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Re: オタクな生徒会長は絶好調!?『記念企画計画中』 ( No.108 )
日時: 2011/07/22 21:01
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: /Z8pqfwj)

第35話『今回は蒼井終都の過去話です』

「今日も月島と勉強か?」
「ああ。……それが?」
「いや、別に。がんばれよぉ」
「おう」

生徒会が終わり、部活に入っていない俺は特にやることもないためという理由で図書室通いを始めた。しかし、いつの間にか同じ生徒会で結構仲が良い瑞樹までもが加わり、
俺のこの時間は、当たり前のようになっていた。



「……って、いないし」

俺はいつも座っている場所に行くと、毎回早めに来て自習している瑞樹は来ていなかった。
念のために他の場所を見てみるが、何処にもいない。俺は仕方なくいつもの席に座ると、咲に参考書を広げた。
この学校の図書室は普通の高校より広いんじゃないかと思う。ここの学校長は読書に力を入れているらしく、図書室に置いてある蔵書は数え切れないほどだ。
そして、休日には一般開放していて、子どもから大人まで使っている。それこそ、来年ここを受験する受験生も。
 
「……そういえば」

俺は席から少し離れたところにある『推理小説』のコーナーに入った。
そして、忘れ去られたように埃を被っている、とある一冊の本を手に取ると席に戻った。

『名探偵ホームズ 赤毛同盟』

埃を拭き取るといくらか手垢で汚れている表紙が目についた。
すると、俺の前に影が伸びてくる。振り返るとそこには———

「またその本読んでるの?」
「……会長」

俺が持っている本をのぞき込んでいる会長がいた。
図書室には夕日が入りこんでいて、その夕日をバッグにして微笑んでいる会長の姿は、出会った頃を思い出させた。



———1年前———
もう少しで受験だというのに、俺は夕方5時に公園のブランコに座っていた。特に何をするわけでもないのに、ただそこにいた。
ついさっきまで遊んでいた子ども達も、親に手を引かれて家に帰っていく。
 今日も塾をサボってしまった。いや、サボったのだ。故意に。俺の両親は教育に熱心で、中学こそ普通の学校に入ったものの、さすがに高校受験となると私立に行かせたいらしい。そのため塾は当たり前、成績が悪ければ家庭教師もつけるという徹底ぶりだった。
 時刻は5時を回っていたが、家に帰る気はしない。確か今日はこの後にも塾があったはず。けれど行く気はしない。とりあえず行く当てもなく、俺はただただ何処かへと歩いてった。

ふと気づくと、俺は高校の前にいた。どうしてここにいるのか、どの道をたどってここに来たのか、まったく覚えてない。
それほど上の空でここまで来たらしい。校門が開いていて、様々な中学校の制服を着た生徒が入っていることから、ここは一般開放もしているらしい。
俺は何かに誘われるように、まっすぐに図書室へと向かった。

「あぁ……」

図書室へ足を踏み入れた瞬間、俺はこの本特有の匂いに恍惚の溜息を漏らした。
人数はまばらで、中学生の来訪に特に驚くわけでもなく、先輩達は各々の作業をしていた。
何故図書室へ入ったのか、何故この学校に来たのか、まったく分からない。けれど俺は、一番大好きな『推理小説』のコーナーへと入っていった。
 エラリー・クイーン、コナン・ドイル、江戸川乱歩など、世界に名だたる作家の代表的な作品が並んでいる。俺は自分の部屋にもあり、なおかつ一番のお気に入りの本を手に取ると、空いている席に座った。

『名探偵ホームズ 赤毛連盟』

ページをめくらず、ただ埃被った表紙を見つめる。
あぁ、なんだかとても感慨深い。すると、俺の前に1つの影がよぎった。不思議に思って顔を上げてみる。そこには———

「君、本が好きなの?」
「……へ?」

美少女が立っていた。図書室には夕日が入ってきていて、その夕日をバックに立っている美少女。とても絵になっていた。その人は艶やかな黒髪をなびかせ、少し憂いを帯びた瞳をまっすぐに俺に向けていた。

「その物語、いいよね」
「は、はい……。あの、どちら様ですか?」
「ああ、私?私は生徒会の副会長よ。星宮玲っていうの。
 なんだか君さ、この前会った子たちと同じだね」
「はい?いったいなんの話ですか」

いきなり来て何を言い出すんだろう、この人は。
すると、またとんでもないことを言った。

「よし、決めたわ。私が生徒会長になったら生徒会に入れるわ」
「はぁ?ちょっと待ってください。いったい何を———」
「なぜならここは———以下略」
「人の話を聞いて下さい」

な、なんなんだこの人。こんなんで本当に生徒会の副会長やっているのか?
俺は少しこの学校の行く末が不安になったけれど、とても面白い人だと思った。もっとも、こんな事を思うのは久しぶりだ。
俺は人に興味を持つなんて……。今更ながら、本当に冷めた人間だと思う。

「まぁ良いじゃない。ここ、受けなさいよ。君にどんな事情があるのかは分からないけどさ。
 でも、この学校に入れば楽しいことがある。それだけは保証してあげる。それに、この学校にくればこの本読めるのよ?」

いや、まぁこの本は自分の家にもあるけれど。
でも、いいなと思った。と同時に、なんだかばかばかしくなった。私立に行くか行かないかで親ともめるなんて。俺は唐突にこの学校に通いたいと思った。
理由。それは———この人がいるところは、なんだか波瀾万丈で退屈しないだろうなと思ったからだ。



「それにしても、相変わらず埃被ってるわねぇ」
「仕方ないですよ。今更赤毛連盟を読む人なんて、あまりいないでしょうから」
「いるわよ」
「……へ?」

俺は予想だにしなかった言葉に驚く。こんな誰しもが読んだことあるような本、高校生にもなって読む奴がいるのか?
すると会長は、いたずらっ子のような笑顔で言った。

「私とあんた」
「…………あ」

どうやら俺の頭はしばらくの間にずいぶんと悪くなったらしい。そんなことも分からないなんて、どうかしてる。
丘の上高校。そこは———とても愉快な生徒会と、とても愉快で美しく、ちょっと頭がアレな会長がいる、素敵な所だ。