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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【初企画始動】 ( No.134 )
日時: 2011/03/22 19:04
名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)

「ふ〜ん・・・まぁいいや、それで?なんで二人して暗い顔してたの?」

「・・・お察しの通りで」

「アハハ!!自分達がもてないことの反省会してたんだぁ!」

「バッカ!!大声でいうんじゃねぇよ!!」

歩と愛が、大声でなんとも恥ずかしい会話を繰り広げている。俺は、この二人のように馬鹿なやつだとかかわいそうな奴だとかおもわれないように、そそくさと席を立ち上がりこの場から逃げ———

「おぉっと・・・ゆう、お前、自分は馬鹿じゃないからこいつらと一緒に思われないようにこの場から退散しよう・・・って思ってんじゃねぇだろうな?」

「・・・お前は超能力者ですか?」

俺が立ち上がったのを見るや歩は俺の肩がガシッとつかんでくる。それに俺はうっとおしげな目で見る。実際、俺も頭の出来はよくないとはいえ、そんな恥ずかしいことを馬鹿正直に大きな声でしゃべるほど馬鹿ではない。だからはなしてくれ、俺はお前らと一緒にされたくない・・・自分がモテないことをバレンタイン直前に嘆いて反省会まで開いていたということを公表するような馬鹿と一緒にされたくない!!

「なぁゆう・・・俺とお前は、一年のときからモテないものどうし、仲良くやってきたよな?」

「ああ、残念ながらその通りだな」

「そしてよ・・・今年もそのモテないものどうしで一緒に嘆いていたんだよな?」

「本当に残念だが、そうだな」

「それで・・・なにが不満だっていうんだ?」

「・・・いやねぇ、自分がモテないことを大声で主張するような奴は俺の友達にいなかったなぁと思って———」

「かああぁぁ!!お前はどこまですかしてやがんだちくしょう!!」

「いやおかしいからその反応!?」

なぜか俺に頭突きをきめてこようとする歩を無理矢理引き剥がして、俺は歩の腹に軽くパンチを入れてやる。歩はそれにわざとらしくグフッとかいって倒れかけ・・・

「まだだ・・・まだ終わらんぞ」

と、血とかよだれとかでていないくせに口をジャージの袖でぬぐい、ヨロヨロと俺の真正面に立つ。それに俺は———

「・・・いつから格闘漫画が始まったんだ?」

と、冷静なつっこみをいれてみる。それに歩はそれもそうだな、と落ち着いた声でいい、席にゆっくりと着席した。
そんなやり取りをみていた愛は、笑いをこらえるのに必死なのか、両手を口元にもっていき、おさえている。目じりには涙がうかんでいて、今にでも笑いそうだ。さっきのやり取りのどこがおもしろいのかしらないが、愛の笑いの沸点はおそろしく低いことで有名だ。今は黙っておくのがいいだろう。

「ハァ・・・」

俺はそっとため息をついて、自分の席に着席する。結局、逃げようが逃げまいが、このような奇妙なやり取りをしているせいで俺も同類だと思われていることは間違いないので、自分のやっていた行動が今更なような気がしてきたからだ。
だいたい一分ぐらいたって、やっと愛が落ち着いてきた。愛は俺の机の横にたっていて、その様子がなんとなくわかる。ていうか、俺たちの会話にはいるなら普通、俺と歩の間ぐらいに立っていたほうがいいんじゃないか?とも思ったが、それを口にだすのは野暮ってもんだ。

「あー・・・やっぱりあんたらっておもしろいよね!!とくに裕介!!」

・・・なんという屈辱。俺が歩よりおもしろい=歩より馬鹿ってこと・・・か?いくら愛とはいえども、その言葉だけは聞き捨てなら無いな?

「いやいや、俺より絶対歩のほうがおもしろいって、主に顔が」

「なっ!?顔はお前より俺のほうがかっこいいだろ!!」

「とかいっているところがとくにおもしろ・・・」

「おもしろくねぇぇぇ!!」

突然俺に暴言をはかれた歩は笑いをふくんでいる怒りの言葉をはく。そのやりとりに、今度こそ愛は笑いをこらえきれず、声をあげて笑う。
無邪気に笑う名前どおり愛らしい愛の笑顔、俺は、その愛の笑顔を見るのが好きだった。それは、異性にもつ恋愛感情や、異性に抱く不純な動機からではない。ただ一人の友達として、愛の笑顔を見るのが俺は、好きだった。
それは歩も同じだったのだろう。歩も愛が笑いだした瞬間に大声をだすのをやめて、癒されたように愛の笑顔に見入っている。そのすこしだらけているような表情に・・・おそらく、俺もなっていることだろう。
・・・バレンタインか、そういえば愛は、誰にあげるんだろうな?ふとそんなことを思う。少し前までは自分達がモテないことに悩んでいたというのに、愛がきた瞬間、そんなことはどうでもよくなってきていた。彼女には、そんな魅力がある。彼女が笑うだけで、自分の中にあった不幸な気持ちが、うっすらと和らいでいき、癒されていく。
そんな魅力をもつ、どうみても外見が小学生にしか見えない愛は、一体今年は、誰にチョコをあげるのだろうか?去年は・・・俺たちに義理チョコをくれるつもりらしかったのだが、自分で食べてしまったという可愛らしい失敗をしてしまっている。今年は、やはり俺たちに義理チョコをくれるのだろうか?それとも・・・自分で食べてしまうのか?・・・そして、あまり考えたくは無いことなのだが・・・手作りの心のこもったチョコレートを・・・主に本命といわれるチョコを・・・どこぞの馬の骨ともしれない男にわたす・・・のか?
それを考えた瞬間、俺の中におそろしいほどの寒気が走る。今の季節、寒さは絶頂をむかえている。だが、この感覚は・・・そのかぎりではない。体が凍てつくのではない。心が・・・体の中にあるものが、凍てつくような・・・そんな感覚だった。

「・・・?ゆう、どうした?」

歩が、その俺の様子に気がついて声をかけてくる。だけど、俺はそれに反応することさえできない。・・・かつて味わったこの、自分の中にある心が凍てつくような感覚に惑わされ・・・あることを、思い出していたから。
・・・それは一年ぐらい前だったか。俺が、主人公から、脇役に堕ちた日。空手を失って、次になにをしようとも思えず、毎日精のこもらない日々を過ごしていたあるとき・・・俺が子供の心で、ひそかに恋心を抱いていた幼馴染が・・・彼氏をつれてきて、俺に紹介してきたのだ。そのとき、俺は今と同じような感覚を味わった。自分の人生に絶対不可欠だと思っていた空手を失い、さらに、ちょっと好きになりかけていた幼馴染を失った。そのとき俺は・・・自分が、本当に脇役なんだなぁ・・・と実感した。
その後俺は、空虚な、心のこもらない笑顔をみせて、昌子を絶賛した。その年で彼氏ができるなんてすごいなって。その彼氏のほうにも、昌子と仲良くやってくれよ、とかいっていたような気がする。そして・・・俺はそんな自分が、当たり前に思った。
・・・もしかしたら、そのときと今は、同じなのかもしれない。友達として好きな愛のことを俺は・・・ちょっとずつ、好きになっていっているのかもしれない。一人の異性として・・・。

「おーい・・・ゆう、お前顔色悪いぞ?どうしたんだ?突然風でもひいたのか?」

「だ・・・大丈夫だ、気にしないでくれ」

俺は得意のポーカーフェイスで歩に向き直る。その歩は、本気で俺のことを心配しているようで、手をこちらのでこにもってこようとしている。そんなやさしい友を見て・・・俺は思う。
———もし歩と愛がくっついたら、俺はまた・・・昌子の時と同じように、避けるのか?こんなにもやさしい友のことを・・・裏切るのか?———
ブンブンッと俺は頭をふる。頭をふって、さきほどの考えを切り捨てる。ハッ・・・そんなのくだらない。俺は脇役だ。こいつらは主人公だ。ゲームや小説、アニメとかで主人公とヒロインがくっつくのは当然のこと。そこに脇役がはいるのはありえない。だから俺は脇役に徹して入ればいい。自分はただ、主人公達に媚び諂っていればいいんだ。

「うっわつめてぇ!!おい愛!!ちょっと俺先生呼んで来るからこいつのことみといてくれ」

「ふぇ?わ、わかった!!」

ひぃひぃとまだ笑い続けていた愛は、歩の声で我に返って俺のことを見る。そしておもむろに俺のでこに手をのばして、触れる。そのままびっくりしたような顔になり、突然泣きそうな顔になった。
歩がガタンッと椅子がひっくりかえるのをかまわずに走り出す。自分の利益はなにもないというのに、走り出す。それを見て、やっぱ俺みたいな脇役とは違うねぇ、と自嘲気味に呟く。その間も愛は、あたふたとしていて、どうしようどうしようと泣きそうな顔のままオロオロする。

「おーい・・・愛、俺は大丈夫だから落ち着けって」

そのとき、俺は大分おちついてきていた。自分の中で、ちゃんと整理をつけたから、もう大丈夫だった。もしも、愛が本命のチョコを誰かにあげるとして・・・俺はただそれを、応援すればいいだけだ。友として・・・。

「で、でも裕介、すっごく冷たいよ?氷よりも冷たいよ?」

俺が落ち着けといっても、愛はまだオロオロしている。そして再び俺のでこに手をのばし、また泣きそうな顔をする。・・・こいつ、俺が死んだとでも思ってんじゃないのか?
そんなことを俺が思っていると、突然愛はなにかをひらめいたかのように、泣きそうな顔でポンッと両手を合わせる。そして突然————座っている俺の上に、抱きつくようにすわってきた。つまり、俺の正面に、愛の小さい顔がきていて、互いの息が交差して———

「っておい!?おま、なにやってんの!?」

「か・・・体をあ、温めるときは、人肌が一番っていうし・・・」

「それとこれとは別だろ!?ていうか近い!!近いから!!」

ジャージごしでも伝わる愛のやわらかい肢体。そのことを意識するだけで俺の頭のなかが沸騰しそうなほどに煮えたぎる。思春期真っ盛りの男子にとって、ここまでの女子との密着は・・・やばい、危険だ。
俺は最強の武器であるポーカーフェイスで愛のことを意識しないようにする。愛のことを人形だと思うことにする。

「ど・・・どう?温まってきた?」

心なしか、すごく恥ずかしがっているような愛の声で、ハッと我に返らせられた。愛の顔はもう、これでもかといわんばかりに赤くなっていて、おそらく俺も同じようになっていることだろう。

「あ、あったまったあったまった!!だからもう離れてくれ!!」

そう俺がいうと、再び愛は俺のでこに手をのばす。だけどやっぱり不安そうな顔で、いう。

「まだ冷たいよ・・・裕介、もう助からないの?」

邪気のこもらない、本当の心配している声で愛はそういう。だけど俺はそんなことを考えられなくなっていた。辺りからきこえる野次のせいでさらに恥ずかしくなり、もう・・・意識が———

「ゆ、裕介!!しっかりしてよぅ・・・」

あ、やばい、大分ブラックアウトしてきている。もうだめだこりゃ、意識失うわ。
そう思ったとき・・・愛が、俺の体を強く、抱きしめてきた。そして・・・最後になにかつぶやいていたが・・・俺はそれを聞くことなく、そのまま気絶した。