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Re: 俺様メイド?!!-参照400突破記念でお題募集- ( No.63 )
日時: 2011/02/27 16:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

少し切ない系の奴を書きたいと思います。


【桜の向こう、】


 去年の黒金高校、屋上である。
 ふと視線を上げれば、そこに広がるのは3月の青い空。白い綿雲がふわふわと辺りを漂い、桜が舞い上がる。

「早いものだね、卒業ってのも」

 春風に髪を揺らし、久遠燐はつぶやいた。
 先ほどもらった卒業証書で肩をたたき、苦笑いを浮かべる。

「早いもんやな。お前さんが卒業するなんて」

 燐の斜め後ろに居た金髪碧眼少年、1年の睦月がぼやく。いつも通り、口には棒付き飴をくわえていた。

「卒業ってのも、そんなに良いものじゃないよ」

「良いものじゃないのは分かっとるんねん。留年してくれれば、もう少し黒金も安泰するんじゃないんやないの?」

「黒金は、東君が居るんじゃないか」

 燐は、かつて自分と戦いあった不良の名を口に出した。
 その名を聞き、睦月は「それもそうやな」と声を漏らす。そして静かに視線を空へ移した。

「で。東君は僕を見送ってくれたりはしないのかい?」

「どうだか。あの人が考えている事は、おいでも分からん」

 投げやりに答えた睦月。
 燐は一瞬だけ驚いたが、またすぐに笑った。今度は楽しそうに。
 すると、そんな屋上のドアが、乱暴に開かれた。
 春の風が吹き抜ける屋上に現れたのは、何者でもない、東の姿だった。

「何だ、まだ行ってなかったのか」

 東はつまらなさそうに言うと、燐を蹴飛ばす。
 笑う燐は、東の蹴りを受け止めた。

「すぐに行く訳ないじゃない。名残惜しいんだよ、黒金を離れるのは」

「だったら留年すれば良かっただろうが」

 1年には見えない、偉そうな態度。思わず笑みがこぼれる。
 自分を見て笑われたのがそんなに気に食わないのか、東は燐を睨みつけた。
 それでも燐は笑っていた。悲しいのなんて、そんなのを感じさせない。

「まったく、燐さんは何が楽しいやら」

「東君と睦月君の性格は同じなのかな? さっきも同じような事を言われたよ」

「うっせーな。黙れ、馬鹿」

 東は舌打ちをし、燐に背を見せた。屋上を去るのか、ドアへと向かっていく。
 そんな東を、燐は呼びとめた。
 面倒くさそうに振り返る東。風が吹き、東の長髪を揺らした。

「君の名前、東だけじゃないのだろう? 入学の書類の時、あの時は『東菊牙』と書いてあったが、あれは偽名だろう?」

 燐の言葉に、東の瞳が怪訝そうに細められる。やがて、フッと口元を上げ、微笑を浮かべた。

「よく分かったな。誰も気付かなかったのによ」

「え?! あれ、偽名だったん?! そんなぁ」

 今まで信じ込んでいた睦月は、ガックリと肩を落とした。
 けらけらと笑い飛ばす東。それはまるで、子供のようだった。

「でもダメだ。先輩でも、俺の名前は教えられないね」

 教えられないと知った燐は、ため息をついた。やはりダメだったか。
 だが、東は笑顔を絶やさず、こう言ってきた。

「どうしても知りたければ、俺の名前を探せ。そしたら、教えてやらん事もない」

「へぇ、ゲームですか。面白いですね」

「俺が仕掛けるゲームは難しいぜ?」

 桜が舞う中に始まった、名前当てゲーム。
 まだ、彼の名前は見つかっていない。



「燐さん。燐さん。春だからって、寝ないでください」

 がくがくと揺さぶられる感じで、燐は目覚めた。
 あれは、夢だったのだろうか。でも、やけにリアルに感じさせられた。

「翔さん。起きました」

「おい燐グルァ!! 仕事サボると、俺ら減給だぞ!!」

 ただでさえ俺ん家の家賃高いんだから、とぶつくさ言いながら憤慨する翔。
 その傍では、呆れかえっている雫の姿が見えた。

「寝てしまったんですね。申し訳ございません」

「本当、それだけは止めてくださいよ。罰として、夕飯の買い出しに出掛けてください」

 雫は、メイド服のポケットからメモを取り出し、そしてそのままどこかに行ってしまった。掃除だろう。
 外を見れば桜が舞っている。さっきの夢のようだ。
 そんな燐に、翔は1発殴ってやった。女の子の様な顔つきが、怒りでゆがめられている。

「早くしてください。あなたの肉でお昼ごはんを作りましょうか?」

「怖いですね、翔さんは」

 燐は立ち上がり、大きく伸びをした。
 あぁ平和だ。そして、また彼の名前を探さなきゃな。

「ゲームはまだまだ続くぜ」

「え、翔さん?」

 燐の向いた先に居た翔は、笑っていた。子供の様な笑みを浮かべて。
 まさか、ね。

「では、私は昼食の支度をしてまいります。その間に、買い物をしてきてください。今回はそんなに多くないので」

「かしこまりました。では、行ってきます」


 ————また、桜の向こうで会える事を願って。今日も、ゲームを続けよう。