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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【自作絵4つ目】 ( No.107 )
日時: 2011/06/12 11:38
名前: だいこん大魔法 (ID: OkVLMN/u)

たった一日でどうあがいたって、俺がグレン・ユーリッドに勝つなんてまず無理だ。リーにも勝てないで、エルにも勝てないで、ローラたちにも勝てないで、俺は一体どんな奴を敵に回そうとしているんだ?とか思ったりもしちゃうが、それは自分勝手で、ほかの人から考えたらどうでもいい理由しかないのだ。
だから俺は———

「・・・お前が———お前がエルを狙うって言うんなら、エルを殺すっていうんなら・・・俺は、一切合切容赦しねぇからな!!」

そう叫ぶ。
なにがなんだろうと、俺が勝てない相手だろうがなんだろうが、どんな手段を使ってでもぶちのめすだけだ。それがどんなに無謀かなんて俺には理解できないが、エルを守りたいではない、エルを守らなければならないという俺の我が侭を、通さなければならないのだ。俺より強い相手と戦うって言うのが、エルと一緒にいられるための代償ならば、それは安すぎるものだ。敵は魔術師といえども、心のどこかは人間、どこかに付け入るところが必ずあるはずだ。だから俺は最大限にそれを生かさせてもらうとしよう。

「・・・フン、まぁいいさ。こちらも≪企業≫のお偉いさん方に色々急かされているんでね、この仕事は速めに終わらせたいからなぁ。迅速かつ確実に【紅の魔術師】を殺すために———まずお前らに死んでもらうとしようか」

突然冷ややかになったグレン・ユーリッドの声に、再び俺の体は戦慄する。だがしかし、それは恐怖の震えではない。戦いに対する、俺のまだまだ若い、青年の心が反応したのだ。空手をやめて以来、もう一切感じなくなってしまったこの感覚を、俺は再び味わった。それだけでも、俺の中に勇気がわきあがってきた。空手をできなくなって久しい。それは怪我が原因で、やめざるをえなくなってしまった。だが今は違う。怪我なんか気にしなくてもいい、怪我なんてただの飾りの世界にまぎれこんだ今は・・・死ぬまで、続けることが出来る。
魔術、魔法を使う世界とは———そういうところなのだと、俺は改めて実感した。
給油タンクからグレンが飛び降りる。それは軽い跳躍のはずなのに、まるでトランポリンでもつかったのかと思わざるをえないジャンプ力だった。そのまま綺麗に屋上の底に着地し、俺たちと対峙する。
それは目の前にして、圧倒的なまでの存在力をしめしていた。魔術師にとっての存在力は魔力そのもの。魔力がなくなったところで死にはしないが。それは普通の人間にもどってしまうのと同じことを意味している。まぁエルの魔力が枯渇し始めているという問題があるのだが、それは枯渇する前に俺が強くなればなんの問題もないから今のところ現状放置というところでおさまっている。
魔力の小さいものは魔力の高いものを前にすると動けなくなってしまうのが、魔術師の暗黙の了解だ。それは、不良を前にして気弱な人がひるんでしまうのと同じ原理で、俺も今、少しだけ体がひるんで動かなくなってしまっている。エルの時、ローラの時、リーの時に感じなかったこの感覚に、俺はやはり身を高ぶらせてしまう。高揚感を高めてしまう。
自分の中にある少年の心がうずく。今まで忘れていた感覚が、俺の中に戻ってくる。空手というステージを魔術というステージに移動させ、やっとそれに心がついてきた。ある意味この戦いは、俺にとっての、魔術師としての、初めての戦いだ。