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- Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【本編再開】 ( No.177 )
- 日時: 2011/05/07 09:42
- 名前: だいこん大魔法 (ID: OkVLMN/u)
「ヒャハハハハ!!オメェおもしれぇなぁ!!なんだ?魔術のこともろくに知らない新米契約者君が、おめぇのご主人、魔術師の世界では知らない者はいないといわれているほどの実力者であるエルシャロン・ユアハーツでも倒せなかったこの俺を倒すとでも!?ヒャハハハ!!なんちゅう笑い話だよおい!!」
そして———次の瞬間、表情を一変、まるで親の仇でも見るような目つきになり———
「———さっきはうまくいったからって調子くれてんじゃねぇぞクズが!!」
ロンギヌスをその場で一振り、青い、氷の障壁にような一撃を俺に向かってはなつ。それに俺は、目を鋭くさせて反応する。速度はもう、人間の目では捉えられないほどに早い。おそらく・・・音速と同じぐらいだ。それを俺は見て———見て———感じて———目の前に来た瞬間、刀を横薙ぎに一閃———次の瞬間、氷の障壁は音を立て、ガラスが割れるのと同じように———一気に崩れていく。
だがそれはまだ終わらない。一瞬にして砕けていったそれは、一度全てが地面に落ちる。だがしかし、コンクリートの上でそれは再び形を作り———グレンが持っているロンギヌスとほぼ同じような形の槍が———俺の斜め下から襲い掛かる。
それも俺は、刀を振るって防ぐ。だがしかし、この槍は先ほどの障壁よりも強度が強く、一度俺の刀は弾き返されそうになるが———負けはしない。属性で考えるのならば、魔術師の世界では氷のほうが強い・・・だけども、俺の中の常識では———そんなものはない。俺の中だけにある・・・人間としての記憶から———炎のほうが、強い!!
俺の刀の炎が再び荒れ狂う。その炎は左右に分かれ、そのまま槍を包み込むようにして集まる。槍は完全に紅蓮の炎につつまれ、次第にその力、俺が押さえつけている槍の進行の力が———弱くなる。
氷は・・・溶けていた。属性の理を無視して、溶けていく。エルでさえもその氷を溶かすことが出来なかったといっていたその氷は、俺の【禁呪】の片割れによって、溶かされた。
炎は氷よりも強い———俺が脇役として過ごしていた人間の世界の常識。氷は暑さに弱く、炎はただ水に弱い。だけども、炎は一滴一滴の水では消し去ることは出来ない。氷のように、溶けていくにつれ一滴一滴水をたらしていくようでは———荒れ狂う業火には、かなわないのだ。
・・・人は常識に囚われる生き物だ。それがたとえば、常識により救われるものであったり、常識によって屈することもある。おそらく、ここからは俺の仮説で、エルはこいつと戦ったとき———炎は氷には適わないという魔術師の常識のせいで屈した。だけども、俺は違った。
魔術師の常識ではない・・・人の常識で、俺は———救われた。
炎は氷よりも強し。そう思えるようになり———俺は、少しだけ希望を見出せたような気がした。
「・・・偶然ってわけじゃぁなかったみたいだなぁ?」
さっきの一撃でしとめられるとでも思っていたのか、グレンがそうつぶやく。それに俺は首を振る。首を振って———
「———偶然さ。俺がこの世界にいるのもエルと出合ったのもお前と対峙しているのもすべて・・・偶然の賜物だ」
そういって俺は刀を持つほうの手を前にし、グレンにその切っ先をむける。さきほどの槍はもう完全に溶け切ってしまっていて———再び、対峙する形になった。
グレンが、ゆっくりとロンギヌスを持ち上げる。ロンギヌスの魔力が、動くたびに空気が振動し、グレンの周りが水色に染まっていく。
空気の残量はまだあると思われる。今のうちにたくさん吸っておいたほうがいいのかもしれないが、その深呼吸さえもが今は命取りだ。だから俺は・・・空手の試合で強敵と当たったときのように———真剣な面持ちで、グレンのことを———対戦相手のことを———静かに睨みつけるのだった。
「・・・炎は氷よりも弱い、そういった属性の理で余裕をぶっこいていられない相手のようだな———テメェだけは」
グレンの声色に真剣見が降りる。それはさきほどまでとは違う。歴戦の戦士を思わせる気迫で・・・ついに、こいつの真の姿を垣間見ることが出来たような気がした。
俺は刀を握る手に力を込める。その瞬間に刀に宿る炎が荒れ狂い、俺の周りで踊る。グレンはそんな俺の姿を見て———表情の無くなった、・・・完全に、【禁呪】にその意識を預けているといった風な感じの表情で———こう、俺にいった。
「・・・なぁ、どうして俺が氷翼って言われているかわかるか?」
「・・・?」
その言葉に、俺はピクッと反応する。そういえばそうだ。こいつは【氷翼の魔術師】という名前のくせして、その翼をもっていない。いや———だしていない。それはどうして?それを俺が考える前に———グレンは・・・言った。
「それは———俺が翼をだしちまえば———戦いのあとにゃぁ———そこになにも残らないからだ。俺が築いた関係も、俺が生きてきた街もそのすべてが———消え失せる」