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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【初企画始動】 ( No.165 )
日時: 2011/04/24 23:08
名前: だいこん大魔法 (ID: OkVLMN/u)

またブチィッ!!という音がなる。あまりの痛みに一瞬俺は意識を奪われそうになりつつも西島に殴りかかる。西島は俺のことを怯えた目で見ていたが、もうそれも気にならない。・・・そのときの俺はもう———なにかにとりつかれたように———西島のことしか、西島を———殺すことしか、頭になかった。
今思えば不自然な話だ。俺は西島にただ怒りをぶつけるために一発か二発拳を叩き込んでやればいいと思っていた。なのに、どうも俺の意識と体は———自分の体の痛みなんてもう他人事のように・・・変化していた。
俺はもう、怒りなどなかった。ただただ笑っていた。凶悪な笑みをうかべて笑っていた。西島はそれに再び怯えて、

「く・・・くるなああぁぁ!!ば・・・ばけ、化物おおぉ!!」

と情けなく喚き、俺に必死の抵抗を試みる。だけど俺は西島の右肩をつかみそれを後ろに持っていき拘束。そうしたかと思うと、そのまま西島の間接をはずすべく・・・その腕を、曲がらない方向にねじまげようとした。

「・・・てっめぇ!!こうになにしてんだ!!」

だがそのとき、後ろから割ってはいる影があった。そいつには見覚えがある。いつも西島とつるんでいて、不良の先輩と仲がいいといわれている・・・名前はしらんが、とにかく西島の腰ぎんちゃくてきなやつ。そいつが俺に殴りかかってきたかと思うと、他の西島の腰ぎんち
ゃくどもも、見てられないといわんばかりに一斉に飛びだしてくる。それに俺は、一度ハァ・・・とため息をついたが———目を一瞬にしてギラつかせて———西島のことをはなす。
・・・正直、普通の、運動もしていない、平々凡々主人公以下のやつが、同じぐらいの年のやつらにかこまれて勝てるわけが無い。当然今もそれと同じだし、なによりももう———俺の足は、立っているだけでも限界なほどに、鋭い痛みを発していた。
それが分かった瞬間、俺はようやく自分の意識を取り戻す。そうだ———もう西島を殴った。俺の思いを拳にこめて殴った。だからもうこ
れでいい。第一こうなることなんてわかっていた。西島の腰ぎんちゃくどもは西島が捨てた女を寄ってたかって欲する。そのため、西島のことをいつも尊敬し、溺愛していた。だから、俺が西島を殴った瞬間にこいつらがでてくるんじゃないかと予想はしていた。だから・・・もういい、これで俺は———また、一回だけだけど———主人公になることが・・・できたんだ。
そして俺はふっ・・・と笑い、まずは顔を、そして次に腹を、肩を、胸を、頬を、頭を、背中を・・・殴られ、蹴られたりしながら・・・宮西第二中学校二年生カップル伝説まっさかりだった廊下に———倒れた。
どこからか女子が悲鳴をあげる。男子たちが西島の腰ぎんちゃくどもを押さえにかかる。だがしかし、それはかなわない。西島のおかげで女子と話せて、さらに仲良くもなれて、彼女まで作ることの出来ている奴らにとって、西島は恩人だ。その恩人が殴られているだけでも黙っていられないというのに、普通に一撃もあたえることができずに、無様にやられているようを見てしまえば、もう怒りが沸点に達するはずだ。だから、押さえにかかる男子生徒を殴り飛ばし、俺の顔面を蹴り飛ばし、廊下を転がしたかと思えば、次に思い切り腕を踏みつけてくる。その非道な行為。倒れて動けない人に、さらに暴力を振るうという、ちょっと常人からはなれている行為をその身に感じながら、俺は達成感に満ち溢れていた。・・・俺は、愛の変わりに西島と拳を交えた。そして勝った・・・といってもいいかどうかわからないのだが、とりあえずは俺が優勢に終わった。ならば、もういいのだ。俺の体がどうなろうと、俺の体が一生使い物にならないものになったとしても、それでいい。
足の痛みのおかげで、もう俺の体は麻痺していた。痛みも感じなくなったし、もうほかのことがどうでもよくなってきている。
・・・西島はとっくのとうに逃げてしまっていた。この騒ぎの中心人物になりたくないといわんばかりに逃げていってしまっていた。
一人の蹴りが鳩尾に入る。一人の蹴りが鼻を蹴る。目を蹴る。耳を蹴る。そんな行為を何度も何度もその身に受け続けた俺は・・・当然のように、血を吐き出した。
だが、まだ終わらない。怒りが限界を超えた人間はもう、常人の思考をもたないと誰かが言っていたようなきがする。それは火事場の糞力と同じような原理らしいのだが、もうそこまで考える思考は俺には残っておらず———ただただ、血を吐き出した。
・・・気持ちわりいな。
このままだと、給食が逆流しちまうな———そして再び・・・ピンチな割には、余裕な俺だった。
一人の男子生徒が、力まかせに腰ぎんちゃくの一人をおさせこんだ。それに、ほかり生徒が押さえにかかり、ようやく一人押さえ込むことに成功した。だが、ほかのやつらはそれを無視して俺のことをボロ雑巾のように扱う。
・・・俺はもう、主人公ではない。愛のために拳を西島にぶつけ、俺の主人公としての役目は終わった。だから———もう俺は脇役だ。だから脇役は脇役らしく———おとなしくしていればいいのさ。そう自分の心に言い聞かせた。
廊下の端、反対側のほうからすさまじい雄たけびが聞こえてくる。生徒のわきを駆け抜けてきたその人物は———歩だった。・・・愛を図書室につれていったはずの———歩だった。

「テメェらなにやってやがんだ!!」

そういいながら歩が一人の腰ぎんちゃくをタックルで突き飛ばし、それをほかの生徒がおさえる。さらに歩は拳を振るって腰ぎんちゃく一人の顔面にめいちゃうさせる。そいつは倒れ、ほかの生徒におさえられる。一人になってしまった腰ぎんちゃくは———そのまま、西島が逃げていった方に逃げていってしまっていて———もう、誰もいなくなっていた。

「おい!!ゆー!!大丈夫か!?」

歩が俺の肩を抱きかかえて、上半身だけ持ち上げる。だがしかし、片目が完全に開かなくなってしまっている俺には、それを確認することができない。だから感覚でそれを悟ったのだ。生き残っている右目は歩の事を見ていないで・・・歩と一緒に図書室にいっていた愛が、ここにいないかどうか、確認する。

「・・・歩、あいつは———愛は・・・」

「・・・」

そう俺が途切れ途切れに聞くと、歩は残念そうな顔になり・・・生徒が野次馬を作っている一角の先頭にいる・・・小さな、少女のほうを・・・見る。それにつられて俺も目をやり・・・ああ、とため息をついて、あきらめの色を表した。
・・・愛は、きていた。歩と一緒に、ここにきていた。愛に心配かけまいと一人で終わらせようとしたのに・・・結局、見られてしまった。
そしてあきらめた瞬間に・・・俺の意識が、だんだんと薄れていっていることがわかった。
愛は顔面蒼白になっていて、こちらに駆け寄ってきた。歩に支えられる俺の顔のあちらこちらから出ている血をハンカチでふきとったり、涙を流して俺の名前を呼ぶ。それに俺は・・・ニッコリと笑い返してやり・・・うごかない腕を無理矢理動かし———愛の頭を、なでてやる。
愛は・・・もう、このことを知っているのだろう。歩からすべて、聞き出したのだろう。俺が、愛に心配かけさせないために、一人で勝手にやった行動———逆にそれが、愛を泣かせるようなものになったとしても、俺は・・・愛の人生を・・・ただ明るいものにしたかったのだ。だから・・・もう、いいんだよ、愛の涙を見ても・・・なにも感じなくていいんだよ・・・歩も・・・大声で先生を呼ばなくてもいいんだよ。すべては終わった。この事件は終わったんだ。だから、一旦家に帰らせてくれ———もう休みたいんだよ・・・。

「・・・ゆうすけぇっ、なんで・・・なんでこんなことするのぉ・・・ヒック・・・私なんかのために———」

だが・・・その言葉を聞いた瞬間———俺は、口を開いてしまっていた。愛の・・・私なんか、という言葉に反応して———俺は、口を開いてしまっていた。
それはもう・・・他人が聞いたら恥ずかしくなるような言葉で———愛自身にも・・・勘違いさせてしまうような言葉だったのだと・・・後で俺は気づかされることになるが・・・ま、それはほっといておこう。

「・・・私なんか?・・・愛はなんで自分を下に見るんだ?・・・愛は魅力的だし、どんな女子よりも優しくて、俺が今まで見てきた女の子の中で一番素直で・・・可愛い。そんな愛のために、俺なんかがしゃべりかけていいのか?とか思うこともあるぐらいだ・・・。だからさ・・・そんな魅力的な女の子の人生を・・・ただ俺は、明るいものにしたかっただけ・・・なんだよ———」

愛の瞳が涙でいっぱいになる。目を見開きながら、俺を見下ろしてくる。それに俺は笑いかけながら・・・意識を無くしていく。
ああ・・・ブラックアウトするな———そう、俺は遠くで聞こえるチャイムの音を聞きながら———意識を落すのだった。
その瞬間・・・俺は、ある言葉を聞いた。それは誰がいったものかはわからない。だけども・・・俺の近くにいた人物がいったということだけは・・・なんとなくだが、理解できた———
そう・・・それはひどく優しい声で———ひどく可愛らしい声で———

「裕介・・・大好き」

ひどく———愛らしい、声だった。