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Re: 俺様メイド?!! ( No.35 )
日時: 2011/01/30 16:31
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第8話 2部

「おいは堂本睦月や。黒金高校2年A組……ついでに言うなら、あの最強の不良『東』の親友や」

 その言葉を聞いて、その場にいる全ての人の時が止まった。
 この、金髪碧眼で弱そうな少年が、最強の不良『東』の親友? いや、そんなの嘘に決まっているだろう。

「……何や、その目」

「信じられません」

 優亜は怪しい商品を見るような目で、睦月を見上げた。
 信じられないと言われた事が気に障ったのか、睦月は優亜に向かってどなる。

「信じられないとは何や!! 嘘なんてついて、何になるって言うんや。おいは嘘は大嫌いなんや!」

「じゃぁ、その『東』って人はどういう人なんですかどういう格好をしているんですかどういう性格をしているんですか!!」

 優亜は声を張り上げ、睦月に質問をした。
 睦月はため息をついて、不良『東』について語り始める。

「『東』が出てきたのはな、かの有名なスケ番『彼岸菊』の後や。喧嘩相手を必ずと言って病院送りにしてしまうんや。あぁ、ちょうどそこにおるゴスロリちゃんと同じような感じの」

「雛菊ちゃん?」

 優亜、恵梨、博、零音の4人が、一斉に雛菊へ視線を移す。
 当本人は、自分で作った猫のぬいぐるみと腹話術で話していた。妙に怪しい。

「でな、おいもその『彼岸菊』に病院送りにされた事がある。仕返しがしたくてたまらんかったが、誰かがあっさり倒したんや。それが『東』や」

「へぇ。その『東』って強いんだな」

 博は小声で「俺の方が強いんじゃね?」と言っていた。
 睦月は博の言葉が聞こえたのか、嘲笑を含めた声で告げる。

「そこの坊ちゃんは自分が強いとか思うとるけどな、『東』の方が数倍強いで。何せ、中国拳法と棒術をマスターした、死神やもん」

「死神?」

 零音が、睦月に訊いた。
 睦月は零音に視線を向け、「そうや」とうなずいて見せる。

「『東』のあだ名や。喧嘩相手を病院送りはもちろん、自分の友達とかが怪我したら、怪我をさせた相手を必ずボコす。その喧嘩の姿が、まるで死神のようだから、つけたあだ名が死神なんや」

 そして、睦月は傍でぼーとしていた翔を指差し、

「そうそう。姐さんと同じような顔や。それで黒ラン着て、鎌でも持ってりゃ、完璧『東』や」

 こう告げた。
 その場の空気が、少しだけ冷える。
 翔は睦月に向かって笑顔を浮かべ、冷静に言い放った。

「あら。人違いではありません? 私、そんな不良に会った事無いですし。似てるなんて言われる覚えありません」

 相も変わらず辛辣な言葉。
 翔はペコリとお辞儀をして、スタスタと来た道を戻って行った。その後ろに、優亜達が続く。
 何も言わずただ歩く翔を、優亜は見上げた。
 いつもと変わらない、精悍な少年の顔。これで制服を着ていれば、完璧に高校生だ。

「翔……」

「どうかいたしましたか?」

 翔は1度立ち止り、優亜の方を振りかえる。いつもの笑顔を浮かべて。
 優亜は言うのを戸惑ったが、翔に訊いた。

「翔って……まさか『東』だったりしない?」

「まさか。似てるだけですよ。私は体術が得意なだけですから」

 翔は首を振って否定し、また歩き始める。
 優亜は、少しだけ安心した。まさか、翔が睦月が言っていたような事をする訳がない。
 すると、後ろから零音が声をかけてきた。

「……雛菊が、いない」

「え——?」

 優亜は後ろを振り向き、メンバーを確認する。
 恵梨、博、零音。確かに、いるはずの雛菊の姿が見当たらない。

「翔! 雛菊が……雛菊がいない!」

「え? では私が探してきます、優亜様達は先に屋敷へ戻っていてください」

 翔はスカートを翻し、学校へ戻って行く。
 その後ろを、優亜達がついて行った。

「何でついてくるんです? 屋敷に戻ってくださいと言ったはずです」

「あたし達も行く。雛菊ちゃんは……あたしの友達だもん」

「えぇ。ここで見捨てるなんて真似は出来ません。お邪魔かもしれませんが、お手伝いしたいんです」

「……お願いします。手伝わせてください」

「翔さんは俺が守ります!」

 個々の意見を述べ、4人は雛菊を探しに学校まで駆けだした。
 その背中を見て、翔は小さくため息をついた。そして、遥か頭上に広がる空を見上げた。
 どこまでもどこまでも広く、無機質で、単調な綺麗な空。本当に、あの時と何も変わらない。

「……ハァ……」

 翔は再度ため息をつき、優亜達が走って行った方向へ歩き出した。