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- Re: オタクな生徒会長は絶好調? 『第15話更新』 ( No.36 )
- 日時: 2011/02/03 11:32
- 名前: 棋理 (ID: Fn07flnU)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode
第16話『赤く染まった屋上で』
蒼井と月島と暁が、何故か慌ただしく俺の元に来た後。俺は教室でただボーッと窓の外を眺めていた。夕焼けで校庭が真っ赤に染まっている。
——そういえば、あの日もそうだった。
2年前、俺は何もかもがどうでもよくなっていた。
高校に行くなんて全然考えてなかった。ただ単に親父の店をいつか継ごうかな、としか考えていなかった。
その頃のお気に入りの場所は丘の上高校の屋上——つまり、この学校の屋上だった。この学校は平日の5時半まで中学生でも入れるようになっている。理由は自由な校風を見せるためというけど、本当のことは分からない。
俺はそこに毎日のように通っていた。塾にも行ってなかったし、遊ぶ友達もいない。ただ屋上で退屈な時間を浪費するだけだった。
そろそろ受験勉強のラストスパートという日。その日は夕焼けがいつもよりも輝いていた。だけど、俺にはその夕焼けが何故か憎らしく見えた。太陽は沈んだらまた昇ってくる——俺とは真逆で…それが憎らしくて。
「あら、あなたもこの場所が好きなの?」
「へ?」
とても幻想的だった。すらりとした手足にくびれのある腰。しゅっとした顎に、長いまつげ。厚みのない薄ピンクの唇。つやのある黒髪。そんな美少女が夕焼けで真っ赤に染まっている屋上に立っている。とても幻想的で——不思議だった。
「あの、あなたは…」
「私は1年の星宮玲。生徒会の会計よ」
「会計…?」
その美少女——星宮さんは俺の横に座った。
「この学校の生徒会はね、他の学校より変わっているのよ?」
「変わっている?」
「そう。生徒会長だけが全校生徒の投票で決まる。そして、その他の役員は会長自らが決めるのよ」
「自ら?」
「有能な人物をね。まぁその会長によって違うのよ?会長が好きな人とか、友達とか。
まぁそんな人は選ばないけど」
と言うことは、星宮さんが会計と言うことはさぞ有能なんだろう。容姿端麗で頭脳明晰。何となくだけど、来年の会長はこの人じゃないのか?
「ま、私が会計なのは——今の会長のおかげだけどね」
「……??」
そりゃそうだろう。生徒会長が選んだんだから。とは言えなかった。それは何故か星宮さんが寂しそうな顔をしていたから。
「この学校に来ると言うことは、来年入るのかしら」
「あ、いえ…それは……」
確かにこの時間に来る中学生は、来年受験をする人たちだろう。
だけど俺は——。
「分かりません。多分入らないと思います」
「どうして?」
「あ、別にこの学校がいやというわけではないです。…ただ、今の俺にはやることがないから」
俺の言葉に、星宮さんは首をかしげる。そりゃそうだ。この学校に来ているくせに、入らないなんて。
「やることがない?」
「はい。特にやりたいことはないし、これと言ってやらなければいけないこともない。だから、俺にはやることがないんです」
俺は何を言っているんだろう。こんな見ず知らずの人に愚痴なんかを言って。
隣では星宮さんが真剣に考えている。……すると、フイに口を開いた。
「だったら、この高校で見つけてみれば?」
「…へ?」
予想外の言葉に、俺は戸惑った。今までそんな言葉をかけてくれる人なんて、俺の周りには存在しなかったから。
「だってそうじゃない。やりたいことがないのなら、見つければいいのよ」
「確かにそうですけど……」
「そうだ!もし君がこの学校に入って、私が生徒会長になったら。そのときは、あなたを生徒会にいれるわ」
「…せ、生徒会に?」
なんて自信がある人なんだ。私が生徒会長になったら、なんて。
でも、何となくだけど、この人なら生徒会長になるような気がした。今で言うと、もしかしたら予知能力なのかもしれない。
「ええ。だから、それまで私は勉強もして自分磨きをする。そして、必ず生徒会長になるわ。だからあなたも約束して欲しいの。この学校に入って、自分のやりたいことを見つけて」
そのときの会長の目は、とても澄んでいた。とても綺麗で——まるで黒真珠のようで。
だからこそ、俺はその言葉に耳を傾けた。この人なら、俺のやりたいことを見つけてくれるかもしれない。
「でも…今から受験勉強なんて……」
「大丈夫。この学校、そんなにレベル高くないわ。今からでも遅くないわ。
そのままで良いなら好きにすればいい。
私には、あなたにまだ可能性があると思うけどね」
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「あれ、もうこんな時間か…」
いつの間にか時計の針は5時を回っていた。俺が考えていることは、意外と長かったらしい。
「それにしても…」
あの美少女が、本当に生徒会長になった。後で知ったことだけど、星宮さんはとても人望のある人らしい。成績優秀だし、容姿端麗で性格も良し。…まぁオタクということを除いては、とても信頼されているらしい。
俺が高校に入って、真っ先に声を掛けてくれたのが星宮さんだった。そして、自分が生徒会長になったとき、副会長の座に迎え入れてくれた。
「今思うと、本当にすごい人だよなぁ。あの人は」
さ、帰るとするか。俺はスクールバッグを手に取ると、赤く染まった教室を後にした。