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Re: オタクな生徒会長は絶好調!?『第41話更新』 ( No.166 )
日時: 2011/09/17 11:47
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: lIcPUiXw)

第42話『僕と中庭と会長さん』

「う……ど、どうなるんだろ……」

僕、月島瑞樹は今、中庭へとつながる渡り廊下をとぼとぼと歩いていた。とぼとぼの理由は、生徒会での出来事。風紀委員さんが来たというだけで驚いたのに、まさか会長さんとその前の前の会長さん達の間に、しがらみがあったなんて。けれど、少しショックだった。僕たちの知らない会長を見てしまったことが。会長が今までそんな気持ちで仕事をしてきたなんて分からなかったことが。
———結局、僕は何も出来ないのか。
 ドアを開けて、中庭へと入る。すると、一人の女子生徒が先に来ていた。

(先客……か)

僕は気づかれないように少し近づく。って、あれ。あの人は———

「か、会長さん……?」
「ん?あれ、月島じゃない」

ひときわ大きい木の前で、会長がたたずんでいた。

「あ、そっか。ここって月島のお気に入りよね」
「はい。それにしても何してたんですか?」
「ふふっ。おじいちゃんに話しかけてたの」
「っ———」

そのとき、ふと去年のことを思い出してしまった。



僕はいじめられっ子だった。けれど、表だったことはない。普通にシカトされたり、あまり話しかけられなかったり。暴力をふるわれたりというようないじめではなかった。それでも、当時の僕は今よりももっと軟弱で、一人では何も出来ないようなヘタレだった。できれば、僕のことを知ってる人がいない高校に行こうなんて考えていた。だから塾もなるべく隣町に通っていた。
 そして、その塾の近くにあるのが丘の上高校だった。担任の先生からも、僕のレベルにあった高校だと進めてくれていたし、何より通っていた中学のメンバーほとんどはここには通わないということが、一番の理由だった。

(下見に行ってみよう……かな)

もうすぐで模試だというのに、僕は少し余裕があった。その頃の塾の成績はいつもより良かったし、最近は微妙にだけれどクラスメイトとも上手くいっていた。

「……そうだ、中庭」

この学校にするという限り、やっぱり中庭は見ておかないとね。僕のお気に入りの場所。そして、唯一僕が心を許せる“彼ら”に。

「ここが中庭かぁ」

一歩中庭に踏み入れると、視界いっぱいに広がる緑の量に驚いた。中央にはひときわ大きく、樹齢数百年といっても過言ではない木が植えてあり、その周りを囲うように植木がある。こんなにも広い中庭なのか。

「…………でね、そのときの顔ったらもう……」
「っ———!?」

どこからか声がした。小さくてあまり聞き取れなかったけれど、どうやら誰かと話しているようだ。盗み聞きの趣味は無いから、早くおいとましよう。そう足を踏み出した途端———

————バタンッ

「———っ……」

それはもう見事に転んだ。どうやら地面を這っていた草木の蔓に足が絡まったらしい。
じ、地味にいたい……。すると、こっちに向かう足音が聞こえた。

「大丈夫?」
「あ、えと……へ、平気です」

僕は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら、差し出された手を握った。そして顔を上げると、綺麗な女子生徒が立っていた。制服の校章には2年と書かれている。その綺麗な先輩は、僕に手を差しのばしながらいった。

「ここってあまり整備されていないから、蔓とかが伸び放題なの。気をつけて」
「は、はい……」

立ち上がり、改めてみるとその先輩は本当に綺麗な顔立ちをしていた。この人の前で転んだなんて、本当に恥ずかしい。

「あの、よくここには来るんですか?」
「へ?」

初対面の中学生にそんな質問をされると思っていなかったのか、先輩はきょとんと首を傾げた。そ、それもそうだよね……。

「そうね。ここは私のお気に入りの場所なのよ。ほら、あの大きな木があるでしょう?あれは、私がおじいちゃんって呼んでるの」
「お、おじいちゃん?」

その木を見ると、確かに両手を広げたように構えている。どっしりと構えた賢者のようだ。老師とも言えるような。

「ふふっ。面白いでしょ?」
「は、はい」
「あなたもここ、好きなの?」
「はい。というか、中庭が好きなんです」

フレンドリーになった先輩に、僕は安心してにっこりと微笑む。なんだかすごく包容力のある人だなぁ。

「ね、あんた生徒会に入らない?」
「…………はい?」

前言撤回。なんだかすごく突拍子もない人だなぁ。
先輩はそう言うと、僕に悪戯っぽいような笑顔を向けた。

「一応人はそろっているのよね。双子の弟に、普通が取り柄の男子。運動バカの熱血男子に、クールでおそらくデレ要素がある男子。ここでショタが入れば完璧じゃない!」
「あの、もしもし……」

ダメだ、なんだかすっかり自分の世界に入ってしまっている。
その人は僕がいるのもすっかり忘れてしまったように、しばらく悦に入っていた。

「————ってな訳だから、ここ、入りなさいよ」
「え?あ、はい……」

そう言うと、先輩は“おじいちゃん”に言った。

「また新しい人増えたよ、おじいちゃん」



「あの時は、本当に何事かと思いました……。いきなり生徒会に入ってくれなんて……」
「ふふっ。ま、良いじゃない。結果オーライよ」

どこが結果オーライなんだろう?僕は会長さんの微笑みを見ると、今生徒会に起きている嵐のような出来事も、一瞬でも忘れられる気がした。