コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【紅の魔法】 ( No.1 )
- 日時: 2011/03/28 03:41
- 名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)
第一章、始まりを運ぶ者
「ねー、ねーってばぁ」
「・・・」
「ゆーすけぇー、早くおきてよぉ、学校遅刻しちゃうよぉ?」
思春期に入れば、誰もが願うであろう隣に住んでいる可愛い幼馴染が自分を起こしてくれるというイベントを、今日の今までうざいと思ったことは一度もない。だから俺は、鎖牙裕介はいってやりたい。ネットの中で夢をほざいているやつと、かわいい幼馴染がいればよかったとかいっている俺の通っている高校のクラスメイトの男連中にいってやりたい。可愛い幼馴染がいたってそいつはきっと自分のことをどうとも思っていない糞野郎だけだ、と。
その証拠にこれだ。朝七時だというのに俺の部屋の窓にどこで拾ってきたかわからない石を何度も何度もぶつけてきて、さらに起きろといってくるのだ。お前は俺のお袋かよ!!というつっこみをいれてやりたい気分だが、そうもいかない・・・。
前置きはどうでもいいとして、俺は昨日夜の十時に突然眠くなり寝たのだ。それは昨日今日に限ってのことじゃない。一ヶ月も前から、そんな生活がずっと続いているのだ。本当は幼馴染が窓に石をぶつけてくれないといつまでも寝てしまいそうな勢いなほどだ。どんな怠け者だよ、そしてなに逆ギレしてんだよ、とネットのやつらとクラスメイトのやつらに言われてしまいそうな気がするような気もするが・・・まったくその通りで。
俺は無理矢理体をベッドから引き剥がし、カーテンを思い切りスライドして、窓も開ける。太陽の日差しに一瞬目がクラっとしたが、幼馴染が窓をあけたことに気がつかずになげてしまった石に額をやられ、それもすぐに収まった。
「あっ、あっ、ご、ごめんなさい!」
・・・俺の家と幼馴染、椿昌子の家は根本的に作りが違う。やつの家は広いベランダつきで、しかも庭までついている。だがしかし俺の家には親父とお袋、そして妹の麗帆の四人で暮らすには少し狭い二階建ての家に、小さいベランダ。そして庭がないという。
昌子と俺は、一ヶ月前に近くにある高校、宮西高校に入学した高校一年生だ。俺の場合生まれたときから一度も引っ越していないためずっと今の家に住んでいるが、昌子は小学五年生の時に隣に引っ越してきたのだ。まぁそれ以来よく遊んだりしているが、中学校のころべつの学校に昌子が行ってしまい、俺に一度彼氏的なやつを紹介してきてからは俺のほうから彼女を避けてしまっている。だがやつは、そんな俺の心境などお構いなしにいつも絡んでくるのだ。・・・くそっ、昌子、お前はその彼氏、修二君とやらと男女の関係でも築いて俺のことなんてほっといてくれよ———とは口に出せず、やはり怠け者でヘタレな俺は眠くて閉まりそうなまぶたを持ち上げ、右手で目くそをとりながらヘラヘラ笑い、言う。
「はは・・・おはよう昌子。これで何度目だ?俺に石ぶつけんの」
近くにいる女の子にどこの誰とも知らない男がつくのはあれだ。痛く辛い。俺がもしも昌子のことを好きだったらそれはもう発狂してしまいそうなほどに辛いものなのかもしれないが、まぁそんな気持ちはわからないね。たしかに昌子は可愛い。十人中十人は可愛いというぐらい可愛いだろう。黒髪のショートヘアーにヘアピンで前髪を左右に止め、形のいいおでこをまるだしにしている。目はちょっと大きめで、鼻筋はピンとたっていている。それらを桜色の小さな唇がほどよいバランスにしてくれている。顔は小さく整っており、これで彼氏がいなかったら世界はどうなってんだといいたいね。うん。そんでもって俺は極平凡な男子高校生だ。親譲りの漆黒の黒髪、中学までやっていた空手でちょっと鍛えられた体。顔つきは平凡で、身長は百七十六ぐらいだったな。
そんな俺が、近所の人から可愛い可愛いといわれ、高校に入って一ヶ月でもうラブレターとかもらってたりする昌子を好きになっていいはずが無い。いや、それをいってしまうと俺が昌子を好きになりたいのに好きになれないみたいな言い方になってしまうが、それは断じてないさ。ただ・・・俺じゃぁこいつとは釣り合いが取れないってだけだ。
「さてさて何度目でしょー?」
「ちょ、お前・・・反省してねぇな?」
「ふっふーん♪」
「はぁ・・・」
朝から元気いっぱいの昌子をみていると、俺はどんどんテンションが下がってくる。ていうかこいつ、学校にいくなら修二君とでも行ってろよ。どうして俺なんだよ。はぁ・・・言ってやりたい、言ってやりたいけど・・・、こいつの笑顔を見ているうちに、どうでもいいかと思えてくる。
「あ、もしかして怒った?怒っちゃったの?」
「怒ってねーよ」
「うっそだー」
「怒ってねぇって、まじで」
軽くあしらいながら、俺は制服に着替えるために窓を閉め、カーテンも閉める。その瞬間に昌子が三十分後玄関でねーといってきて、俺は少しだけ窓をあけてあいよ、とだけ答えておく。
平凡な毎日だ・・・。幼馴染が俺のことを起こし、俺はそいつと一緒に学校にいく。学校にいけばこいつから開放されて、一ヶ月の間にできた友達とゲームの話をして、俺最近早ねなんだぜーとか冗談を言って笑ったりして・・・そんなそんな毎日を繰り広げる。
俺は・・・人生の脇役だ。人生の主人公の側にいて、ただそいつをうらやましそうな目で見ているだけの脇役だ。ただ誰かを飾るための、主人公を飾るための脇役だ。
そこで俺はふと思う。自分がこんなことを考えるようになったのはいつごろだろうか、と。目標もなく、ただただなにかを必死にがんばっている人を嫉妬の目で見ている俺は、どうしてこんなふうに考えるようになってしまったのだろう。
俺が空手をやっていたころは・・・、自分は人生の主人公で、生きる意味を持っていた。全国大会で良い線まで上った俺は、ああ、俺は空手で強くなるんだと言って、それを言った二年後に・・・医者から告げられた最悪の宣告・・・
『残念ですが・・・もうその足では、いままでどおり空手もできなければ、激しい運動もできません』
・・・
おそらく、そこだ。そこで俺は脇役になった。やることが見つからず、ただただ生きるだけの脇役になった。その後に昌子からの彼氏の紹介、追い討ちをかけられるように、俺は主人公から脇役に堕ちて行った。
まぁ・・・それでもいいさ。平凡に生きていければ、それでもいいさ。毎日警察と戦っている暴走族の方々はけして平凡とはいえないし、ヤクザの連中に目をつけられたりしたらそれはもう完全に平凡じゃないだろう。そんなスリル満点な人生を生きるより、なにもしないでダラダラと過ごす、こっちのほうがましだ。
自分の部屋は二階にあるので、一階に下りて、洗面所で顔を洗う。洗い終わったらまだ起きていない三人をほっといてパンをトースターに入れて焼く。妹は中学校に通っているが、そこの始まりは八時半なので、まだまだ余裕がある。宮西高校は八時十分からなので、それなりに早くいかなければ間に合わない。といっても、俺たちの家からだと十分もかからないので、七時三十分にでるのは早過ぎると思う。
お袋のパートもまだだし、親父の会社もまだまだだ。なんちゅーグータラな家族だといいたくなるが、ほっといてほしい。