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Re: 俺様メイド?!! ( No.33 )
日時: 2011/01/26 16:42
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第7話 4部

 1週間。
 この数字は、優亜が翔に会っていない期間。
 食事をとるのも上の空、いつもため息ばかりついている。翔が心配なのだろう。
 そんな優亜を見て、燐と雫はぼそぼそと話しあう。

「やはり、翔を無理矢理にでも引きずり出してきた方がよろしいのでは?」
「無駄ですよ。昨日それを実行しました。そしたら、本気で向かってきましたよ。流石に引きずり出すのは無理そうですね」
「でしたら私が——」

 雫が何かを言おうとした瞬間、優亜はガタリと椅子から立ち上がり、早足でどこかに走って行ってしまう。
 燐は小さなため息をつくと、虚空に向かってつぶやいた。

「さて、優亜様は一体どっちに縋るのでしょうか? 雫さん、賭けますか?」
「何をです?」

 燐は楽しそうな表情を浮かべ、雫に言った。

「今の優亜様に必要なのは、どちらかですよ——」

***** ***** *****

「どうしたんだよ、最近元気がないみたいだけど?」

 彰は心配そうな表情を浮かべ、優亜の顔を覗き込む。
 優亜は慌てた様子で、彰に笑顔を見せた。

「大丈夫です。少し、少し疲れただけで——」
「ふーん。休んでくる?」
「ハイ。すみません、先輩」

 良いよ、と彰は笑顔を浮かべて、去って行く優亜を見送った。
 優亜の姿が見えなくなったところで、彰は不敵な笑みを浮かべる。さっきの晴れやかな笑顔とは、180度違う表情だった。

「ふふふ、優亜はあんなんだけど、もうすぐであいつの心は僕のものだ」

 誰もいない事を良い事に、彰は大きな声で笑った。
 そんな彰を見ていた、1人の影。長い黒髪をたなびかせ、冷ややかな瞳で笑う彰を凝視していた。
 影は小さく舌打ちをして、その場を離れて行った。


 優亜は彰と共に、家へ帰宅した。
 燐が笑顔で優亜を迎え、彰に一礼をする。

「お帰りなさいませ、優亜様。そして彰様、ようこそいらっしゃいました」
「優亜ね、少し気分が悪いみたいなんだ。休ませてあげて」

 僕も付き添うよ、と彰は言った。
 燐は優亜と彰の鞄を持ち、優亜の自室へと案内する。

「では、彰様。よろしくお願いしますね」
「お任せください」

 彰は燐に向かって敬礼をすると、優亜をベッドへと導く。
 天蓋付きの、クイーンサイズのベッドに優亜を寝かせ、そして笑顔を浮かべた。

「安心して良いよ。僕が君を守るから」
「ありがとうございます、彰先輩——。あの、少し良いですか?」

 優亜は嫌な予感がして、彰に訊いた。
 何だい、と彰は首を傾げて優亜に言う。

「何で、あたしの上に覆いかぶさっているんですか?」

 優亜の両腕は彰に押さえられ、逃げられないようになっている。そして何故か、笑顔が妙に怖い。
 彰はけらけらと笑い、優亜にこう言った。

「何って——君は僕の彼女だよ? あのメイドなんかにやるもんか、君は僕のものだ」

 ギリッと彰は、優亜の腕を持つ手に力を込める。
 痛みが走り、優亜は少しだけ呻いた。足に力を入れても、彰はびくともしない。蹴りあげようとしても、足が動かない。
 彰は優亜の耳元に顔を近づけ、そして低い声で囁いた。

「安心して良いよ? 僕は、優しいから——」
「嫌! 嫌ぁぁ! 来ないでよ、来ないでよぉぉ!」

 優亜は暴れて彰の拘束を振りほどき、ドアの鍵を開けようとした。
 しかし、手が震えて鍵が開かない。そうこうしているうちに、彰が優亜の腕を引っ張った。
 翔が言っていたのは、本当だったんだ——。
 本当に、心から謝りたいと思った。だから、もう1度戻ってきて!

「しょぉぉぉぉおおおおう!!!!!!」

 その時だった。
 窓ガラスが割れ、部屋にメイドが飛び込んでくる。
 白と黒のメイド服。夕焼け空にたなびく黒い髪。粉々に割れたガラスを踏みつけて入ってきたのは、少し怒ったメイドだった。
 あぁ、戻ってきてくれた。彼女、否彼は——戻ってきてくれたのだ。

「な!! 君は、あの時の——」
「優亜様。お呼びでしょうか?」

 メイド、翔は彰を無視して、優亜に訊いた。もちろん、いつもの笑顔を浮かべて。
 優亜は腹から声を出し、翔に向かって命令をした。

「こいつをやっつけて!」

 命令を受けた瞬間、翔は走り出した。そして、跳躍。宙で綺麗に一回転をして、彰にかかと落としを叩きこむ。
 哀れ、かかと落としが顔面に叩きこまれたので、彰は鼻血を出して気絶する。
 翔はまだついている小さなガラスを払い、優亜に背を向ける。

「……言っておくが、お前の為に戻ってきた訳じゃないから」

 夕焼けの性なのかそうじゃないのか、翔の顔が赤くなっているような気がした。
 え、まさかのツンデレ?

「俺は、仕事の為に戻ってきたんだから。勘違いすんなよ」
「……してないよ」

 優亜は翔に抱きつき、にっこりとした笑顔を浮かべて言う。


「居てくれるだけで、良いから」


「あっそ」


「そうだよ。辞めたら、許さないから」


「……じゃぁ、優亜がまた彼氏を作ったら撃退してやろう」


「どういう事よ! あたし、結婚出来ないじゃん!」


「婚約者がいるだろうが。いい奴探せ」


「えー」


 彼女の元に、彼が戻ってきた。
 絶対的に守ってくれて、誰にも負ける事のない『騎士』が——。