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- Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【初企画始動】 ( No.148 )
- 日時: 2011/03/31 02:01
- 名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)
俺はそれに一度納得する。やはり愛は———西島のことが、本当に嫌いなようだな、と。
「俺はお前じゃない。人間っていうのはわが身が一番大切なはずだ。なのにどうしてお前は俺なんかのために自分の人生を台無しにしようとする。お前が西島を裏切れば、ただ俺の悪口が女子の間にひろがるだけだし、そっちのほうが代償が少ない。なのにどうしてお前は自分の人生を代償にするんだ?」
「ふぇ・・・ふええぇ・・・」
愛は俺の目と、声と・・・西島という単語に反応して、遂に幼子のように泣き始めてしまった。声をあげて、怖がっていたはずの俺の体にひしっと抱きついてくる。それを俺は———やさしく抱きしめる。幼子をあやすように、やさしく、やさしく愛の背中を、撫でてやる。
・・・俺は、どうやら愛に弱いようだった。主人公になった俺でも・・・愛が抱きついてきた瞬間、愛をこれ以上怖がらせちゃいけないと思ってしまうぐらいに、だめだった。愛が俺のことを嫌うようにしようと思ったが———それは無理だった。だけど———まだ大丈夫だ。
愛に嫌われるとかそんなんは失敗してしまったらもうどうでもいい。今は・・・愛の決意を、踏みにじればいいだけだ。
「・・・愛、お前はやさしいよ。二年間お前と交友を深めて初めて気がついた点がそれだ。お前は争いを好まない。自分のことよりも他人のこと。たしか———お前はほかの女子がこけて倒れそうになって、たまたま机のかどに頭に行きそうになったところを・・・その女子の前に回りこんで、自分だけ後頭部をぶつけたってことがあったよな———お前はその後になんていったか、自分で覚えているか?」
「うぅ・・・ふぇええ・・・」
ふるふると首をふりながら、愛は泣き続ける。その間も弱弱しく俺にしがみついて離れようとしない。そんな愛に俺は・・・言葉を続ける。
「お前は・・・大丈夫だった?っていって、その後笑ったんだよな。そいつはお前のことを一番に嫌っている奴で、いっつもお前の物を盗んだりなんだりしていたやつだったていうのに、お前は助けたんだよな?だからお前はすっげーやさしい・・・やさしいから、今回も、俺のことを庇おうとしているんだろ?」
愛はまだ嗚咽を漏らしている。もう俺の言葉はあまり聞こえていないようだった。昨日今日でためこんで不安は、俺なんかよりもずっとずっとすごくて、それはもう中学生の女子・・・その中学生より幼い心をもっている愛にとっては、とても耐え切れるものではなかったんだろう。だから———俺に対する恐怖とともに、それが爆発したんだろう。俺は愛の背中から、フワッとシャンプーの香りがただよう愛のサラサラな髪の毛の上に手をおいて、そっと撫でてやる。
「・・・愛はそれが、俺のためになる、とか、自分よりも俺のことをが大事・・・だとか思っているんだろうけど。そんなことはない」
「・・・?」
愛がようやく、俺の言葉に反応して顔をあげる。涙でいっぱいのその顔は、いつも以上に幼くて———なんとしても、守りたいと思うような、感じだった。・・・その瞬間、俺のなくしてしまった記憶、昔から感じていた違和感の中のなにかと・・・愛の今の表情が、一致したような気がした。
「俺はな・・・愛にそれをやられるのが一番迷惑なんだ、それが一番嫌なんだ。愛は俺のためとか思っているかもしれないけど・・・全然俺のためなんかじゃない。俺は・・・自分の身とかそんなんよりも、愛のほうが大切なんだ。なのに愛は・・・そんな俺が大事に思っているものを、無碍にするのか?」
愛の目が、大きく見開かれる。実際俺は、このセリフを言うのが気恥ずかしくてしょうがないのだが、もうここまで来たら一気に畳み掛けるしかない。だから俺は・・・恥ずかしさを我慢して、こう宣言した。
「愛は・・・西島の脅しに屈するな。そのために・・・俺はどんな手助けだってしてやる」
その瞬間・・・再び愛の瞳から、涙があふれだした。