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- Re: オタクな生徒会長は絶好調? 『第25話更新』 ( No.57 )
- 日時: 2011/03/27 17:11
- 名前: 棋理 (ID: p81XYxhw)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode
第26話『暁勇翔の思い出』
「じゃあなー勇翔!」
「自習練もほどほどになぁ〜」
「分かってるって!じゃあなー」
俺こと暁勇翔は、サッカー部の練習が終わって後片付けをしていた。
生徒会が終わった後すぐにグラウンドに来たけど、ほとんどの奴らが帰っていた。この学校のサッカー部は、それほど強いわけでもない。少なくとも、強豪校とは言えない。けど、何度か県大会の出場経験はあって、一時期は優勝するほど強かったこともあるみたいだ。
「ふぅ。……よし、始めるか」
俺は他の奴らが帰っても、1時間半ぐらい自習練をしていく。生徒会があるから練習時間が少ない——とは、口が裂けても言えない。それを言うと、会長のせいにしているような気がするからだ。だから、「生徒会があるから練習できないんだろ?」と言われたら、おそらく口よりも手が先に出るだろう。いや、サッカー部だから足とでも言っておくか。
ひとまずリフティングから始める。右足でボールの感触を確かめてから、じょじょに腿、胸、肩、頭と上がっていく。
「きゃー!暁君だぁ」
「いつ見ても格好良いよねぇ。私、サッカー部のマネージャーやろうかな?」
「それって暁君目当てでしょ?」
「もっちろん♪」
近くでそんな声がした。振り返ってみると、同じクラスの奴らだ。正直、ああいう群れる女子って言うのは苦手だ。なんでもかんでもおそろいにしたり、そのグループでの役割が決まっていたり、ケンカの時は1VS4ぐらいで平気に戦うし。そのくせ、自分が1人になったら弱い。そんな女子が苦手だ。どちらかというと、あまり人に自ら感賞しないタイプの方が、好みだ。
俺はうっぷんを晴らすように、リフティングをしていたボールをゴールに向かって蹴る。
カンッ!!
「あ……」
ボールはネットに入らず、綺麗な音をたてて跳ね返ってくる。そして、どこかに転がっていった。
「相変わらず下手ねぇ」
「ッ!?」
ボールを拾い上げた人が言った。鈴の音のように綺麗で、それでいてか細くなく凜とした声。俺はその声の主を見上げた。
「会長」
「まったく、女の子の応援で気を散らすなんて、あんた全然変わってないわね」
変わっていない。その言葉で、俺はあの時のことを思い出した———。
【2年前】
俺は荒れていた。好きだったサッカーもスランプでやめてしまい、ちょっと危ない奴らとつるむようになった。親はそんな俺に……なんて言ったんだっけ。とにかく、呆れるような悲しむような。多分、軽蔑の言葉を放ったと思う。
そろそろ進路を考えなければいけない時期だった。学校の友達も進路を決め、つるんでいた奴らもいつの間にかまともな職に就くと言っていた。
(どうすっかなぁ……)
就職したいという気持ちは無い。どちらかというと、進学したいという思いもあった。高校に行くことで、自分の中の何かが変わればいいなって。でも、そんなの戯れ言にしか成らない。そんなことを考えながら適当に歩いていると、いつの間にか何処かの学校に入ってしまった。
(えーと…『丘の上高校』?高校か…)
とりあえずグラウンドに行くと、サッカーボールの転がっていた。……久しぶりにやってみるか。足でボールをすくってリフティングをする。久しぶりの感覚だ。足、腿、胸、頭と場所を上げていく。そして、ゴールに打ち込む———
カンッ!!
「……ちっ」
ボールはポストにはじかれる。……なんとなく、自分も社会という枠にはじかれているような気がした。やっぱり、俺に進学なんて…夢なんて…サッカー選手になんて……。ふと、転がったボールを綺麗な手が拾い上げた。
「え……?」
「下手ねぇ。ま、今のサッカー部員より遙かに上手だけど」
俺は一瞬天使かと思った。俺のことを見ていてくれた天使が、助言に来てくれたのではないかと。そんなバカなことがあるか。正気に戻ると、俺はその女性に近づいた。近くで見ると、本当に綺麗な人だった。艶やかな黒髪に、どこか愁いを帯びた瞳。
「あ、あの…」
「あなた、今度ここを受験するの?」
「いえ……」
「ふうん……」
その人は慎重が少し高い俺の顔を見つめると、ふいに口を開いた。
「——この間来た男の子と同じ瞳をしているわね」
「へ?あの、どういう意味ですか?」
「ふふっ、自分を見失っているって意味よ」
初対面の人に言われると、なんとなく信じてしまう。初めて合うのに、俺はそんな印象を持たれたのか…。なんて思ってしまって。
「……実は——」
気づいたら俺は、悩みを打ち明けていた。
「なるほどねぇ。実は私、生徒会に入っているの」
「はい?」
突然の言葉に、俺は返す言葉もなかった。
「この学校の生徒会のシステムは変わっててね——って、2回も同じ事を言うのは疲れるから以下省略」
いや待て。以下省略って、俺一度もそんなこと聞いたこと無いんだけど。
「とにかく、私が生徒会長になったらあなたを生徒会にいれるわ」
「……へ?」
「だから、あなたもここを受けなさい。幸い今さら勉強しても間に合うわよ?偏差値低いし」
何を言い出すのか分からない美少女。そのギャップに俺は惹かれた。そして、なんとなくこの人は生徒会長になる。そう思ってしまった。……俺はこの人を信じて良いのだろうか?
「良いのよ。信じてくれて」
俺の胸の内を悟ったように、優しく言うその人は——陽だまりのような笑顔を向けてくれた。
「失礼だなぁ。俺は2年前より上手になったつもりだけど」
「ふっ。まだまだだね」
「いや、俺サッカー部だからそのネタはあんまり…。どちらかというとキャ○テン翼から引用してもらいたかったけど」
「別に良いじゃない。知らないし」
「知らないのかよ」
そして今。その美少女は俺の前にいる。約束を決して違えなかった少女が。————俺を導いてくれた少女が。
