コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺様メイド?!!-完璧メイドは男の娘?!- ( No.45 )
- 日時: 2011/02/12 19:57
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第10話
幸せなんて、とうの昔に忘れた。
自分に与えられるのは、苦しさと悲しさだけ。それでも自分が笑っていられるのは、
あなたが居てくれたから——。
***** ***** *****
優亜は下校途中、異様な光景を目にした。周りに居た恵梨、博、雛菊、零音の4人も、目を見開いた。
燐が、睦月と一緒に居る。
睦月はあの不良高校『黒金高校』の生徒、燐とは一切関係のない人物だった。
「かつあげか? 喧嘩なら、最近負けないぜ!!」
「最近、黒金高校の下っ端を倒せたからって、調子に乗ってるね。雛菊、殺って☆」
「分かりました!!」
雛菊は恵梨の号令と同時に、博に一本背負いを喰らわした。コンクリートと盛大に抱き合い、博は気絶。
「それにしても、何故燐さんが、睦月さんと一緒に居るのでしょう? 恐喝ですかね?」
「……親しげな感じだけど」
零音が指した方向にあった燐の表情は、笑顔。いつもと同じような笑顔を、睦月に向けていた。
優亜は、そんな燐に近付いた。話している内容を聞く為である。
電柱の影に身を隠し、こっそり盗み聞き。
「で、何や。お前さん——執事なんかする奴やないやん。何で執事なんかやってるん?」
「雇われたからです。優亜様のお父様に、僕は」
「へぇ、案外簡単に雇われるもんやないの。元ヤンが、執事なんて大層な事をやっとるって言ったら、今の黒金はどうなるんやろうな?
教えてな、卒業生で前生徒会長の久遠燐さん」
体が固まった。
もしかして、燐は不良だった? しかも、黒金高校の卒業生で、生徒会長だった?
嘘だ。今の燐からは、とても想像できない。
「まぁ、お前さんはどこでもやっていけるわな。社交性だけはあるもんなぁ」
嫌味っぽく言う、睦月。
それに燐は、いつもの口調で、いつもの声色で、こう吐き捨てた。
「あなたも、あの不良『東』についているんでしたら、さっさと働きでもしなさい」
「……東さんを馬鹿にしとるんか? 東さんを馬鹿にする奴は、たとえお前さんでも許さんで!!」
睦月は、燐の胸倉をつかんでどなった。
しかし燐は、睦月の手を簡単に振り払い、笑顔を消した。途端に、燐の周りにあったオーラが変わる。
そう、それはまるで、喧嘩をしそうな雰囲気——。
「ヒッ……」
零音が、思わず声を上げた。
その声が聞こえたのか、燐は睦月から視線を外す。そして、優亜達が隠れている電柱の方を向いた。
バレた? 燐だから、バレるのは当然か——と、優亜が思った瞬間。
「何をしているんです、燐」
「おや、翔さん。雫さんもお揃いで、一体どうしたんです?」
偶然そこを通りかかった翔と雫に、笑顔を向ける燐。さっきの雰囲気とは別だ。
翔はため息をつき、睦月を一瞥した。
「喧嘩を吹っ掛けられたんですか? それなら、さっさと倒すなり殺すなりなんなりしたらどうです?」
「麗しいメイドが言う台詞じゃありませんね、翔さん」
燐は肩をすくめ、翔に言った。
それにムカついたのか、翔はにっこりとした笑みを浮かべて、燐に背を向ける。
「雫、きちんと燐を連れて帰りなさい。そちらのお方をどうするのかは、あなた方の好きにしてください」
「え? ちょい翔さん? おいを売るのか?!」
「いえいえ、全然。売ると言うより、始末——ですかね?」
翔は、その場に雫を置いて、さっさと帰って行った。
優亜は燐と雫と睦月を見た後、翔の後ろについて行く。その後ろに、皆が続いた。
「燐さん、本当なのかな?」
恵梨が歩きながら、独りごとのようにつぶやいた。
前を歩く優亜は、聞こえなかったかのように反応しない。
「不良だったとしたら、騙していたって事なのかな?」
「さぁ。でも、本当だろうよ。睦月さんが知ってるんだし」
恵梨の言葉に、博が適当に返した。
相も変わらず優亜は、何も反応を示さない。
「確かめてみれば分かります」
雛菊が、皆に向けて言った。
ピタリと歩くのが止まり、皆の視線が雛菊の方を向く。
「本当かどうか、確かめてみましょう。それで良いでしょう?」
「……そうだよ、ね」
零音が、小さい声で賛成をした。
恵梨も博も、雛菊の言葉にうなずく。
「そうだね。燐さんが本当に不良だったのか、調べてみよう!!」
優亜の声は、5月の青い空に響いて消えた。
明日は土曜日。そして、とある事があるのだった。
そのとある事とは——
黒金高校の、授業参観である。