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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 更新速度低下 ( No.120 )
日時: 2011/03/02 22:30
名前: だいこん大魔法 (ID: ikrpTGuK)

それをみて俺は、ただただ後ろに後ずさりすることしかできなかった。圧倒的なまでの力の差を見せ付けられて、もう感覚が麻痺してしまっていた。今の今まで勝てるだとか思っていた相手の禁呪を見て、もう戦意を喪失してしまっていた。
そんなとき俺が思うことは、ただひとつのことだった。グレンという名前の化物に———殺されたくないと。自分はこの世界にはいったばかりだから今ならまだぬけられると———そんなことだった。この世界からぬけだしたかった。もう、こんな世界にいたくなくなっていた。力の差だけではない。自分の生命の危機を感じて、まだ人間であるぶぶんの俺が、そんなことをわめき、それに魔術の、化物とかした俺の心は生命欲にうち負ける。
じりじりと後ろに俺はさがっていく。怯えた目でグレンのことをみつめて、さらに恐怖を募らせる。早く、早くこの場所から去りたい。早くこの場所から、世界から・・・ぬけだしたい。自分の命よりも大切なものなんてない。だから早く・・・早く———
そう思いながら、ジリジリと後ろにさがっていく俺の目の前に、ひとつの影がかかった。俺はその影の正体に、にごった目をむける。それは金色の髪の毛の少女だった。身長は俺の胸・・・よりも下あたりの大きさの、頼りない細身の少女だった。だけど、その少女の存在感は、今の俺なんかよりも圧倒的に大きかった。
その少女は、俺のことを悲しげな目でみつめる。俺はその少女の目を勅旨することはできなかった。今の俺は汚い。自覚はできているさ。自分よりも圧倒的な、どう逆上がりしたって勝てない相手を目の前にして、俺の心は完全に汚くなってしまった。いや違う。今まで決めていた俺の決意、決断が、一気に崩壊してしまったのだ。だから俺はもうこの少女のことを見つめ返すことはできない。今もなお目的にむかって走る人生の主人公を、・・・脇役が、直視できるわけがない。

「・・・ユーは、もう逃げて」

そしてその少女は、涙を瞳にためてそう俺に言い放つ。それは拒絶のようでもあり俺のことを気遣っているかのようでもあった。その真意はわからない。だけど、俺の中にある化物の心はそれに反論しようとする。だがしかし、それに反発するように人間の心は少女の言うとおりにしろという。二つの心が反発し合って、俺は再び、ジリジリと後ろに下がり始めた。
・・・もう、少女は、リーは俺のことを見てはいなかった。怒りの孕んだ空気をまとい、グレンに向き直っている。やはり・・・強いな、と思う。リーは強いな、と思う。今まで孤独の中で生きてきた彼女は、一体なにをたよりにして・・・今まで生きてきたのだろう。狂ってしまう寸前で、一体なにを枷にして・・・ここまで強くなったのだろう。孤独を打ち破って、自らが孤独でないことを宣言して———一体、彼女はどうしてそんなに強くなれたのだろう。俺なんかとは違う・・・なにかをもっていたのか?
そして再び俺は、後ろに下がり始める。俺のことを友達だといってくれたリーと自分の間に大きな壁ができてしまって、それに再び俺は怖くなってしまう。いや、それはべつにいいのだ。俺は脇役で、彼女は主人公。その間には大きな壁があって、脇役はその壁を登ることは・・・できないのだから。

「鎖牙さま」

そして再び声がかかる。今度のは、淡々とした声だった。俺はすぐにそれがローラだとわかった。俺はにごった目で声がかかったほうに目をむけると、ローラは、怒っているかのようで、俺のこの行動を・・・認めているかのようでもあった。

「・・・逃げてください。鎖牙さまはこの世界にはむいていませんでした———だから、あとは私達が『なんとかします』」