コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【初企画始動】 ( No.147 )
日時: 2011/03/31 01:59
名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)

愛はそれに一瞬ビクッといったふうな顔になって、うつむく。俺は左手を隠すようにポケットに入れて、愛の答えをまつ。前のことで俺が怒ってないことなんて、もう愛はわかっているだろうから、そんなことはもう口に出さない。今はもう、ただ愛の決断を聞くだけだ。
愛は、うつむいたまま、震えていた。・・・俺がきたと聞いて、なるべくそのことを考えないようにしていたのだろう。たまっていたその恐怖が押し寄せてきて、震えだしてしまっているのだろう。だけど、その小さな体を抱きしめて、大丈夫だ、安心しろ・・・などという言葉を、俺はかけられない。ただ肩に手をおいてやり、無理するな・・・というふうに、言うことぐらいしか、できない。
愛は・・・もしかしたら、俺のために、俺に気遣って、・・・ただの脇役のために、自分の人生を捨ててしまうかもしれない。そうしてしまったらもう俺には、愛になにもいうことができない。だけど・・・もしも、もしも愛がいやだと一言でもいったら、俺に迷惑をかけるかもしれないけど、それでもいやだといったら———俺は、西島を、殴る。
ただの脇役の俺にはそんなことしかできない。脇役である俺は、裏方でいいんだ。愛が承諾してしまえば俺には猛裏方の仕事もなくなる。
だけども、愛がもしもいやだといったら———裏で、西島を打ち殺す。それは俺のためではない———愛のために、主人公のために・・・いま俺が見てきた中でもっとも輝いている主人公のために、やるのだ。
そう、改めて俺が決意を決めたとき———愛が小さく、こういった。

「私は・・・大丈夫だよ」

それはか細くて、本当は大丈夫じゃないのに、無理していっているのが鈍い俺でもわかるぐらいのものだった。愛は笑顔を俺にむけてくる。
一見それは本当に心の底から大丈夫だよと笑っているかのようだが———俺は目を細めて、見つめる。愛の瞳はちっとも笑っていない。愛
の瞳には———小さな、涙の粒がたまっていた。・・・それは、脇役として鍛えぬいた見極める力・・・主人公と脇役を見極める力の応用のようなもので、相手の本心を顔のどこからか確認する・・・といったものだった。

「だから裕介はさ、心配しなくて大丈夫!!こう見えても私は強いんだよ?」

弱弱しくそうつぶやき、精一杯の笑顔で俺のことを助けようとしてくれる愛。愛が大丈夫・・・といったということは、それは俺を助けるために、自分の人生をむげにしてもいいということだ。
———それが分かった瞬間、俺は・・・愛が決めたことには一切口出しするつもりはなかったのに、従うつもりでいたのに・・・どうしてもおさえきれなくて・・・脇役である俺が、かつて空手を失ってなくしていたはずの主人公の心に———打ち負けたのだ。
気がついたとき俺は、もう愛の細い腕をつかんでいた。パジャマ越しにもわかる愛の体温、愛の細くて、力をこめたらすぐに壊れてしまうのではないかというぐらいしなやかな腕・・・それをつかんで、顔を精一杯愛に近づけて、もうすぐで口と口が重なりそうな位置までもってきて———俺はつぶやく。

「・・・本当に、それでいいのかよ?」

今まで、愛に一度も聞かせたことの無いドスの聞いた声。脇役になっていらい一切出すことの無くなったこの声は、一度空手の試合で俺に負けた上級生が、逆恨みで俺のことを殴りかかろうとしてきたときに、ただ、あ゛?といっただけで上級生を泣かせてしまうほどに怖く、妹が俺を本気で怒らせてしまって時はよく使って本気で大泣きさせてしまったというほどに・・・強烈なもので、当然・・・愛はもの声を聞いた瞬間、体を縮こまらせ、腕をつかんでいる俺の手をふりはらおうとして、だけどもあまりの怖さに腰が抜けてしまいその場にへたり込んでしまった。それはそうだろう。一応これでも俺は学校ではやさしいキャラで通っているし、愛の俺に対する印象もそれと代わらないだろう。だというのに、そんなやさしいという印象がある俺が———突然、威張る子も泣いて逃げるほどの声を出したことに驚いてしまっているのだろう。
愛の目に恐怖が色濃く浮かび上がる。俺の声は、それはもううちの父親がいうには暴力団の幹部がドスを聞かせてしゃべったときみたいだというぐらいで、女の子には絶対に使うなよとかいっていた。だけど・・・今はそんなの関係ない。今の俺は・・・脇役を一時的に捨てる。
その覚悟がなければ・・・もう一度、でしゃばって主人公に戻らなければ———この優しい心をもつ少女を、救えない。
俺は、腰がぬけてへたり込んでしまった愛に目線を合わせるために片膝をついて愛を睨む。そうだ・・・それでいい。俺が愛に嫌われれば———愛は俺のために自分の人生を投げ出そうとなんてしないだろう。愛は俺のために、自分の嫌いな相手に・・・告白しなくてすむだろう。そう、俺はどこかでこう思っているのだ。どうでもいいと思っていた宮西第二中二年生カップル伝説・・・一生に一度しかないこの絶好のイベントを・・・愛には成功してもらいたいと、そう思っているのだ。そして俺はそう思って始めて気がつく。・・・俺は、愛のことが———倉橋愛という一人の少女のことが———友達ではなく、一人の異性として・・・好きになり始めてきているのだと。
だから俺は、愛に嫌われる覚悟を決める。今の俺は脇役として愛に接してはならない。脇役に戻れば、俺は愛の決意をそのまま飲んでしまうだろ。だけど・・・一時的とはいえ、今の俺は主人公だ。自分の中でだけだけど、主人公になっているのだ。ならば———愛の決意を、踏みにじることも出来るはずだ。
俺は思いっきり愛に顔を近づける。その間にも俺の目つきは普段の数倍以上に鋭くなり、おそらく獲物を射抜く狩人のような目つきになっていることだろう。愛はそれにヒッ・・・と小さな悲鳴を漏らして、俺から遠ざかろうとするがそうはさせない。俺は愛のたよりない肩をガッシリとつかんで、真正面から睨みつけた。

「愛・・・お前は、こんな俺なんかのために自分の人生を台無しにしようって言うのか?」

再びドスの聞いた声。それを聞いて愛は遂に涙を流してしまう。あまりの怖さと・・・見るに、西島に対する嫌悪感から———涙を流す。