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Re: 仮名【紅の魔法】※誤字脱字多数 ( No.10 )
日時: 2011/01/23 22:54
名前: だいこん大魔法 (ID: AEu.ecsA)

俺がそんなことを悩んでいると、エルがこちらをむいてくる。いとおしそうに、俺の手を握っていない方の手で俺の胸に触れ、上から下までなぞっていく。それを俺はくすぐったく思い

「な、なにしてんの?」

と聞く。エルはそれにニッコリと笑って、昔と変わらない、綺麗な声で俺に言う。

「裕介・・・たくましくなったなぁって」

「いや、まぁそれはいいんだけどね、ちょ、痒いんだけど」

「えへへ〜」

「いや、えへへ〜じゃなくてね?」

自然と俺たちは会話を取り戻していく。ヘタレな俺の心を知っているのか、エルがリードして会話を盛り上げてくれていく。・・・男として、これはかなりダメなんじゃないかと思うが・・・今はいい。エルと再会して、今一緒にいる・・・ということだけが大事なのだ。

「あ、そうだ、裕介はさ、私とわかれて九年間、どこでなにをしてたの?あ、あの・・・もしかして、私のこと探してくれてた?」

その言葉に———さきほどまでうかれていた俺の心が一気にさめていく。俺は上げていた顔をふせ、なるべくエルに・・・いまの情けない顔を見せないようにそむけた。
だが・・・これは丁度いいチャンスなのかもしれない。どうして自分の中に、一部ぬけている記憶があったのか知るチャンスなのかもしれない。そうならば、俺は知らなくてはならない。自分の記憶は、ちゃんと頭の中にしまっておきたいから———
そう思った俺は、顔をあげる。顔をあげると、エルのほうを見る。エルはやはりこちらをいとおしそうに見つめながら、ん?と首をかしげる?俺はそんなエルに・・・最悪な言葉を、震える声で言う。

「俺は・・・お前とわかれてから九年間平々凡々・・・ダラダラとなにもせずに・・・お前のことを忘れていた———お前が必死に俺のことを探していることも知らずに、ダラダラとなにもすることなく九年間過ごしていた。・・・失望されてもかまわない、嫌われてもかまわない・・・だけどこれだけは聞いて欲しい。俺の頭の中から・・・ひとつの記憶が消えていたこと・・・つまり、お前との出会いの記憶が、すべて俺の頭の中から消えていたんだ」

その言葉をはいた瞬間・・・俺の心の中にあった、エルと再会してからずっと心の中でひっかかっていたものがとれる。それを聞いたエルは、予想とは裏腹に、なにやら深刻そうな表情をして俺のことを見つめていた。

「・・・それって・・・もしかして・・・あいつらが———」

顔をふせてエルはなにかをつぶやく。しかし俺はそれを聞き取ることはできなかった。どうした?と聞くと、エルはなんでもないよと笑ってごまかし、俺の手を再び握る。

「裕介は悪くないよ。なにも悪くない。・・・私は嫌われ者。すべての生物から嫌われている私のことなんて・・・忘れていてもしょうがないからね。うん!私は今こうして裕介と話せるだけで幸せだよ!!」

どこか寂しそうな陰をみせながらエルは笑う。俺はその表情をみて、心がズキン、と痛むのがわかった。そうだ。俺はエルのこの表情を見たくない。なにかを我慢しているエルの寂しそうな表情なんて見たくない。子供の頃から・・・その表情を見るたびに、思っていた。
———エルの笑顔を守りたい———
なんていうか・・・人にいえばひどく恥ずかしいものだが、それでも俺はエルが笑っている、陰もなく、無邪気とはいえないが美しく笑っている時のエルが、すきなのだ。だから———

「・・・エルは嫌われてなんかないよ。ま、もし本当に嫌われているんだとしても、俺はエルのことが・・・好きだ」

その言葉に、エルの目が見開かれる。その表情を見るのは今日で何度目だろうな・・・と俺はわらいかけた———そのとき、異変がおきた。
俺の中心、心の奥底に眠っている【なにか】が、俺の内側からでてこようとする。灼熱の炎のように熱く、俺の体からぬけだそうとしてくる。俺はそれの痛さに目を見開き、腹を押さえる。エルは慌てて俺の体をささえて、戸惑いながらも言う。

「大丈夫だよ、裕介!!それは悪いものじゃないから!———裕介が、私に好きっていってくれたから完成した・・・契約の力だよ」

「け・・・契約の、力?」

あまりの痛みによだれをたらしながら俺はエルに聞いた。そういえば———昔俺は、エルに好きだといっていなかった。好きだという前に殺されたからだ。ということはつまり———さきほど俺が何気なく言った、【好きだ】という言葉が契約に反応して・・・完成したのだろう。

「・・・契約が完成した・・・っていうことは、本当に・・・本当に裕介は私のことを愛してくれている・・・」

そう小さく呟いたエルはうれしさに笑顔をうかべ、はずかしさに頬を赤らめる。痛みが引いてきた俺は、エルに聞く。

「・・・契約が完成した・・・のか?九年の時間がたって・・・契約が完成したのか・・・?」

それにエルはうれしそうにいう。俺の胸に再び抱きつきながら、いう。

「うん・・・これで裕介は・・・人生の道から大きく外れた。化物の道に進むことになった・・・。そして・・・その道を生き抜くために———」

エルはそこで言葉を区切り、ひとつ大きくいきを吸う。俺はエルの次の言葉がだいたい予想できていた。エルがなにをいうのか、だいたい予想ができていた・・・そう、その言葉はおそらく———

「【魔法】を自由自在に扱えるようになった」

そう・・・俺の思った言葉をそのまんまエルは、口にした。