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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 更新速度低下 ( No.121 )
日時: 2011/03/05 20:16
名前: だいこん大魔法 (ID: ikrpTGuK)

そして俺は、その言葉にビクッと反応してしまう。・・・わかっているさ。俺がこの世界にむいていないことなんて、初めからわかっていたさ。でも・・・どこかで俺は、空手をやっていたときのように、主人公であったときのように、この世界で主人公になりあがろうとしていたのだ。壁を乗り越えて、主人公になろうとしたいたのだ。だけどそれはかなわなかった。脇役風情が主人公に成り上がる術は———人間の、日常の世界にも、こちらの、化物の世界にも———なかったのだ。
俺はヨロヨロと後ろにさがっていく。屋上の入り口にあるドアのノブをつかんで、それを回す。ローラはもう俺をみていなかった。自分達の恩人の契約者というだけのつながりしかなかった俺たちは———当然のような、対応とでもいえよう。そう・・・ローラはもう、俺に失望していた。
それは蛍も同様だった。そもそも、蛍と俺はあまり話しをしていないから、仲がよかったとはいえない。だから蛍は、俺に一言を言わなかった。ただただこのような結果を、予想していたといわんばかりの様子でもあった。
ルミとレイは、若干戸惑った様子で俺の事を見ていた。だけど、やはり俺のことを最終的に見なくなる。それも当然の反応ともいえよう。
だけど・・・やはりルミだけは、俺のことを、寂しそうな表情で見ていた。
だが俺は、その視線にたえられなかった。これから俺のやる、凄く汚い、怖くなったから逃げる・・・という行為を正当化するために、おもいきりドアを開く。その様子をみていたグレンが高笑いをする。だが今はもうそんなことはどうでもいい。だから・・・だからもう、こんな醜いを俺を・・・見ないでくれよ———エル。

「裕介・・・」

その声に俺の体はピタッととまる。今まで人間の心に押しつぶされそうになっていた俺の化物の心が暴走し始める。主を守れ、逃げるな。
そう言っているように思えた。だがしかし、俺の人間の心が、逃げたいという心がそれに打ち勝つ。・・・エルなんかよりも、エルなんかの命よりも・・・他人なんかの命よりも———わが身そのものが、大切だ。
俺は振り返らない。そのままドアを通り抜け、エルのことをみないように、ドアをしめる。もういいのだ。大切な人だとかそんなんはいいのだ。俺は強くない、心も体もまだ化物ではない。だから、もういいのだ。大切な人を守ろうだとか、そんな意地張ってまでも俺は主人公にならなくてもいいのだ。脇役のほうが———平凡で、毎日つまんないけど———命の危険にさらされる機会は滅多に来ないではないか———そう思って———ドアをしめきろうとしたその瞬間———俺のご主人様の———どこか安堵しきったかのような感じと・・・そのなによりも、寂しさの混じった声が———きこえた。

「裕介———さようなら———そして、私に生きる意味を教えてくれて———ありがとね」

その声を聞いた瞬間俺はもう———階段を思い切り駆け下りていた。
結界の効果で動かなくなってしまった生徒たちの合間合間をすり抜けて俺は必死に逃げる。もうなにも考えないで、逃げる。途中で転んだ。
何度も転んだ。制服をところどころやぶけさせながら、それでも俺は必死に逃げた。もういいのだ。もういいのだ———なのにどうして俺は、さっきの場所に———戻りたいと思うのだろうか?
だがしかし、俺は頭をブンブンふってそれを振り払う。俺はもう戻らない。戻ってしまったら、再び俺は———エルを悲しませるだけだ。
自分で悲しませないとかなんだのと心に決めておくだけで、けしてそれは実行されない。俺はにとって・・・邪魔な存在なのかもしれないだ。俺がいるせいで———エルは悲しんでしまうのだ。人間である俺と、魔術師であるエルとは———つなぎとめておく鎖が細すぎたのだ。
無我夢中で俺は走る。早く、早く結界の外にでて、今までどおりの普通の人生を暮らそう。隣には昌子がいて、西野がいて———そんな平凡な人生を送ろう。化物だのなんだのは———青二才の俺にとっては、脇役の俺にとっては———速すぎたのだ。
そして俺は、校庭にでる。校舎をぬけて、上履きのまま外にでる。そんなささないことは気にならなかった。そして俺はその瞬間に再び無様に転がり、地面に頭を思い切りぶつける。
痛くは———なかった。平凡な人間、化物の世界と交わらない普通の人間ならば、顔面を強打すればそれは悶え苦しむぐらいに痛いはず。
なのに俺は、痛みを感じていなかった。それは俺が化物である証拠であり、エルとつながっている証拠でもあった。

「・・・なんだよ———俺は化物なんかじゃない」

それは、ある意味エルたちのことを化物だといっているのと同じだった。だけども、判断力がにぶってしまっている俺にはそれがわからない。
俺は起き上がらなかった。
ただその場で、地面顔をつけながら、うつぶせで倒れているままだった。起き上がる気力がないのだ。早くこの場から、結界から、化物の
世界から逃げ出したいのに、俺の体は動こうともしなかった。
上からは、激しい戦闘の音がきこえる。時折億条のどこかの部分が魔法に砕かれて校庭におちてきたりもしている。それをみて再び、どうして俺は逃げているんだろう、とか思う。だけどそれはもう遅い。逃げ出してしまったから、エルを悲しませてしまったから———もう戻ったって、なんの意味もない。
俺は涙を流す。九年ぶりに再会した———俺の、初めて恋をした女の子をほってきたことが、俺の人間の心に突き刺さる。主をほってきたことが、化物の心に刺さる。二つのことが同じ相手のことで、痛みを覚える。