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Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!- ( No.87 )
日時: 2011/03/25 21:34
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第16話


「優亜あぁぁああ!!!」

 自分を呼ぶ声がして、優亜は顔を上げた。目の前に置かれているのは、英語がズラズラ書かれた宿題のノート。そして英語の辞書だった。
 誰だろうと思い、視線をドアの向こうに移す。
 直後、バァンというすごい音と共に、男が飛び込んできた。
 見た目的に、40歳は超えているだろう。無精ひげを生やし、茶色の髪はクルクルと跳ねている。
 その男を見た瞬間、優亜は飛び上がった。

「お父さん?!」

 自分の父、相崎優哉(ゆうや)は、優亜に泣きついた。
 これでも42歳である。情けなすぎる。

「優亜ぁ、お見合いから逃げないでくれよぉ」

「嫌よ! 誰であろうと、あたしはお見合いなんて絶対に嫌! 何で男の人と結婚しなきゃならないの?!」

 人生のゴールなんてまっぴらゴメン、と思う優亜である。まだ16歳。人生を楽しむ時期はこれからである。
 しかし、良家のお嬢様という事もあってか、婚約者は生まれた時から候補が沢山いる。優亜は、決められた相手と結婚なんてのは、死んでも嫌なのだ。
 男が嫌い、という理由もあるが、自分で結婚する相手ぐらいは決めたいのだ。

「お嬢様だからって、恋愛まで縛られるのは嫌よ」

 フイ、とそっぽを向く優亜。機嫌が悪いのか、頬を少し膨らませている。
 優哉は無理矢理優亜を自分と対峙させ、説得するように話しかけた。

「それでもね、結婚はしなきゃなんないの。分かる? お父さんに孫を見せておくれよ」

「まだ16歳なのに! もうそこまで話が決まっているの?!」

 優亜の絶叫。そして音を立てて席を立ちあがった。
 上下と揺れる優亜の肩を、優哉はがっしりとつかむ。なんか、傍目から見れば熱血先生とその生徒のようだ。

「優亜。言う事を聞きなさい」

「嫌ったら嫌!」

 いつもなら何て事のない命令——だが、優亜は拒否し続けた。
 その時、

「まったく、僕の未来の花嫁さんはわがままだなぁ」

 寒気のする甘ったるいボイス。優亜は、その声がした方向を見据えた。
 金髪で外巻きヘア。どこか昔の貴族の様な雰囲気を醸し出しているお坊ちゃん。花束を片手に、優亜に向かって静かにほほ笑んだ。
 彼——七尾大輔は白い歯を輝かせながら、優亜に名乗る。

「初めまして、僕は七尾大輔d「帰ってください」ちょ、待って?! 僕の自己紹介の途中なんだけど?!」

 大輔は慌てた様子で優亜に言う。
 優亜の方はと言うと、機嫌なんか直るはずもなく、そっぽを向いたままだった。

「あたし、婚約者の人とは結婚したくないんです。帰ってください」

 冷たい口調で、優亜はきっぱりと断った。
 こんなにあっさり言われると思っていなかった大輔は、ばさりと持っていた花束を落とした。

「……そ、そんなァ」

 半泣き状態で、床に崩れる大輔。
 その横をスタスタと優亜は通り過ぎて、下に降りようとした。が、その足を大輔の腕が捕まえる。
 歩く事が出来なくなってしまった優亜は、大輔を静かに見下ろした。

「何ですか、邪魔ですけど」

 さっきよりも冷たい口調で告げる優亜。最早氷の女王である。

「い、行かせないぞ。僕の名前をちゃんと覚えてm「優亜様、何をなさっているのです?」誰だ、僕の邪魔をする馬鹿は!」

 自己紹介を遮られた大輔は、怒ったように立ち上がった。
 視線の先に居たのは、洗濯物を抱えた翔と雫である。表情は驚いた様子だった。

「優亜様、その方は一体——」

 震える指先で、雫は大輔を指した。
 自分を示されたのが嬉しかったのか、大輔は胸を張って自分が何たるかを告げ——

「僕の名前はn「優亜様、この人は関係ないので退治してもいいですね」ちょっと待て、また遮ったな?!」

 ようしたら、本日3度目の遮られ。危うく泣きかけた大輔である。
 翔は優亜に洗濯物を押しつけ、大輔の前に立った。

「な、何だよ一体。僕は優亜ちゃんの婚約者だぞ!!」

「それが何だ」

 優亜よりも冷たく、そして低い声で翔は言い放つ。
 翔の事を男だと思っていない大輔は、拳を振り上げた。メイドに言う事を聞かせるのはこういうのが1番なのだろう。
 だが、翔は動かなかった。むしろ、笑っていた。

「う、うわぁぁああああ!!」

 行方の定まらない、へろへろの拳は翔の腹部に向かって行く。
 翔は右腕だけで拳を受け止めると、全ての握力で大輔の拳を握りつぶした。
 ギリギリ、という嫌な音が手から響いて行く。

「俺を殴るなら、軍隊でも持ってきな!」

 拳を払い、翔は大輔に飛び蹴りをかました。
 1発KO。大輔は静かに天へ召されて行った————。