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Re: オタクな生徒会長は絶好調!?『記念記事更新』 ( No.162 )
日時: 2011/09/10 18:21
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: 6Q1uGoC5)

第41話『彼の眼に映るは……』

「こ、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」

ようやく出た言葉は自分でも驚くほどヘタレていた。けれどもそれほど俺はテンパっていた。会長の話によると、誰よりも会長を愛し、そのためだったらこの学校を壊すことだって出来る、狂気の存在。そのオーラに満ちあふれいてた。

「ふふっ、確かにそうだね。いや、失敬」

しかし伊集院さんは俺の言葉に当たり前のことを言い、生徒会室をなめるように見回した。
そして歴代生徒会長の顔写真が飾ってあるところで、視線が止まる。そこには伊集院さんと会長の写真があった。

「それにしても、彼女も良くやるよね」
「……へ?」

ふいに開いた口に、俺はただ間抜けな返事をする。けれどそれを特に気にするわけでもなく、伊集院さんは話し始めた。

「僕に対抗するために生徒会長になるなんて……。それで、今彼女はどこにいるのかな?」
「か、会長は今は———」

この人に居場所を教えない方が良い。そう思った瞬間。



「私の事をお呼びでしょうか。———“伊集院”さん」



「っ、か、会長!」
「……おや」

生徒会室に凜とした声が響き渡った。それは俺たちが聞き慣れた声、つまり会長だった。
会長は表情を引き締めて、伊集院さんの元に歩み寄る。

「お久しぶりです、伊集院さん」
「久しぶり、玲。それにしても、伊集院さんって……名前で呼んでくれないの?」
「今は生徒会の仕事中です。私情を挟むわけには参りません」

驚くほど冷たく、まるで機会のような抑揚のない声で答える。それに応戦するかのように、伊集院さんも負けじと話す。

「ずいぶんと威厳が出てきたね。僕がいた頃には、もう少し初々しくて可愛かったのに」
「半年以上も前の話です。今は違います」
「その割には、昔の話をしてたよね?」
「っ!?何で知ってるんですか……」
「だから、僕はこの学校を知り尽くしてる。いずれ僕のものになる学校に色々仕掛けるのも面白いし」

俺はその言葉に生徒会室を見渡す。会長も同じ事を思ったのか、用心深く室内を見渡す。天井の四隅、清掃用具入れの上、ロッカーの中。けれど探しているものは見つからない。
 そんな俺たちを嘲笑うかのように、伊集院さんは言った。

「まさか、この僕が盗聴するとでも?」
「……それしか方法がありませんから」
「酷いなぁ。いくら僕でもそんな非人道的なことはやらないよ」

その言葉に、お前が言うかというような眼で会長が応戦する。

「風紀委員会って、頭も良い奴らがいっぱいだよねぇ」
「何が言いたいんですか」
「だから、自分が今対峙している相手との利害関係がどうやって一致するか、きちんと考えている」
「……つまり、風紀委員の中に伊集院さんの手の者がいると言うことですか」

会長の言葉に、伊集院さんは無言で返す。その代わりに、不自然なくらい淀みが無く、不自然なくらい自然な笑顔を向けた。笑っているはずなのに、背筋が凍り付くような笑顔。俺は思わず伊集院さんと会長から眼を背けた。伊集院さんの顔を、まともには見られない。

「ま、その辺りはご想像にお任せするよ」
「……越える」
「ん?」

会長さんがうつむいてつぶやく。会長がずっと握りしめていた拳が目に入った。……震えていた。これ以上のないほどに、握りしめている拳がわなわなと震えていた。
会長はその拳をほどくと、ふいに力を抜いた。そして、深呼吸する。

「……私は奏汰君みたいに頭も良くないし、人望もあるわけでもない。ルックスもそんなにいいとは思ってもいないし、いい加減な性格だし」
「僕はそうは思ってないよ?玲は僕にとっては一番だし」
「そんなことはどうでも良いよ!!」
「…………」

会長の自虐に、伊集院さんは眼光を鋭くさせる。どうやら、会長が自虐っているのが原因ではなく、どうでも良いと言われたことに憤りを感じているらしかった。自分にとってはどうでも良くないことを、どうでも良いと言われた。たとえそれが本人だとしても、やはり許せないのだろうか。今までに見せたことのない、鋭い目つきだ。

「だから、私は奏汰君のようにはなれない。でもね、私はもとより奏汰君になろうとは思ってない」
「…………」
「私は……私は……私は……」

自分自身に言い聞かせるように、握りしめていた拳を胸の前に持っていく。



「私は……私のやり方で、奏汰君を越える」
「……玲のやり方?」
「うん。私のやり方。奏汰君が納得しなくても。たとえ生徒全員が納得しなくても。私は私のやり方で奏汰君を越える」
「生徒全員が納得しないと言うことは、僕を越えていないと思うよ?」

その通りだ。たとえ文化祭が成功して、伊集院さんを越えたと自負しても。会長が生徒全員に納得されなければ、意味がない。伊集院さんは文化祭を成功させたとき、生徒全員が納得し、一致団結したという。それがなければ、越えたことにはならない。
 しかし、会長は不敵な笑みを見せると、うつむいていた顔を上げた。その顔には涙が見えていた。

「私は生徒全員が納得し、味方になってもらおうとは思わないよ」
「…………どういう意味?」
「だって……この生徒会の彼らが、私のやり方に納得して、味方になってくれれば」

会長は———俺があの日、屋上で見た笑顔よりももっと素敵な———笑顔で、そう言った。その瞳にはもう迷いが無かった。