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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 更新速度低下 ( No.122 )
日時: 2011/03/05 20:44
名前: だいこん大魔法 (ID: ikrpTGuK)

そんな中・・・俺は、エルの顔を思い浮かべる。俺といるときはいつも楽しそうで、いつも喜んでいて・・・いつも俺のことを、やさしい表情でみつめてくるエルの顔を、思い浮かべる。そんなエルを俺は、いつもいつも悲しませていた。九年前なんてそうだ。記憶を失ったとはいえエルのことを一切思い出そうとせず、そのまま生きてきてしまった。エルが≪企業≫やらなにやらに追われているのをしらないで、そのまま平々凡々と生きてきてしまっていた。俺は・・・なんでこんなにも、エルのことを悲しませるような行動を繰り返しているのだろう———しかも、今の俺は———自分勝手な思いで、エルのことを、いや、一緒に戦ってくれるといった仲間を、裏切ってしまっている。
それはけして許される行為ではない。なのに———どうして俺は、それを正当化しようとなんてしたんだろうか?
———!!
その瞬間、俺の人間の心が、それ以上考えるなと制止するように警鐘を鳴らす。それをねじ伏せようと再び化物の心が口にしろ、そうすればお前は主を助けられる———という。
俺は自分の心で考える。人間と化物がまじりあった、今の俺の心で考える。涙をなさけなく流しながら俺は、考える。俺は今どうしたい?
俺の心は今、どっちに動いている?エルを見捨てて、仲間を見捨ててまで自分の道を、人間だけの道を進みたいのか?それとも———主を、初恋の相手を、仲間を———助けたいのか?
ドーン、という音が聞こえた。結界の中にいる今、そんな音がなるのは屋上しかありえない。だから俺は屋上のほうを見る。そこからは、するどい音と煙と、コンクリートのかけらが舞っている。その中では、今もエルたちは戦っているのだろう。俺がいなくなっても、ローラたちはエルを、恩人を守りたいと思っている。
・・・俺は?俺はいったいなにをしている?エルを今、守っているといえるのか?いや・・・客観視しなくてもわかる。俺は今、生存欲の赴くままに行動をしていた。自分の命がなによりも大事だと思って逃げ出した。大切な人をおいて、自分の命を捨ててまでも守ると誓った大切な人をおいて———逃げ出していた。
そして俺は立ち上がる。
さきの思い、それは完全に・・・エルを、仲間を守りたいというのは、自分の心で考えたことだった。だだがむしゃらに主を守りたいという化物の心ではなく、ただ生存欲の赴くままに行動する人間の心ではなく。俺自身で———決めたものだった。
ローラたちは、エルの契約者、魔術師が一生ともに過ごすための愛しい人ではない。魔術師自身は一生その契約者を愛し続けるということはローラから聞いた。だけど契約者はすべてが人間だ。もとから魔術師の血を引いているわけではない。だからその魔術師を裏切る事だってある。それでも魔術師は契約者を愛する。そう。エルは間違いなく俺を愛してくれている———そして俺は、それに見合うほどの人間ではない。だけども、契約者になった今、恩人だからという理由だけで命を捨てる覚悟をしているローラたちに———負けてはならない。
俺は目にかかる前髪をはらう。そしてそのまま屋上を睨みつける。そこでは主を害するものと、主と、仲間がいる。俺はその輪からはずれた。だけど———今ならおそらく、誰も死んでいない。屋上から感じる魔力を見るに、それは断定できる。ならばまだ間に合う。誰も死んでいない今なら———まだ、俺の出番もどこかにあるはずだ。
さぁ・・・今もどるぜ・・・我が主君さんよ
俺は無意識で手に力をこめる。すると、それは『詠唱』なしに生まれる。『イフリートティア』の継続時間の十分とくにすぎているのに、魔法の炎が俺の腕全体を包み込む。その違和感に俺は気がつかないまま、もう一度手に力を込める。すると今度は、両足をつつみこむようにして炎が生まれる。それはもう完全に『イフリートティア』ではなかった。だけど、俺はやはりそれを気にしない。そのまま足をまげて、力をためる。屋上をにらみつけつつ、俺は力を溜め続ける。どこまで飛べるかわからない。だけども、今から校舎を走って屋上に戻ったらそれこそ手遅れになってしまうかもしれない。だったら———

「だったら・・・屋上まで跳んじまえばいいんだよっちゅー話だよなぁ!!」

その瞬間、俺は地面から足をはなし———空中に飛翔する。