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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!- ( No.85 )
日時: 2011/03/22 10:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第15話 4部


「見つけたぁ」

 オレンジ色の髪が、晴れた空に舞い上がる。
 眼鏡をかけて、垂れ目がちなスーツの少年が、携帯を片手に2人の前に現れたのだ。
 どこかイケてる渋谷に居そうな若者にそっくりなのはこの際気のせいにしておこう。

「君らのせいで、俺の至福の時間が終わったじゃないか。どうしてくれるんだよ?」

 少年は鳥のように小首を傾げ、翔に訊く。
 その後ろで、優亜が怯えたように震えていた。服の上から、振動が伝わってくる。
 翔はそんな優亜を守るように、優亜の前に立ちはだかった。

「悪いな。てめぇみたいな奴が居たから逃げただけだ」

「鬼ごっこですか。まぁ、俺は否定しないけど? 楽しければそれでいいんじゃないのかな?」

 少年は笑う。まるで他人事のように。
 だったら逃がしてくれないか、と翔が問うと、

「ダメに決まってるじゃん」

 少年は翔の胸倉をつかみ、思い切り頬を殴りつけた。
 優亜と周りの人の悲鳴が鼓膜を振動させる。血の味が舌に広がった。
 ……こいつ、やるな。
 翔の中で、何かのスイッチが入った。

「せめてさぁ、もっと楽しませてよ。だって君、強いんでしょ?」

「うるせぇな」

 切れた唇から流れる血を拭い、翔は言葉を吐き捨てる。
 茶色がかった双眸は、微かに殺気を秘めていた。完全に喧嘩する気だ。
 そんな翔を、優亜は止める。

「翔! 喧嘩なんかしないで、お願い!!」

 傷つく姿なんて、見たくないのに——。
 しかし、翔はポン、と優しく優亜の頭に手を乗せた。そして笑顔を浮かべる。
 メイドの時の笑顔でもなく、少年のような笑顔でもない。優しい表情。まるで、東が笑ったような。

(あれ……?)

 何で、ここで東が出てくるのだろうか?

(翔って……良く考えれば、東に似てるよ、ね?)

 少年と睨みあう翔を見上げ、優亜は思う。
 東が自分を助けてくれた時と、翔が自分を助けてくれた時の横顔が、なんとなく似ている気がした。
 まさか——翔が東?

「な、訳ないよね」

 そんな仮定を、優亜はすぐに頭から取り払った。
 刹那、自分を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい優亜ぁ。何してんだ、お前」

 満面の笑みを浮かべた博が、こっちに来たのだ。しかも他の人を連れている。
 翔の瞳が輝いた。
 人の間を縫い、少年の背中に飛び蹴りをかます。
 よろけた少年は、フラフラと睦月に体当たりをした。

「……え?」

 自分よりか遥かに高い睦月を見上げ、少年は顔を青色に変えて行く。
 ヤバイ。何か、とてつもなくヤバイ。

「何や……? 喧嘩でも売ってんのかい?」

 睦月の着ていた黄色のシャツには、茶色の染みが飛び散っていた。どうやら、飲み物がこぼれたようだ。
 その飲み物が燐のズボン、雫の肩にも飛び散り、被害拡大。
 臨死体験の予感。

「「「死の覚悟は出来てますか?」」」

「う、うわぁあぁああああああぁぁああ!!!!」

 哀れ、少年は戦闘派野郎どもにボコボコにされた。

***** ***** *****

 優亜と翔は逃げて逃げて、遊園地の中心にある観覧車まで逃げてきた。
 空に届きそうなまでに高い観覧車。それに乗り込む。
 ゆっくりゆっくりと上に昇るたびに、緊張感が増す。

「……あの、」

「あぁ??」

 翔は窓の外を見ていた視線を、優亜へ移す。
 視界に映った優亜の表情は、照れ。顔を赤く染め、涙目でうつむいていた。

「何で、これに乗ったの?」

 今まで絶叫系に乗っていた2人だ。いきなりこんなゆっくりの乗り物に乗るだろうか。
 だが、優亜はこれに乗りたがっていたのだ。
 ずっとパンフレットを見て、これに乗りたいなと思っていたのだ。

「何でって……別に良いだろうが」

 翔はそっぽを向き、そして小さくつぶやく。

「お前が、ずっと乗りたそうにしてたから、だよ」

 その言葉を聞き、優亜は顔を上げる。
 自分と同じように照れた翔の顔が、そこにあった。

「……ありがとう」

 優亜はにっこりと笑いかけた。
 いきなり笑いかけられたのがびっくりしたのか、翔はフイとまたそっぽを向いた。