なくない!」
「優亜様……」
燐が仲裁に入ろうとしたが、翔が優亜を嘲笑を含めた言葉を吐く。
「お前は誰彼構わず信じるんだな。害があっても、それを隠してさえいれば」
「なっ……!! だって、本当だもん!」
優亜は彰を守るように、必死に弁解をする。彰は危なくない、怪しくないと、叫ぶ。
しかし、翔は聞く耳を持たず、あいつは危ないとだけを言い続けた。
「彰先輩に謝って!」
ついカッとなってしまったのか、優亜は翔の頬に平手打ちを叩きこんだ。
パシンッと音がして、翔の頬が赤くはれ上がる。
思わず翔を殴ってしまった優亜は、自分の手のひらに目を落とす。
「ご、ゴメン……」
「そんなに、あいつが大切なら——」
翔は頭につけていたカチューシャを優亜に投げつけ、どなった。
「あいつの元に行け! 俺はメイドを辞める!」
「え……どういう事よそれ。あたし、許さないよ!」
優亜は翔に手を伸ばして引き戻そうとしたが、翔は優亜の手を払い、背を向ける。うんざりしたような声で、優亜に向かって吐き捨てた。
「もう嫌なんだ。お前の傍にいるの、うざいんだよ!」
「……ッ。何よ! 女装してるくせに、こっちこそ辞めてもらって清々するわ。さっさとどこかに行っちゃえばいいのよ!」
優亜はそう叫び、部屋に入って扉を思い切り閉める。
翔は舌打ちをして、更衣室へと向かった。
そんな翔を止めようとしたのか、燐は翔に向かって声をかける。
「あれで良いんですか?」
「……あいつが幸せになれるのならば、俺は離れるね」
翔は燐の方に向いて、こう言い残した。
「優亜を、守ってやってくれよ」
その瞳は、やけに悲しそうな色をしていた。
燐はその後、引きとめもせず、ただ出て行く翔を見ているだけだった。