コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!! ( No.32 )
- 日時: 2011/01/25 21:37
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第7話 3部
今更後悔しても、もう遅い。翔は、優亜の元から離れてしまった。
部屋に戻って、誰も入らないように鍵を閉める優亜。でも、その表情はやけに沈んでいた。
翔はもういない。自分の隣に居るべき人が、居ないのだ。
「う、うぅ……」
優亜は、大粒の涙を落して泣きだした。
そんな優亜を見て、彰は優亜を後ろから抱きしめる。そして、耳元で低く囁いた。
「大丈夫だよ、僕が君の傍に居るから——」
その低い声で思い出す、女装をしながらも自分の傍に居てくれたメイド。
低い声で自分の耳元で囁き、いつも自分をドキドキさせる。
でも、今日からは————
***** ***** *****
翔がいなくなって何日か経った放課後、優亜は翔の住むマンションの下に来ていた。
謝りたい。戻ってこなくてもいいから、せめて翔に謝りたいと思ったのだ。
エレベーターに乗り込み、そして12階のボタンを押す。
もし自分が、翔に会いに来たら本人は何と言うだろう。きっと、帰れとか言うのかな、なんて思いながら。
ぴんぽーん、とチャイムを鳴らす。すると、マイクから声がした。
『ハイ、どちら様?』
女の人の声だった。
優亜は一瞬だけ震え、そしてその声に尋ねる。
「あの、相崎ですけど——」
『もしかして、翔が勤めてた家の……。ゴメンね、翔は今留守なの』
女の声は、けらけらと笑いながら言う。
誰? もしかして彼女?
会いに来たのが、いきなり馬鹿に思えてきた。何だか泣きたくなる。
その時だ。
「邪魔」
一言だけ、冷徹に言い放たれた言葉。それは、優亜がずっと聞きたかった声。
振り向けば、そこに居たのは本を1冊持った翔の姿だった。いつものメイド服ではなく、白いパーカーに黒いTシャツ、そして黒いジーンズというラフなスタイルで立っていた。
「あ、の——」
「何か用?」
翔は機嫌が悪そうに、優亜に問う。笑顔など浮かべず、無表情を優亜に向けて。
優亜はビクッと怯えたように震えたが、それでも翔に言う。
「翔に、謝りたくて……あの、ね」
「迷惑だから」
優亜に降ってきたのは、冷徹で無感情な翔の声。
震える瞳で見上げれば、うざそうな表情を浮かべた翔の顔がそこにあった。
「……ゴメンね。やっぱり、迷惑だったよね」
泣きそうになるのをこらえて、優亜はその場から逃げるように駆けだした。
エレベーターが他の階に行ってしまったので、優亜は階段を駆け下りる。
翔はそんな優亜の背中を見つめ、インターホンに向かってため息交じりの言葉を吐いた。
「また来てんのかよ……」
『来ちゃ悪い? それより、あんた女の子に何て酷い事を言ってんの! 謝ってきなさいよ!』
「嫌だ。あれぐらい、言って当然だと思う……」
『……翔。あんた、後悔してる?』
「してない。それより開けろ」
優亜はマンションから飛び出し、そして空を向いて大声で泣いた。
何で自分はあんな事をしてしまったのだろうか? 何で自分は翔にあんな事を行ってしまったのだろうか?
後悔が胸の中を溢れて、涙として流れて行く。
「うあ、うぁあぁぁぁぁ————」
謝る事も許されない。
「優亜? どうしたの?」
「恵梨ぃ、博ぉ……。うわぁぁぁ!!!」
偶然通った、4人の友人に飛びつき、優亜は泣いた。
どうしたのと恵梨が問うても、優亜は答える事もなく泣いた。ただずっと、泣き続けた。
後悔と、謝罪の思いを、涙として流しながら。
その光景を、翔は12階の廊下から見ていた。
泣く優亜を慰めてやりたい、あの場で抱きしめてあげたいが。
そんな資格は、もう自分自身にはない。
「あーぁ、泣かせちゃってぇ」
「うるせぇ」
翔はうざったそうに、自分の隣に居る女性に言った。
青空に舞う、短い翔と同じような黒髪。漆黒の瞳は人形のように大きく、そして楽しそうに優亜を見ていた。身長は優亜と同じぐらいの大きさだろうか。
その女性は、翔に笑顔を向けてこう訊いた。
「あんたは、後悔してない?」