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Re: オタクな生徒会長は絶好調!?『37話更新』 ( No.140 )
日時: 2011/08/06 14:58
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: HwpkBxu2)

番外編11『真実とは時には嘘よりも残酷で、傷つけるものである』

「ふぅ……。とりあえず、今日はこれで良いかな?」

チャイムが鳴ると同時に、会長が作業を終えて大きく伸びをする。それに合わせて私たちフロア組も作業を中断する。そして、まだ残っている作業や飾り付けなどが散乱する床を見ると、何処にぶつけることも出来ない倦怠感が押し寄せてくる。
 私が保健室から戻ると、いっこうに進まない準備に苛立っている幸田先輩が待っていた。

「おぬし、こんな忙しいときにユートピアに行っている場合ではなかろうが!」
「ゆ、ユートピア?私はただ保健室に行ってただけで……」
「準備に追われている我らにとっては、休息がとれる保健室などユートピア同然だ!いや、どちらかと言えばガ○ダーラか?」
「そのネタはいったいどの層を狙って言ってるんですか!?絶対伝わってませんって!」

なんだか幸田先輩らしくない言葉で先制ジャブを打たれたけど……これ、ちゃんと伝わってる?もし分からなかったらググってね♪
さすがに頭のおかしくなった先輩に絡まれた私を気遣ってか、会長さんが止めに入ってくれた。

「まぁまぁ。玲も別にサボった訳じゃないんだし、許してあげよう」
「う、うぬぬ……」
「とにかく、今日は解散。また明日ね」

会長さんの言葉で、とりあえずの収束はついた。そして会長さんは私の方を見て言った。

「玲、今日は一緒に帰ろうか」
「え、えぇ!?」
「あ、別に変な意味じゃないよ。ただ、歩きながら色々打ち合わせしたいなって」
「は、はい……」

いきなりの言葉に驚いたけれど……さすがに理由をつけてくる辺り、大丈夫なのだろうか。



———下校———
「…………」
「…………」

ふ、二人きりで下校。前にも一度あったけれど、今回は空気が違う。いや、それは渡した一方的に作ってしまったのだけれど。
立ち聞きしてしまった内容が頭から離れない私には、今この状況は苦痛以外の何物でもなかった。気まずいのは私だけで、奏汰君は私の事を何とも思っていない。あの噂が奏汰君の耳に入っているのかは分からない。だからこそ私は何を話せばいいのか、聞いても良いのか迷っていた。

「……玲?」
「へ、へ?!」
「……何か聞きたいことでもあるの?」
「ど、どうして……」

いきなり奏汰君が私の顔をのぞき込んで言う。どうして分かったのだろう……。
けれど聞かれたからと言って、これは易々と言って良い問題ではない。聞き方を誤れば、確実に私と奏汰君の間に溝が出来る。そして、その溝が深まれば深まるほど、私たちの問題だけではなく両家の問題にも発展する。私たちが普通の幼なじみという関係ならばいざ知らず。けれど私たちの関係は許嫁。これを悪化させたらば家柄にも関わる。
 黙ってしまった私を見て、彼はきっと深刻なことだろうと悟ったらしい。彼は私を近くの公園のベンチに座らせると、私からの言葉を待った。けれど私の口からは言葉が紡がれることはない。……な、何から話せばいいのか……。私は意を決すると、あの廊下で聞いたことを全て話した。

「…………ふうん。そんなことがあったんだ」
「じ、事実なの?ここを私立にするって」

私の問に、彼は微笑む。な、何この笑顔。私は背筋が凍るとはこのことかと実感した。彼は笑っているのに笑っていない。彼の口からでる言葉を待った。

「どうしてそんな怖い顔するの?玲、君のために私立にしてあげようとしているのに」
「わ、私の……ため?」

そういうと奏汰君はおもいっきり私の手を引くと、自分の胸に引き寄せた。

「っ———!!」

それはいきなりことで……。私は抵抗を試みるも、男性の力にはとうてい叶わない。どうして。どうして、どうして。彼の胸の中で抱いた感情は、安心感でも羞恥でもない。恐怖。底知れない恐怖が私の体全体を包み込む。

「どうしてって……。まだ分かってないの?3年前。僕は君に普通の中学へ進学するように進めた。僕が通っていた普通の中学にね。けれど君が行ったのは私立の女子校。僕は待ってたのに。君が僕が生徒会長を務める中学校に来るのを、待っていたのに」
「あ、あれは———」
「父親に勧められたからって言い訳する?けど君は本心では私立に通えたことにほっとしていた。私立の中学に合格したことを報告に来たとき、君はなんて言ったか覚えてる?」

覚えている。私は、彼に酷いことを言ってしまった。『許嫁と一緒の中学って、ちょっと恥ずかしいからさ。……正直、受かって良かったよ』って。当時の私はまだ12歳。心から出た、純粋な一言だった。

「あの時は子どもだからって。彼女は自分よりも2歳年下だからって言い聞かせたよ。けれど、ダメだった。君は、僕を選ばなかった。君が3年間通った私立の中学は、原田和毅の父親が理事長を務めているんだろ?君は僕ではなく彼を選んだんだ」
「違う。第一、原田君とは高校で出会って——」
「本当に?」
「っ———!?」

本当に?本当に私は、原田和毅とは高校で出会ったの?私は胸の中にあるもやもやした感情の正体を探る。彼に出会ったときに感じた、あの瞳。冷たく、井戸の底のような水の色。不思議と濁りはなく、それでいて澄んでもいないあの瞳。彼の瞳を見て感じたあの感情。思い出した。



———————彼に愛されたいと願ってしまった、あの時を。