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Re: 俺様メイド?!!-参照400突破記念でお題募集- ( No.72 )
日時: 2011/03/08 17:24
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第14話 5部


『さぁて、決勝戦です。決勝戦は、あれ? ちょっと、ねぇ。何?! え、何?!』

 リングに睦月と白学ランの奴が突然乱入してきた為、アナウンスの奴はとても慌てた様子で喋っていた。
 睦月がアナウンスの奴を一睨みして黙らせると、白学ランの奴に目を戻す。

「お前さんとは、1回殺りあってみたかったんや。なぁ、月海大地君よぉ」

「おやおや、不良に名前を覚えられるのは快くないな。でも、すぐに忘れるからいいか」

 月海大地と呼ばれた少年——黒髪眼鏡の不良じゃなさそうな奴は、呆れたように言った。
 態度がムカついたのか、睦月の額に青筋が立つ。そして走りだし、拳を振り上げた。

「お前、あんまナメてると——!!」

 視界が一転する。ぐるりと回転して、睦月は地面に叩きつけられた。
 全て一瞬。睦月は大地に触ってもいないのに、呆気なく吹っ飛ばされてしまったのだ。
 優亜はリングにしがみつき、大地を見上げる。
 柔術。彼が使った武術の名称である。

「何や、マジックか何かか?」

「いやいや。これはマジックじゃない、喧嘩さ」

 ダンッと床を蹴り、起きあがりかけていた睦月の顎を蹴る大地。そのまま足を横に滑らせて、頬に強烈な1撃を叩きこむ。
 昼間だと言うのにお星様を見る羽目になってしまった睦月は、焦点の定まらないまま大地に向かって殴りかかる。
 しかし、大地は睦月の攻撃を華麗によけ、柔術で床に叩きつけた。
 優亜の手が震える。まさか、睦月はここで負けてしまうのかと思うと、とても怖くなってしまった。
 そんな優亜の肩に、さっきの茶髪男子の手が置かれた。

「ね、大地に勝てる奴なんていないんだよ。あいつ、武術の達人何だからさ。諦めな?」

「諦めるのはまだ早い!!」

 優亜は叫んで、リングの向こうに居る睦月に向かって声をかける。

「頑張ってください、睦月先輩!! 負けないで、お願いですから!!」

 リングの向こうに居る睦月は、その声を訊いて笑顔を浮かべたが、やがてゆらりと倒れてしまった。
 理由は、大地が柔術を決めたからである。
 柔道部ですら軽く吹っ飛ばせた睦月も、ここが限界であった——


「諦めるのはまだ早い、か——」


 水を打ったように静まり返っていた会場に、凜とした声が響いた。直後、優亜の耳元でボキッという鈍い音が聞こえた。
 おそるおそる視線を向けると、間を割って入ってきた腕が、茶髪男子の手を変な方向にねじっていた。あー、完全に折れたなこれ。
 激痛が腕を駆け抜け、悲鳴を上げる茶髪男子。
 優亜の隣に立ち、リングに上がったのは黒学ランの少年だった。
 そう——黒金の不良、東である。

「あ、ずまさん——」

「良く頑張ったよ。女1人守るのに、体張るとはな」

 東は倒れた睦月に笑顔を見せ、大地に目を向けた。
 馬鹿らしい。不良が1人増えただけで、自分の強さは変わらないとつぶやいている大地は、東を睨みつける。

「不良如きが、我々の勝負の邪魔をするな」

「へぇ。不良の何が悪いって言うんだ? 他校の生徒をナンパするお前らよりかはましだぜ?」

 大地の言葉を、まるで挑発するようにサラリと避けた東。流石不良。
 優亜はリングから睦月を引きずって行き、ハンカチで止血をしていた。後から雛菊や零音が手伝ってくれていた。
 心配そうにリングを見上げると、未だに2人は睨みあっている。双方、動かない。

「大丈夫ですよ」

「……燐さん?」

 零音が声を向けた先に居たのは、白学ランの1人を引きずった燐の姿だった。
 あー、頭にナイフが刺さっているのは異様な光景である。大丈夫かそもそも。

「平気です。これは玩具なので」

 燐はナイフを引き抜き、手で弄ぶ。もちろん笑顔で。

「大丈夫って、本当ですか? だって、さっきの人は——」

「確かに、柔術相手じゃ、東さんも苦戦するでしょう」

 燐はリングに居る東を一瞥する。
 開始から5分は経っているのだが、未だ動かない。2人とも睨みあったままである。
 そんな2人を見て、思わず苦笑を洩らす燐。そして言葉を続けた。

「あの人でも、ただ武器である鎌を振り回している訳ではありません。きちんと体術も使えるんですよ」

 言葉が終わると同時に、2人は動いた。
 まず最初に攻撃を仕掛けたのは、東の方である。それが好機とでも思ったのか、自然と笑みをこぼしてしまった大地。
 腕を伸ばして、東の襟をつかんだ瞬間——

「うぜぇ」

 短く言葉を吐き、東は正拳突きを大地の腹に叩きこむ。
 胃の中の物が全て逆流しそうになるのを飲み込み、大地は体勢を立て直して東を投げ飛ばそうとした。
 しかし、東はこれを綺麗に避け、背後から思い切り回し蹴りをお見舞いした。

「不良……ッ風情がッ!!」

「何だ? 坊ちゃん学校が、俺らに立てつこうとするな・よ!!」

 東は大地の襟をつかみ、空高く投げ飛ばしてしまった。
 そのまま綺麗な放物線を描き、大地は地面へ落下。しかも頭から。
 沈黙が訪れ、アナウンスが言葉を紡ぎ出した。

『あー、優勝は堂本睦月選手の替えメンバー、東選手。おめでとうございます!!』

 ワァァァァァ、と歓声が鳴り響く。
 東は気だるげにリングを降り、そして優亜の元から睦月を回収して行った。

「あ、あの!!」

「礼ならいらねぇ」

 お礼を言おうとした優亜の言葉を制し、東は代わりに1枚の封筒を投げ渡す。
 中身を見てみれば、新しく出来た遊園地の団体招待券だった。優勝したからもらえたものだろう。

「それで、こいつも誘ってやってくれ」

「え、あの——」

 優亜が何かを言う前に、東は人ごみに紛れて消えてしまった。
 手元に残ったのは、優勝賞品だけ。これは、素直にもらってもいいのだろうか?