コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【初企画始動】 ( No.140 )
- 日時: 2011/03/28 14:31
- 名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)
「ようこそ裕介君、さぁさぁあがってあがって!!」
その人こそが嘉子さんだ。倉橋嘉子三十五歳子持ちだ。嘉子さん笑顔で俺のことを家に中に招き入れる。ミントのような、なんともいえないいいにおいが漂う家の中に入った俺は、靴を脱ぎ、嘉子さんに連れられてリビングに入る。
そこに・・・愛はいなかった。
そんな俺の様子に気がついた嘉子さんは、今お茶を持ってくるから、ちょっとまっててね〜といって、リビングに隣接している台所に小走りでむかっていく。俺は適当に勧められたソファに腰掛けて、嘉子さんを待つ。
・・・改めてみると、やはり綺麗な家だった。壁には美しい絵のようなものが飾られていたら、戸棚の上にはなにかのトロフィーのようなものが飾られている。俺の家にもトロフィーはあるが、それは俺が空手をやめて以来、外にだしていない。俺が主人公の自分と縁を切るために、まず最初にやった行動がそれだったことを、今も俺は覚えている。
テーブルは白いテーブルクロスで覆われ、真ん中には色とりどりの花が並ぶ花瓶が置かれている。お母さんは優しそうで、お父さんは正義の使者たる警視総監、それを並べるだけで、愛は、すごく恵まれていた。
おまけに愛は可愛いし、・・・西島さまいなければ、モテていたに違いない。年相応の外見ではないとはいえ、そういう・・・なんというか、ロリ関係のほうがすきーっていう男子にはモテていたに違いないし、それに・・・なによりも、やさしい。育った環境がとてもよかったというのもあるが、それが・・・愛の一番の魅力だ。
清く美しい。それが俺が倉橋家に言える一言だった。
「はいはーい、お茶持ってきたよ〜・・・てああ!!もしかしてジュースとかのほうがよかった?」
お茶を湯のみにいれてもってきた嘉子さんは、途中までもってきておいてそんなことをいう。別に飲み物を飲みにきたわけではないので、お茶でいいですよ、と自然な作り笑いをうかべる。嘉子さんはそれに、よかった!!といわんばかりに顔を綻ばせ、歳が段違いに離れている俺でもドキッとしてしまうような、美しい笑顔を見せる。
俺はお茶を受け取り、それを一気飲みしようとするが、熱かったのでそれを断念した。ちびちびとお茶をすすって気がついたことなのだが、どうもこのお茶・・・うまい。俺がいつも飲んでいるコンビニとかスーパーで買ってくるようなお茶と違い、こう・・・コクがあるっていうか、香りがいいっていうか・・・まぁ語彙の少ない俺からはなんとも言えないよさというのが、このお茶にはあった。
愛は部屋にいるから後はよろしくね〜、と言って去っていった嘉子さんに、おいおい他人を警戒しないで大丈夫なのかよとか思いながら、別にそういうやましい事をしようとなんてしてないからまぁそれを心の中でつぶやくだけにして、俺中身が無くなった湯のみをテーブルの上に置く。おいた後俺は一度リビングをでて、愛の部屋にむかった。愛の部屋は、リビングと玄関の間、つまり廊下の中間あたりに入り口がある。俺はそこに向かって歩き、『まな☆』とかかれた札のかかるドアの前にたつ。
・・・実際、俺は昨日愛といい分かれ方をしなかった。愛は昨日、あの後俺のことを無視するかのようになにもしゃべらなかった。そして俺も、何もしゃべらなかった。全ての原因は俺にあるのに、俺は愛に謝りもしないで、そのまま帰ってしまった。あの時・・・俺が具合を悪くしなければ、あの時、俺がもたもたしていなければ・・・愛は、俺のことと、西島のことで———悩まなくてよかったのだ。
「・・・愛、いるか?」
コンコンと、ノックしてからそういう。だが、返事は返ってこない。俺は一度、軽いため息をついてから、入るぞ、といって、ドアを開ける。
「ちょ、ちょっとまって!!まだ片付いて無いから!!」
空けようとした瞬間、愛がドアを必死の形相で閉めようとしてくる。それに俺はびっくりして、ドアノブから手を滑らせてしまい、おもいきりずらして、ドアの隙間に手が行ってしまう。愛はそれに気がつかないままドアを閉めて・・・俺の手は当然、その隙間に挟まり、すさまじい痛みが俺を襲う。
「ぬおぉ・・・」
だが、俺は痛みを押し殺し、声をも押し殺し、たったそれだけの呻きだけですませた。愛はドアをしめたとおもったのに、なんか変な感触がしたなと気がついたらしく、その場所を見る、そして・・・ドアを思い切り開ける。
「ゆ、裕介!?ちょっ・・・ちょっと、大丈夫!?」
ドアを思い切り開けて、俺の手を両手でつかむ。俺はあ、ああ・・・まぁ大丈夫だ、と引きつった笑いで返し、痛む左手になるべく意識がむかないようにする。幸い・・・といってもいいのかどうかわからないが、挟まれたのは左手の人差し指と中指だけだった。ジンジンするし、手が一向に動きそうに無いが、こんなものはただのイレギャラーだ。俺の体の痛みなんて、関係ない。
俺は邪魔するぞー、といって愛の部屋に勝手に入っていく。愛はもう一度それを止めようしたが、さっきのような失敗は絶対にしたくないと思ったのか、しぶしぶ俺を部屋の中に招き入れて、ドアを閉める。
「・・・なんだよ・・・綺麗じゃねぇか」
愛の部屋にはいって、まず俺が放った言葉それだった。愛の部屋は小学生の女の子の部屋・・・妹の部屋となにかかぶるところがある。全体敵なピンク色を基準とした部屋だった。一人用ベッドにはフワフワの羽毛布団があり、その上にはぬいぐるみが置かれている。
机は綺麗に整頓されており、床には染み一つ無くゴミ一つ見えない。・・・これのどこが、片付いていないというのだろうか?
「うう・・・まだ片付け終わってなかったのにぃ・・・で、でも裕介、手・・・手は大丈夫?」
愛はそれでもなにか不満だったらしいが、すぐに表情を変えて俺の手をもう一度見ようとしてくる。それを俺はかわして、大丈夫大丈夫、と適当に返して・・・やっぱり愛は、自分のことよりも他人のことを大事に思う、やさしいやつだな、と実感する。・・・昨日、俺のせいで愛はもしかしたら人生を狂わされるという風な感じになって、今日、学校を休んでしまったというのに、突然たずねてきたその元凶が目の前で怪我をすれば・・・当然のように、そちらのほうを心配する。
俺は・・・こんな心優しい少女をこれから傷つけようとしている。俺がノロマでトンマなばかりに、・・・西島に弱みを握らせてしまい、それを傍観しようとしている。自分はなにもしないで、ただ愛の・・・判断を、促そうとしている。
「俺は大丈夫・・・大丈夫だけど、お前のほうこそ、大丈夫なのか?」
俺は真剣みを帯びる声でそういう。これは脇役としての俺ではない。俺自身の気持ちでたずねていることだ。こんなに心優しい少女一人に、全部を背負わせるなんてやはりできない。脇役でもなんでもいいから、できることは・・・やろうと、俺は決心する。